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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
51/62

過去は火にくべて

――少し久しぶりの日記だな。まぁ、昨日はエミリオ少年の邸宅にいたのだから当然なのだが。


 今日はよい日だった。彼の幸せそうな顔が見れたのだ!!とても嬉しい。


 やれる事をしてみたのだ。

 私は、行動しなくてはいけないと思ったから。


 昨日は彼の心を知ることができた。

 私を彼がどう思ってくれているかを。

 その為に、彼がした決意も。



……私は、おそらく変異している。彼と出会う前と今では。

(この日記の最初と今では、私が私と思えぬような、変化があるだろう。怖くて読み返せないが。)


 エミリアを忘れたわけではないのに。思考を心を、彼がうめていくような……

 自分の事なのに、よく分からない。いや、分かりたくないだけ、なのかもな。




――立ち止まっても意味はないな。明後日の事を考えよう。いや、もうすぐ日付が変わるのだからもう明日か。


 明日はエミリオ少年の誕生日なのだ。贈物……どうしよう、なにを贈ればいいだろうか。あまり時間がない。

 今思い浮かぶのは。


……あぁ、一つある。あれにしよう。





 アリアは重厚な机から立ち上がると、棚にむかって歩きだした。

 中からとりだしたのは、アリアの身体には少し長い剣だった。

 アリアは剣を抜くと軽く振った。


「やはり、これくらいだな」


 その剣はエミリオの練習用のものと同等の長さだった。

 得物は身体にあったものが一番いい。だから成長してもすぐに次の武器が使えるようにと準備していた。

 今のアリアには少し長く、その分重い剣を。


「今の彼にはちょうどいい。すぐ成長する彼には、いらないかもしれないが――」


 装飾など一切ない、実戦のためだけの剣。


「どうか彼を守って」


 傍にいれない私のかわりに。






「明日はエミリオさまの誕生日ですわ。もちろんご存知ですわよね?」


 学院の講義室の中での事だった。アリアは背後から聞こえた声に振り返る。クレアだった。


「え、えぇ」


 アリアは少し戸惑った。クレアが尋常ではない雰囲気でいたからだ。迫力が違う。


「準備は抜かりないのですか?」

「はい。大丈夫だと思いますわ」

「……詳しく言ってみてくださる?」


 有無を言わせぬ雰囲気だった。アリアは戸惑いながらもなんとか答えた。


「贈物も選び終わりましたし、包むための布とメッセージカードも用意しました。あとは包むだけです」


 十全であろう?と気持ちを少しこめて言ってみた。


「他には?」

「……必要なもの、他になにかありましたか?」


 ないと思うのですが。言葉は続かなかった。



「甘い、甘いですわ! とっておきのドレスは? 靴は? 髪飾りは? 化粧道具に抜かりはなくて?」


 クレアの背後に燃え盛る炎が見えた。


「し、していませんが、なにも武装の準備のような言い方をしなくても」

「なにを言っているのです。戦です。貴女が明日臨むのは戦なのです!!」


 前の講義はすでに終わり、エミリオは講師に呼ばれていた。つまりアリアとクレアは二人きり、淑女としてあるまじき行動を嗜める人間は誰もいなかった。


「それにですわ。明日はエミリオさまの特別な日なのです。だから気を抜いてよい場所はないのです。すべてに全身全霊をかけるのです!!」



――エミリオさまに喜んで頂きたいのでしょう!?


「……本当に、それをすれば喜んで頂けるのでしょうか?」

「えぇ、もちろんです」


 自信に満ちた笑顔でクレアは笑った。彼女の言葉は少女として自然でごく普通の事だったのだろう。アリアには馴染みがなくても。


「頑張ってみます」


 なぜか、そうしたいと自然に心が動いていた。






 アリアは重い身体を自覚しながら、視線を動かした。

 まず視界に入ったのは寝台だった。

 いつもメイドたちが整えてくれるシーツの上には一着の白のドレスとそれにあわせた髪飾り。寝台の傍の絨毯の上には白い靴が見える。


 次に見たのは少女には似合わぬ重厚な机。

 布で包まれた剣が置かれている。


――これが意味するのは、準備は万端に整ったという事だった。

 すぐ終わるはずだった準備がとことん長引くという計算外な事もあったけれど。


 アリアは今日一つ学んだ。

 メイドたちに聞いてはいけない言葉があると。

 クローゼットのドレスを見ながら『どのドレスが一番にあうと思う?』だ。まさかこのドレス選びで四時間かかるとは。



 おかげで――大切な用事が後回しになってしまった。


 アリアは視線を通学に使う鞄にむけた。鞄を開けると中には教科書とノート、インクにペン。

 そして一通の手紙があった。


 アリアがリードに依頼した『調べてほしいこと』が書かれたもの。

 軽く読めるものではなかった。だが逃げてはならない。読まねばならないものだった。

 重く息を吐くと、アリアは手紙を開いた。





――……アリアは手紙を一読して燭台にかざした。火が燃えうつる。

 紙片は灰に。だが綴られた過去はきえない。それでも――


 過去は火にくべて。







 清々しい朝――とは決して言えぬ心境になりながら、アリアは学院の門から本館へと歩いていた。


 今日はエミリオの誕生日。アリアはたくさんの人々の助けをかりながら、全力でこの日に臨んでいた。


 清楚な白のドレス。それにあわせた髪飾りと靴。

 金の髪は風になびき、珍しくうっすらと化粧をした姿は、あまりに可憐だった。

 そしてそれは当然のごとく人目を集めた。


 アリアは『これは忍耐をつける修行かなにかね?』という気持ちになりながら、ひたすら無表情で歩いていた。

 布で包まれた贈物を大切に抱えながら。



「アリア様」


 そこに声をかける人物がいた。小声ながら、焦る心境が隠しきれていない声。思わずアリアはその人を見た。

 今までに何度か見たエミリオの側近だった。


「これに、心当たりはありますでしょうか?」


 側近の懐から取りだされたのは、紙片だった。

 そこには――たった一文。



『金の髪の方へ。あの塔でお待ちしております』


「これ、は……」

「今日の朝届きました。そして、あの方が昨日から戻られていません」


 その言葉を聞き終えて、アリアはすぐに走りだしていた。側近も慌てて追いかける。

 門のすぐ傍には側近の乗ってきた馬がいた。アリアは大きな荷物を抱えながらも、騎乗すると側近にむかって叫んだ。



「彼は絶対無事にお返しします!!」

「お待ちください! 貴女は!?」


――大丈夫なのですか?

――ひとりで行って何ができるというのです。


 言葉は届かなかった。すでに馬上の人となったかの乙女の姿はすでに遥か遠くにあった。


「貴女も無事でなければ、エミリオ様の為にはならないというのに」


 側近は少女の追跡をどうするか思考をめぐらせながらも、彼女を思う主の事を思った。



何度書き直したか、分からないくらい書き直しました。

その分いい出来である事を祈りますが、修正するかもしれません。


今回はちょっと本当にめげてしまいそうでした。あと少し、あと少しと

呪文のように唱えてなんとか書き上げましたが。


いい文章が書けたなと思うと楽しいです。でも上手くいかないと

辛いといいますか。弱音ですね、すみません。


いつも感想や評価、お気に入り登録ありがとうございます。

続きを書こうと自分に負けずに頑張れるのは皆様のおかげです。

第一部完結まで頑張りたいと思います。

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