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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
42/62

白き花は君のために[二輪]

 今日の伯爵邸は朝から騒がしかった。一人娘の予想より早いお披露目のためである。

 夕方に迎えがくるというのに昼から準備をするのだ。気合の入りようが分かるものだ。もっとも、本人よりもその母親とメイドたちの気合がすごかったのであるが。




 アリアは生前に戦場で一人孤立無援で戦い続けたときの心境を思い出していた。なぜか自室という安全であるはずの場所で。

 アリアは敵に囲まれていた。陣地は自らが座る椅子だけである。


 敵、その一があるモノをアリアに突きつけた。

 白い布地に青の紐が使われている。大変可愛らしい形をしている。


「コ、コルセット……つけなくては駄目?」

「もちろんです」


 締め上げられる生き物の声がした。



 敵、その二がさらにあるモノを突きつけた。

 左手に丸い円形の箱、右手にはブラシ。敵、その二の武器はそれだけでなく、アリアの目の前のドレッサーにはいくつものものが並べられた。


「け、け、化粧もするの?」

「当然です」


 ひぃという悲鳴が響き渡った。




 夕方間際、鏡の前には一人のそれは麗しい少女がいた。金の髪はゆるく結い上げられ、真珠を連ねた飾りをつけている。身に纏う白のドレスも相まって繊細で壊れてしまいそうな美しさだった。


 顔面を蒼白にさせているせいかもしれない。


「お嬢様……」

「なに?」


「とても、いえ、本当にお美しいです」


 それは、よかったわ。アリアのか細い声がメイドに聞こえた。




 メイドたちは本当は、今日はお嬢様のお披露目だが“華美が好きではないお嬢様”のために“最低限”の飾り立てようと思っていた。


 お嬢様はなんの飾りなどなくとも美しいのだから、それで十分だと。


 だが、お嬢様本人が『自分がたとえ、どれだけ怯えようと完璧に支度をしてほしい』と言い出したのだ。

――お嬢様を大事に思っている彼女たちが本気をだすのは当然の事だった。少々、お嬢様の想像を超える事までしつくしていたようだが。やるならば徹底的に、という限度のない支援という名の攻撃であった。




 夕方になり馬車が伯爵邸の門を通る。公爵家の馬車とわかる立派なものだ。それに相応しい護衛、馬、そしてなにより、その主。


 降りてきた少年は、まさしく貴族だった。気品溢れるその姿。

 いつもと違い茶の髪を撫でつけ、濃緑の正装をしている姿は本来の年齢よりも大人びて見えた。


 少年――エミリオはまず、出迎えたアリアの母に挨拶しアリアを待った。

 その彼の前にアリアは現れる。アリアもまた一段と、いや、それ以上にいつもより美しいと思われる姿で。




 アリアは、決戦に臨む心境で彼から手をさし伸ばされる時を待った。エスコートされるまでアリアからは動けない。面目を潰す事になってしまうからだ。だが、彼はなぜか動かない。


 なにか自分に変なところがあるのか。アリアはドレスを見える範囲で見て、頭の飾りが取れていないかと手で確認した。よく分からない。


 メイドもなぜかいない。母も挨拶を済ませてさっさといなくなってしまった。彼の護衛は外で待機している。助けは求められなかった。仕方ない――


「あの、どこがおかしいですか? 今ならすぐ直せますし。……もしかして、体調が悪いのですか?」


 アリアは思い当たる事を全て言ったが、エミリオは動かない。

 だが長く息を吐いたかと思うと、切なく微笑んだ。

 焦がれるように。


「貴女は――……いえ、なんでもないです。申し訳ありません。お手を」


 少年は言いかけた言葉を切った。アリアは、差し出された手を素直にとり外にむかった。なぜか聞けなかった。





 馬車にむかう途中、アリアは彼の手にあるものを見た。自分の左手をもつ方ではない彼の右手にある小さな箱を。


「あの、それは?」


 彼は無言で箱を開けた。中にあったのは、二輪の白いユリエの花だった。今は時期もすぎてしまっているはずだった。どこからか取りよせたのだろうか。大変高価な事だけは確かだった。


「……貴女に、贈ろうかと思ったのですが。すでに先約が取られてしまっていたので」


 アリアの頭を飾る真珠を見て、苦笑しながらエミリオは箱を服にしまおうとした。


「ま、待って下さい!」


 アリアはエミリオを止め、真珠の髪飾りをとろうと頭に手をかけた。髪は結びなおす事になるだろう。頑張ってくれたメイドにも悪いと思う。今からでは時間もないし、こんなに綺麗に結い上げる事はきっと難しいだろう。


 それでも、彼の気持ちを汲みたかった。


「待って」


 だがエミリオにその手をとられ動きをとめる。


「貴女がそう、望んでくれるなら……真珠の飾りと、ささやかな白い花です。引き立てあうことはあれど、きっと邪魔にはならない」


 そっとエミリオが白いユリエの花を髪に挿してくれる。花は職人の手により加工され枝の部分が上手く金具で隠れている。だが、それでも壊さないようにと優しく。そしてもう一輪は自らの胸に飾る。



 彼の胸に、私の頭に。そろいの花を。



PVとユニークがまたすごい数(私にとっては)をこしていたので今度はお礼に小説を書きました。お礼~というとこにあります。


書くのがとんでもなく楽しかったです。また続きも書いてしまうかもしれません。

(本当は昨日お礼小説は更新したのですが。割り込み投稿だと更新したことにならないんですよね。)



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