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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
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まだ続く日記

 ふむ。やはり一息に書くには量が多かったようだ。それに適度の休憩は必要であるな。

(メイドにアリアお嬢様の為に用意しました!! と紅茶を出され断れるわけがない)


 さて続きを書くか、想定外の出会いをした後のことだ。


 茶髪の少年とその周囲の男どもはみな私を見て呆けた顔をしていた。

 私はその顔(締まりのない赤ら顔、見苦しいものだ)を見てようやく冷静になり、どう対処すべきか焦ってしまった。


 私は妻とこんな再会をする予定はなかった。

(密やかに妻に気づき、妻に前世の記憶があるかの確認などもし。必要があらば手助けし。……そして出来れば彼女の友になりたい。それが私の願いだった)


 あぁ、愛する妻エミリアよ。君はなぜ男になっているのだ。私は女の身体を纏っていても心は男なのだよ。

(つまり、男に必要以上の好意を持たれるのは耐えられんのだ。いや、女性もだが。じ、字が震える)


 だから、私はこれ以上混乱しない為に戦略的一時撤退をすることにした。

 ちょうどよく白いユリエの花びらが風に乗ってやってきた。顔に浮かぶ笑顔をその花びらからユリエの木々に向け歩きだした。


 私とて無駄に歳をとったわけではない。

 まぁ、なんて美しいのと精一杯の演技(緊張してしまったが)をしながら赤ら顔どもの横を通り過ぎた。

(私に話かけようとした赤ら顔はもちろん無視し、伸ばされた手は視界には入れない様にした)



 そして逃げる様に帰ってきたというわけだ。

 首の皮一枚が繋がっただけの様な感じがするが、ど、どうなのだろう。


 とりあえず、茶髪の少年について調べよう。か、彼は(彼女を彼と書くには抵抗があるな)


 今、幸せなのだろうか。



――以上で回想を終了する。やはり日記は冷静に判断するのに良いようだ。



 白いノートを、インクが乾いた事を確かめ閉じる。年若い少女の部屋にしては装飾のない、少女の父の書斎と変わらない重厚な部屋だ。


 少女はしっかりとした椅子に浅く腰掛け、瞳は閉じていた。


 ここは少女の砦だった。心のありようのままにいられる、ただ一つの空間だった。


 今は少女の姿をしているが、大貴族の男として27年生きていた。

 積み上げられた、思考も、誇りも捨てられるものではなかった。


 少女の姿をした彼は、鍛練や勉学をする時間ではないとき、よく考える事をまた考えていた。


 やはり過去は本来、持ち込むべきものではないと。

 最初は父と母を呼ぶことにも、触れることにも抵抗があったとき。次は少女の柔らかな手を硬い剣を持つ手にしたとき。


 そして今回、彼女、エミリアに会ったときだ。



 閉じたノートをまた開く。ペンとインクを取り出し、また書き出す。


――追記


 彼が彼女であることは疑いようが無い事実だった。私自身、前世においても金の髪、青の瞳。そして成人しても女顔など、身体的特徴そのままだった。


 彼女の鋭すぎる眼差しはいつも彼女の優しさを隠していた。美人より、有能な女主人という印象を持たれるようだった。

 だから彼女は彼なのだ。


 もし彼女が今幸せなら、なにもすることが出来ない。いらぬ世話になってしまう。

 だから私は、ほんの少しばかりの不満を彼女が持っている事を望んでしまった。愚かしい事だ。


 私は、彼女の新しい人生に関わってもよいのだろうか。


 白いノートはインクの乾きを無視して閉じられた。



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