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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
50/62

君の決意、私の覚悟

 日は昇り、別れのときはやってくる。


「朝食を食べていかないのですか?」

「あぁ、もう行かなくては」


 朝というには少し早い、まだ屋敷の使用人たちが動きだしたばかりだった。エミリオが目覚めるとアリアスは既に寝台から起き上がり準備も終えた後だった。


 アリアスは早々に邸宅をでなくてはならなかった。だからすぐに出発するはずだったのだが。


「なっ! なにを」

「そんなに驚くことかな? 友達なら普通だよ」


 エミリオは寝台から起き上がると、アリアスを抱きしめた。

――別れの挨拶のために。


「……そう、なのか」


 だがいきなり抱きつかれたら、驚くのは普通だと思うのだが。そう思いながらもアリアスはなんとか頷いた。


「意外に小柄ですね。私は同い年の子より成長が早いようなんですが、アリアスは何歳ですか?」


 こ、小柄。アリアスは胸に痛みが走ったが、顔にはださないように気をつけた。成長期にできるだけ差ができないことを祈るばかりだ。


「……11歳だ」


 エミリオは身体をかたくしながらも拒絶しないアリアスにくすくすと笑うと、嬉しそうにアリアスの肩に頬をよせた。


「そうか、私と同い年だね。といっても私は明後日には12歳になるけどね」


 エミリオの言葉を聞いた途端、アリアスは息を呑んだ。

 それはすぐ傍にいたエミリオに隠せるわけがなかったが。


「アリアス?」

「いや、なんでもない」


 アリアスはエミリオに『もう行かなくては』という意味でエミリオの背に軽く触れた。

 エミリオは顔を上げると優しい笑顔で言った。


「じゃあ、また」

「……あぁ」


 アリアスはそう答えた。

 またアリアスとしてあえるかは、わからなかったけれど。





 日は昇った、けれど薄暗い路地をアリアスは足早に歩く。思考はすべて昨日のエミリオの言葉に囚われていた。


 殿下の後ろ盾。その代償としての恭順。そして留学。

 アリアを思って彼がした行動だった。

 覚悟を決めさせたのは、代償を払わせたのは――



 目的の場所につく。それは導きの塔だった。

 塔の主人は、昨日別れたときと変わりなくアリアスをむかい入れた。


「どうしました?」

「調べてほしい事があるんだ」


 私も覚悟を決めるべきだった。






 どうしたら、君に私の心を伝えられるのだろう。



「お嬢様? どうかしましたか?」


 学院に行くために着替えている途中だった。メイドのエレナの声が背後から聞こえた。いつもは一人で着替えるのだが、腰の後ろでリボンを結ぶドレスのせいで一人では着れなかったのだ。


「いいえ、大丈夫よ。……いつも気にかけてくれてありがとう」


 考え事をしていたせいで、ずっと黙ってしまっていたようだ。


「お嬢様……そういう気をつかってくださるところも大好きですし、嬉しいです。でも頼ってくださった方が嬉しいんですからね!」


 ドレッサーの鏡越しに目があう。


「そう?」

「そういうものです!!」


 力強く断言された。






 アリアはきょろきょろと視線を動かしながら、図書館の中を捜す。

 アリアは今日エミリオに何度も話しかけようとした。だが言葉がでなかった。ただ見つめるだけで。どう切りだしたらいいのか分からなかった。


 もう講義はすべて終わり、あとはエミリオが課題を図書館でする今しか時間がなかった。音をたてないように捜し回る。


 そして図書館の奥、資料室に入る彼の姿を見つけた。

 その後を追って扉にノックし、入室の許可を待った。


「どうぞ」


 部屋に入る。彼は立ち上がったままで、出迎えてくれた。彼は背後にある長机に鞄を置いているが、中から資料も課題も取りだした様子はない。

――もしかすると彼は、彼を捜す私に気づいて、ここに入ってくれたのかもしれない。私が話しやすいようにと。


 彼の顔は昨日より、幾分明るかった。


「どうかしましたか?」


 口を開く。今、言わなくては。なんのために彼を追いかけたのか、分からなくなる。でも言葉が重い。



「私に悩みは言えませんか。私では頼りにならない?」


 また昨日見た、苦悩に満ちた彼の顔になってしまった。

 脳裏に浮かぶ、彼の声。


『私は彼女の役に立ちたい。彼女の意味あるものになりたいから――なのに彼女は、悩んでいる理由を言ってくれない』


『留学するんです』



「貴方が頼りにならないから、言わなかったのではないのです。そうではなくて……」


 前世の記憶――守れなかった愛した人、その人を殺した私の信奉者。

 そのままを言えるはずもなかった。でも――



「私の悩みは排除するものでも、ないのです。私がずっと持たなければ、いけないものなのです」


 私の不甲斐なさ。

 私の悲しみと苦しみ。そして私の罪と――


「そんなに苦しそうなのに?」


 エミリアを。

 私はなかったことにしたくない。


「はい」


 今の君を、まっすぐに見つめた。




 一番言いたかった事を言えた。

 だが、まだ本題はすべて終わっていなかった。


「あ、あの、心配をかけてしまいました。ごめんなさい」

「いえ、そんなことは」

「元気がないのは、今も、その、変わらなくて」


 床を見つめていた視線を気合で上げた。


「……少しだけ、甘えてもいいです、か?」


 一瞬、とても驚いた顔。次の瞬間には、花が開いたような笑顔。


「貴女が望むだけ、いくらでも」


 この判断は間違っていなかったようだ。


 一歩、一歩彼に近づく。一歩目は躊躇うように。二歩目、三歩目は勢いよく。

 彼の胸に顔をよせた。――耳を心臓の場所においた。彼の音が聞きたかった。一番元気のでる、幸せな時間だった。

 でも――


「これでは……私が幸せなだけですが、いいのですか?」

「こ、これがいいのです!」


 恥ずかしい。とんでもなく恥ずかしかった。


 だがエミリオは抱きしめるのは友人なら普通と言っていた。だからこれは大丈夫なはず。その言葉を思いだして、心をなんとか静めた。


「……アリア」


 耳元で囁かれる声も。

 強く強く抱きしめてくれる腕も。

 恥ずかしいものではないのだから。



前に活動報告にも書いたのですが、今後の予定のお知らせです。


第一部のあと、すぐに第二部を書くという事はせず、もう少しエピソードなどを

調整したいと思っています。

(今は第一部で頭がいっぱいでして、順序なども大体しかきまってないのです。)


あと、その調整中は第一部を読んでくださった方へのお礼の小説を書こうと思っています。

(おそらく第一部最終話の後書きに四つほど候補[の説明文]を載せます。そこから読者の方の読みたいという要望の多かったものを書く、という感じでしょうか。)


第二部も書くのに、ここで番外編はおかしいと自分でも思うのですが、第一部までで読了の方もいらっしゃると思うので。


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