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君を守りたい  作者: 長井雪
第二部
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久しぶりの日記

――久しぶりの日記である。な、なにを書けばいいのか

(何故か緊張してしまうな)

 この様に日記を書かなかったことなど……あるな。早々に嘘を書くところだった。一月程書かなかったことが前にもあったな。前の項は、エミリオ少年の誕生日の前日か。長い様な、短い様な、上手くいえぬ感じである。


 この一月、エミリオ少年は無理がたたって自邸で療養をせねばならなかった。熱が出ているというのに、私が乗せた馬車の御者に引き返させ、敷地に着くや否や塔まで全力疾走。そして私という重しまで受け止めてくれ――倒れぬわけがなかろうが。


 日を空けず届く彼からの手紙には、もうほぼ完治しているのに念のために身体を休めているのだと書かれていた。

 とても、とても心配なのである。――療養初期から手紙に病は酷くないと書かれていた。だがそれが彼の優しさであることは疑う余地はない。


 そして私も灰塵など吸い込んでしまったからと、彼に比べればまるで問題がないほど軽度であるが、過剰なまでの強制的な療養を家族によって余儀なくされた。

(監視つきの軟禁といったところかな)

 エミリオ少年に会いたかったが脱走はしておらぬ。メイドに涙ぐまれながら『お嬢様が無事で、本当に、本当に良かったです』と事あるごとに言われるのである。

(抜け出そうものなら、どうなるか……ふっ牢のいらぬ天然の要塞であるな)


 なので見舞いにも行けず本当に久しぶりに、明日、彼に会うのだが――王都での春の祭典、花の女神祭に誘ってもらったのだ。

(『心配かけたのう。だが案ずるな。元気になったぞ。そちも快癒したと聞き及んだゆえ祭りに行こうではないか』とお誘いの手紙が来たのである)


 一月振りなのだ。ど、どうしよう。ふ、普通にいけばいいのか。

 もうあと数時間後には会うのだからぐだぐだ考えても仕方ないというのに私は、もう駄目だな。


 むしろメイドたちの方がよほど乗り気であった。花祭りに誘われたゆえ、その準備を頼みたいと、手紙の内容を伝えたときに『やはり思いあっていらっしゃるのですね!!』『苦難を乗り越え、かたく絆で結ばれたお二人!』『もう婚約間際ですわよね』そして最後には『お任せください。全力を尽くします!!』という会話に気が遠くなってしまった。

(身体はもう全快であるのにな、はは)


 今世間ではこう噂されているらしい。ハーウェルン家とヘイクリッド家、公爵家同士の政争があった。


 真実は闇の中であるが、事実として元公爵は死亡。そして公爵家の王太子の覚えもめでたき後継者殿は人質として囚われてしまった、あ、愛する美しき少女を自らの手で救出したという――まるで物語の様な出来事があったのだ、という噂である。


 だがこれは物語ではないので噂には続きがあり、ヘイクリッド公爵家がハーウェルン公爵家に対しての賠償は多大であっただろう。そしてハーウェルン家の勢いはますます増していくだろうと言われているそうだ。まぁ、これはいい。彼の家がさらなる権力を握るだけである。


――つまりだ、私はどうやら世間には囚われたところを救出された、か、か弱く、美しいだけの少女の役どころというか。

(リードからの現状の調査報告書を読んだときは眩暈がしたな。はは……はぁ)



 情けないぞアリアス、お前は騎士だろう。向かい合うべき相手から逃げることなど私は許さない。背を見せるくらいなら腹を切らせる覚悟をしろ。


 逃げるなアリア。ずっと会いたかっただろう。その気持に嘘はない。


 ゆくぞ!私!!




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