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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
40/62

君とワルツを[三曲]

 列強三国の中の一つの国。その中でも権力あるとある公爵家の邸宅の中。ここ最近の休息日は“少々”以上にその邸宅の使用人の注目を集めていた。


 朝、最早見慣れた馬車が正門を通り抜ける。そこに公爵家の後継者が直々に出迎え、中から降りてくる少女に手を差しだす。気品ある少年が麗しい少女の手を引き邸宅内へと導く。


 それはまるで童話のような光景で。――その姿見たさに必要もないのに使用人が集まる、という事が続いていた。




 音楽はなく。本来いるべき講師もいない。

 はるか頭上にある天井。広く絢爛な舞踏場は今はただ二人の為にあった。


 少女が少年に導かれ円を描く様に動く。結われていない金の髪が美しく宙を舞い、淡い金色のドレスの裾が優雅に広がる。

 少女は少し動きがぎこちない。だが少年を見つめ嬉しそうに笑う姿はあまりに可憐だった。

 観客は少女と踊る少年、ただ一人であったが。


 いつもなら少年は少女を緊張させないようにと自信に満ちた気品ある笑顔でリードするのだが、今日は違った。なぜか少女から目をそらしている。茶の髪から覗く耳が少し赤い。照れているのかもしれない。


 それはまるで一枚の絵画のような光景で。




「どうかしましたか? なんだかとても今日の貴女は笑っていて驚いたのですが」


 少年は休憩をする為にとダンスをとめて一番に、正面に立つ少女に尋ねた。やはりとても気になっていたようだ。少女は力強く答えた。両手で少年の手を握りながら。


「今日はまだ踏んでいないのですっ!! 少し躓いてしまいましたが、それ以外に失敗していないのです。少しは上達したという事ですよね」



 少女はただ笑う。少年の心は知らずに。





 伯爵邸の中。国に知れ渡るほどの美しさをもつ、その家の娘アリアの自室での事だった。少女には似合わない重厚な家具の中、アリアは椅子に腰掛け一冊の可愛らしいノートを開く。ペンをとり書き出していく。



――昨日は日記を書く事ができなかった。だから一日ぶりとなってしまった。

 昨日はとても嬉しい事があり早く書きたかったのだが。邪魔があったのだ。まぁ大丈夫であるがな。この感動はまだ私のなかで輝きをもっている。


 今日もいろいろと事が起きた。だがまずは昨日の事から書くとしよう。


 昨日はな、その、私は彼を一度も踏まなかったのだ!!

(当然では?などという奴がいたら前にでろ。ちょっと本気で剣の勝負、しようではないか。大丈夫であるよ。『なんて素晴らしい! 努力の成果だね』と言う気分になって頂くだけである。)


……あまりに嬉しくて阿呆の様に笑い続けてしまった。エミリオ少年からも『どうかしたのかね? とんでもなく笑っておるぞ』と言われてしまった。

(帰ってからは兄上にも不審がられて、時間もとられてしまった。その所為で昨日は日記が書けなかったのである。)


 まぁ、よいのである。それだけ嬉しかったのだ。

 次は今日の事であるな。


 学院には通常の勉学の時間、例えば、歴史学や国文学といったものから実技としての剣術なども講義科目としてある。そして今日は教養科目として『ダンス』の講義がはじめてあったのである。


 学院は女性がとんでもなく少ない。なのでどうなる事かと思ったのだが。大多数の少年たちは二人で組み、交互に男役、女役と練習する様であった。


――私はいつも通りにエミリオ少年と踊る事になった。

(練習をはじめるぞ、となったときに自然と手をにぎられていたというか。まぁ自然とな。)


 そして彼は完璧に踊りきった。……私という要素を含みながらも。

(ダンスというのは男役の上手さが重要なのである。……つまり私は彼の動きに合わせていればいいだけなのである。私の誇りはズタズタだが、下手なのは仕方ないのである。)


 他の少年たちは“練習”をしていた。ただ彼だけが完成されていた。


――そのせいなのであろうな。問題が起こったのだ。



『エミリオ殿はもう練習が必要ない様子。ならば私たちにアリア様を貸して頂いてもよいのではと思うのですが?』と言い出した馬鹿がいたのである。しかも一人でなく複数。


(ぎらぎらした目線でじろじろと見られた。)


 思わず私は、彼の腕を握ってしまった。

(怖いなどと思っておらぬよ!!気持ち悪かっただけである。)


 そして彼の驚いた瞳が私を見つめた。一瞬後に見えたのは――こらえきれない嬉しさ。そんな表情だった。

 そして彼は一歩踏み出した。群衆の前にと。


「すまないな。君たちは社交界にでるのに、あと数年まだあると思う。だが私は殿下の共として今年もう出席する予定なのだよ。だから君たちは自分のパートナーを自力でみつけたらいい。時間があるのだから」


 久方ぶりに見た。群衆を睥睨する彼を。その場を支配する姿を。


「それに練習相手なら、姉妹に従姉妹、候補はいくらでもあると思うのだが。練習は自邸ですればいいだろう。この学院で私のパートナーを借りる理由にはならない」


 反論を封ずる為にか、エミリオ少年に手を差しだされた。


 この年齢にしてはいささか早い。だが彼の隣に立つ為に。彼の役に立つ為に。そしてなにより。

 『一緒に行ってほしいんだ』その気持ちを無視したくなくて手をとった。


 エミリオは話は終わったと言うように背をむけた。舞踏場へと戻る為に。手をとった私も自然と少年たちに背をむけていた。

 背後から声がした。


「……アリア様のご意志なのですか?」


 前の決闘騒ぎのときと似た展開。だが一つ違うとすれば、それは――


「はい」


 力強く答えた私の声。私の手を握るエミリオ少年の手に力が込められた。なんだかそれが、とても嬉しかった。





ちょっとしたお願いといいますか、お知らせといいますか。


『君を守りたい』では誤字脱字は勿論歓迎しています。あとそれ以外にも文章が変であったり、分かりにくい部分がありましたら、そっと教えて頂けるととても嬉しいです。


(できればそのときは『サブタイトル名+その部分の文+理由』も書いて頂きたいです。)


なんといいますか、第一部を完結しましたら読者の方にとっての変なところ、分かりにくいところは修正したいなと思いまして。


(なので修正をするのは完結後を予定しています。それと今は変であっても、理由があり修正できない部分もあると思います。そのときはごめんなさい。)


それと、テンポを重視しすぎて視点をころころと変えているせいで、どうやら戸惑わせてしまった方もいるようで。

もし他にも戸惑った、という方がいらっしゃいましたら、どの箇所か教えて頂けると嬉しいです。

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