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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
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誰に語ることなく終わる物語[一章]

 真夜中のウォルシュ伯爵邸は静まり返っていた。今日は大切なアリアお嬢様のお披露目であったにも関わらずにメイドたちの部屋も静かなものだった。


 アリアが出発するとき、それはそれは賑やかだった。

 『まるで王子様とお姫様の様だ』、『きっと舞踏会もお披露目も上手くいく』とメイドたちはとても喜んでいたのだ。


 だが帰ってきたアリアは血の気が引いた顔色で、何かがあった事は一目瞭然だった。


 メイドたちは困惑し、アリアの両親や兄も『何かあったのか』と勿論尋ねた。だが返答は『……なんでもありません。少し寒いだけなのです』という言葉だけだった。


 激昂した兄はアリアをエスコートした少年につめよったが、少年もどうやら理由は分かっておらず『すみません。私がついていながら』と、つらそうに言うのだった。




 暗い自室のなかアリアは寝台から起きだし、机へとむかう。顔は変わらず青白いままだ。

 引き出しから何かを取り出し、机の上に置いた。鍵のかけられた日記である。アリアはその鍵をあけると、日記を開いた。


 また、誰にも語ることのできないものを記すために。




――今までこの日記に私の激情、苦悩、いろんなものを吐き出してきた。


 今日、吐き出すのは、私の中で、忘れる事の出来ぬ記憶というものだ。人に語れるものでない。なら、ここに捨てるのみ。



 私がなぜ、死ななくてはならなかったのか。

 別に、珍しい事ではない。ただ公爵家の家督を巡っての争いがあり――……死ぬ事になったのだ。



――最初から書くか。私も多少以上に困惑している事があるしな。……上手く吐き出せたらよいのだが。


 私は、前世アリアス・ヘイクリッドという名だった。公爵家の次男として私はうまれた。


 私には年の離れた兄上がいた。兄上は後継者となるべく教育されていた。そのせいか兄上はいつも机にむかっていた印象がある。


 その一方で重責のない私は気ままにすごしていた。剣が好きで、鍛錬ばかりの日々だった。学院を出てからは騎士の任を拝命し王城で働いていたから、剣ばかりの人生だったといえる。

 不満なんてない、とても幸せな日々だった。


 そんな日常が突然壊れたのは私が21歳のときだった。隣国との戦争がはじまったのだ。

 私は戦場に将としていく事になった。床に臥した父上と、その父上の変わりに領地を治めている兄上に戦場にいかせるわけにはいかなかった。



……エミリアとの事も、ここで書くか。私が彼女に出会ったのは21歳のときだ。もっと詳しく書けば戦争に行く事になる半年前だ。


 彼女は私の5歳年下の16歳だった。彼女は才媛と名高き人で、王女の家庭教師として王城に招かれた。そんな彼女と近衛騎士として王族の方をお守りする私が知り合うのは、まぁ当然のなりゆきだったのだ。


 彼女は噂では、とても厳しい人だと聞いていたのだが。会ってみると本当にそうだった。

(王女と一緒にたじたじになっていたのも今ではいい思い出である。)


 彼女にはたくさんお小言を言われたし、お説教もされた。でも私はそんな真面目で他人に厳しく、自分にもっと厳しい彼女に好感をもっていた。


 王女と彼女を守る事が私のなかで“自然”になったと気づいたときには『貴女がよければ、私と結婚しませんか』と言おうかなと思っていた。


 だが戦争に行く事になって、私は言葉を変えた。

 『戦場に行くことになりました。王女の事、よろしく頼みます』と。思いを告げる言葉は、戦場に行く人間が言っていい言葉ではないと思ったから。


 私の言葉を聞くと彼女は『……他には、ないのですか』と言った。だから『ないです』と私は答えた。


 そうしたら、なぜか彼女にとても怒られた。泣きながら怒られた。胸を叩かれ、たくさんなじられた。冷静でいるのが常の彼女がはじめて取り乱していた。


 分かったのは、私は彼女に愛されているらしいという事だった。

 だから気づけば約束していた。『貴女のもとへ帰ります』と。


 気になる彼女は、私の大切な婚約者殿になっていた。



 そして四年、いや五年という年月を戦場ですごした。

 少し変な書き方になってしまったな。四年で一度戻ってきたのだが、もう一度行く事になったのだ。王命でしかたなく。


 四年の間に父上が御隠れになり、一年の間に兄上が御隠れになった。


 たくさんのものを失くした。それでも戦争は終わった。こちらの勝利といっていい結果で。


――それはいいんだ、もう。この国を守れたのだから。だが私はこの戦争のせいで、一つとんでもないものを背負う事になった。


 私は帰還した。なぜか国を守った英雄の一人として。


 私は死ぬわけにはいかなかった。死に物狂いで戦い続け、気づけば“金獅子”と呼ばれる様になっていた。

(“金獅子”なんて変な言葉を戦場でよく聞くな、とは思っていた。『出たぞ!! 金獅子だ!』の様なセリフだ。……まぁ、それを聞いて『どこに獅子がいるのかね』と実は終戦間際まで思っていた事はちょっと秘密である。)


 隣国の“死神”なんて呼ばれていた戦闘狂の銀髪馬鹿男の相手をし続けていたのも悪かった。一騎当千なんて誇張甚だしい二つ名なんてもってる男だったせいで、いつの間にかこんな事になっていた。


 私はただ、生きて帰りたかっただけだ。だが、戦をしているうちに戦友もでき部下も仲間になっていた。だから、だれ一人欠ける事なく皆で国に帰りたかった。


 いったい、何本の剣を捧げられたのか。私なんて剣が多少使えるだけの男だったのに。部下から、いや戦友から捧げられた剣は百をこえる。本音を言えば、受け取りたくなかった。


 重かった。重くて倒れてしまいそうだった。


 上官として捧げられたのか、戦友として捧げられたのか――“英雄”として捧げられたのか。今ではもう、分からない。


 ただ、“その名”と“栄光”を私は受け入れた。“アリアス”ではなく“英雄”に捧げれた剣も私は受け取っていたのだから。



とてもたくさんの方に読んで頂けている様でとても嬉しく思っています。

とりあえず第一部完結までは気合を入れて頑張りたいと思います。

感想やお気に入り登録、評価ありがとうございました。とても元気がでました。

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