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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
37/62

全てはまた明日から

 薄暗い部屋の中で白い人影が儚げに浮かび上がる。それは金の髪の少女だった。


 少女は机上の燭台に火をつけ、一冊のノートを取りだした。椅子に浅く腰かけて最後の頁を開くと書きだす事なく眺めはじめた。目線は文字を追っておらず、読み返しているわけではない。どう書くべきか思い悩んでいる。そんな雰囲気だった。


 蝋燭が少し短くなって、ようやく少女はペンをとった。そして勢いよく書きだした。




――あぁ、上手く思考を纏める事など元より私には無理なのだ!!そもそもそんな事ができるなら日記など書いておらぬ。

 感じるまま、あった事を書き連ねる。それでいいのだ。


――もう少しこのままで。答えは出さない。

 彼が大人になるまで時間はある。決断は急がなくてもいいはずだ。

 彼が他の人を好きになる可能性は十分あるしな。今、彼にあんな覚悟をさせてまで、する事じゃないはずだ。そうだ、間違っていない。……きっと。


――彼はやはり、右手を酷く痛めていた。

(私の渾身の一撃である。当然と言えば、そう、なのだが。……医者は、骨が折れていないのが不思議だと言っていた。)


 だからまた、たくさん謝って。そしたら彼は、笑顔で『大丈夫です』と言って。それより私に怪我がないか何度も確認して。


――ああ、そうだ。……劇を見ていたらしい医者に手当てをし終えてから話しかけられたのだが。


「女の子にあんなに斬りかかるとは、やりすぎじゃと思っとったが、男の子の方が怪我するとはな。……じゃが、女の子に怪我させたらどうするつもりじゃったんだ?」


 劇の終了後『怪我しとるじゃろ?』と話しかけてきた爺さんは、自分の孫と話してるつもりかね?というくらいの気安さで話しかけてきた。

(いや、悪い事ではないのだが。むしろ感謝すべきいい爺さんである。……女の子扱いされて怒ってなど、いないぞ。)


――問題はここからである。


「そのときは、私が責任をとりますから大丈夫ですよ」


 彼はあっけらかんと当然の様に言いきった。私はとんでもなくびっくりして彼の顔をまじまじと見た。そうしているうちに爺さんのけたたましい笑い声が聞こえてきた。『ならいいんじゃ』とかほざいている。

 なにがいいんだ!!


……ゆ、油断のならぬ少年である。改めてそう思った。ま、まぁいい。次だ、次。



 手当ての後、爺さんに礼を言ってクレア嬢たちのところへ行くことになった。

(闘技場の控室ですぐに手当てしてもらったせいで、まだ衣装も着たままだったしな。)


 怪我をしていない左手を彼が私に差し出した。私は躊躇わないでその手をとった。


 彼が今日、一番嬉しそうに笑った。私も、とても嬉しくて言い出す勇気がでた。


「以前の頼みごと、まだ必要ありますか?」


 彼は一瞬思考をめぐらしたが、すぐに思いいたった様だ。


「それは……ワルツの練習のパートナーの事ですか?」


 もう二カ月も前になる。私と彼の手が離れたきっかけだった。


「はい。以前お断りしましたが、もしまだお相手がいなく困っていらっしゃるなら是非、協力したいなと。……お役にたてるか分からないの――」


 ですが、と続くはずの言葉はでなかった。右手を引っ張られ。左手だけで抱きしめられた。


「ありがとう」


 感極まった様な声がした。喜んでいるようだった。よかった。だが!!

――ダンスが苦手だと、とても言える空気ではなかった。ど、ど、どうしよう。


 な、悩むのは後だ。後!次はクレア嬢の事だ。


 クラスの控室にクレアはいなかった。他のクラスメイトは自分の劇を見にきた家族と話したりと寛いでる。


 エミリオ少年のご家族はきていなかったが、挨拶をしなくてはいけない御仁がいた様で『すみません』と言って彼はむかった。

(11歳とは思えぬそつなき行動。さすがである。)


 私は軽く家族に声をかけてから、着替えてクレア嬢を捜しに行った。

(『さすが俺の妹だ。いい剣戟だった』とほざいて抱きついてきた兄上は無視である。)



 そして、捜して、捜して。ようやく見つけた彼女がいたのは舞台の上だった。


「あら? アリアさま。どうかしましたの?」


 語り手として立っていた場所に彼女はいた。まだ劇が続いてるかのような錯覚をした。――衣装はもう着ていなかったけれど。


「この劇の意図について、お聞きしたいなと。彼と、いえ、エミリオ様とのやり取りもお聞きしたいです」


 結末、私とエミリオ少年。全ては彼女の盤上の上のできごとか。


「……この舞台に立てるのは学院生といえど人生で一度、ただ一学年のときだけ。だから“いいもの”に劇をしたかった。――だからエミリオさまとは利害の一致するように取引を持ちかけた」


――それだけよ。

 クレア嬢はそれ以外を言おうとはしなかった。

 確認はできればしたかっただけの事だった。別にいい。本題は――


「ありがとうございます」

「利用した相手に言うの?」


 クレアは目を見開いてアリアを凝視した。想定外だったらしい。


「よい、結末でしたので」


――彼の気持ちや覚悟を知らずにいるよりはきっと、よかったのだ。クレアの反応は待たずに踵を返した。


「それはよかったわ」


 背後から静かな声が聞こえた。



 クレアは私の気持ちもエミリオの気持ちも把握していたのではないだろうか。だから結末も、ああなるものだと最初から予測をつけていた、のかもしれない。


――今となってはどうでもいいのだ。少女とは友になれるかもしれない。少年とは、まだ分からぬが、傍にはいれる。十分だ。


 全てはまた、明日から。





先日頂いた感想にて、お礼として書いたイラストについてご意見がありました。

『赤の王子と黒の王子は作中に登場回数も少なく、主役を描かないのは、いかがなものか』というものです。

た、確かに。そうですよね。

主役を描かなかった理由は、私はアリア達の皆さまのイメージを壊すのが恐かったからと。(友人に挿絵嫌いな人がいまして。)


あとは赤の王子と黒の王子は作品中では書いていない設定等も詳しくつくっていたので思い入れがありまして。

イメージをかたちに残したいなと描きました。


ですが、お礼になってなかったですね。すみません。

なのでアリアとエミリオ描きました。

今度こそ、お礼になっていればいいのですが。

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