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君を守りたい  作者: 長井雪
第二部
58/62

君に両手いっぱいの花を[一籠]

前話のとき、たくさんの第二部を待っていたと感想やメール、コメントを頂き本当にありがとうございます。ゆっくりになってしまうかもしれませんが頑張っていこうと思います。

 王都の中心地。王城に最も近い街の大通りに豪奢な馬車が停止した。


 馬車の扉が開き茶の髪の少年が地に降りた。濃紺の生地に金刺繍の施された貴族的な衣装を纏っている。だがその所作こそが彼を貴族である事を示していた。そして馬車の中にむかって少年が手を差し伸べる。


 その手にほっそりとした白い手が重ねられた。現れたのは純白。それを纏った金の髪の少女だった。少年に手を取られ、少女は少し緊張しているようだ。その姿は儚く、そして美しかった。


 その姿はまるで物語の小さな騎士と幼い姫のようで。





 街の至るところに花が飾られている。上流階級御用達の店がつらなる王都の城下町、そこから中流階級の市場まで祭典は行われている。だから祭には階級に、そして国境の区切りなく様々な人がいた。


 アリアとエミリオもその人々に加わる。そして中央広場に向かって歩いていると町の人に花籠を渡された。


「花籠?」

「この祭りは女神に花を捧げる祭りなのだそうです」


 この祭りに参加したことのないアリアにエミリオが教えてくれた。自然に目と目があってしまう。焦ってアリアは目線を下げた。

 アリアは今日この行為を何度も繰り返してしまっていた。



 エミリオはアリアを馬車で迎えに来てくれた。なにより顔色がとても良く、そしてアリアの贈った剣を身につけてくれていた。それが嬉しかった。でも――


 彼は聞かない。巻き込まれたのに、命の危険があったのに。

 エリクのこと、聞かれたら――嘘を言わない為には沈黙しか私には手段がない。

 手紙でも聞かれなかった、だからきっと今日は聞かれると思っていた。でも、会えて嬉しいとしか彼は言わなかった。それに加えて久しぶりに会うせいか、なぜか気恥ずかしくて目が合わせられなかった。


 私たちの距離は、どうだったのだろう。


「私に会うのは嫌でしたか?」

「そっそんなことありません!!」

「では、なぜ?」


 二歩分の――不自然に開いてしまった距離のことを言っている。


「……久しぶりにお会いしたので、どう接したらいいのかと」


 二つの理由のうち、話せるほうだけを話す。嘘はつきたくなかったから。

 すると彼は――



「では、いつもの私たちを思い出しましょう」


 少し強引に手がつかまれた。彼がそのまま歩き出す。足が縺れそうになった。何をするのです、そう言おうとした。でも、振り返った彼は表情一つで、私に告げていた。


 私に任せて、私を信じて、と。




 朗々と声が響き渡る。語り手は派手な衣装を着た仮面の男。

 アリアはエミリオに手を引かれ、多くの人で溢れるその場所で立ち止まった。

 大通りのその一角は舞台と化す。


『ようこそ、ようこそ旅の方。此度は我ら剣誓の国の女神祭に参加して頂き感謝しております。そして勿論、その他の全ての方にも感謝しております』


 仮面の男は大げさなほど大きく礼をする。


『この祭りを知らぬ旅の方、幼くまだ知らぬお子様方、そしてよく知る紳士淑女も是非ご覧あれ』


 耳元で囁くようにエミリオが言った。


「毎年、このように広場では劇をするのだそうです。今年は祭典の起源というところでしょうか――」


 話し声を断ち切るように語りがはじまる。


『まずは語ればなるまい。この三国を』


 三国、と聞いて思い浮かぶのは列強三国の事だった。アリアは教書に書かれている内容を思い出す。何度も読み、諳んじる事も難しくはないそれを。


『一つ、剣誓』


 ――の王国。三国の中でもっとも南方にあり温暖な気候。長く歴史があり、繁栄を享受している。王と貴族によってつくられた国。

 昔も今も変わらない私の祖国。私の誇る――

 剣によって誓いを捧げる国。


『二つ、血盟』


 ――の帝国。三国の中では歴史浅く、北西にあり、すべて雪に隠される閉ざされ国。皇族や豪族には銀髪をもつものが多く戦いを好む血を継いでいる。

 その浅い歴史はすべて戦の歴史だ。私が戦った国。

 血による盟約を尊ぶ国。


『三つ、華冠』


 ――の公国。三国の中で東南にあり、資源豊かな貴族の国。剣誓と長く続く友好国。交渉上手で一度も戦端を開いた事がない。

 剣誓とは交流も多く、きっと彼が留学に行くというなら華冠なのだろう。

 王のいない貴族だけの国。



 道化は語る言葉を止めず。


『――この三国が均衡をたもち和平となる。この祭典はその証』



 とても遠い場所に、今いるのだと思い知った。



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