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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
35/62

赤の王子と黒の王子[二幕]

久しぶりに頭痛がなく、頭がすっきりとしたので書き上げる事ができました。

(今日の午前はひどいものだったのですが。……自分の体の事ながらよく分かりません。)


この調子が続けば次話もおそらくすぐ更新できるのですが、またひどくなるかもしれません。


感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。

元気がでます。更新が遅く申し訳ないのですが、最後まで頑張りたいと思っています。


 月明かりが窓辺からさし込む。照らされたのは、乱立する甲冑と貴族の衣装を着せられたトルソー。

 そして壁際に置かれた一つの長椅子。


 そこには茶の髪の少年がいた。閉じ込められた状況だというのに、焦る事なく座っていた。胸には金の髪の少女が眠っている。

 少年はいとおしむ様に少女の髪に触れる。少年の手は、ただ優しさに満ちていた。

 ひどく美しい光景だった。


 少年の体に力が入ったままだ。明日は少年が主役の劇の本番だというのに眠る気などないようだ。


「……アリア、アリア」


 ささやくような声で少年は少女の名を呼ぶ。あまりに小さいその声は少女を起こす為ではなくて。


「離れれば、傍にいなければ、しずまると思っていたのに――」


 激しい思いで、かすれた声。


「酷くなっただけだ」


 募る思いは胸を締め付け。






 少年と少女は夜も更けきったころに救いだされた。助けにきたのは少年の側近と少女の兄だった。


 少女の兄は怒りがほとばしっていたが、衣装部屋で安らかに眠る少女を見てそれをおさめた。少年から少女を奪いとるやいなや即座に邸へと帰って行った。


 少年は呆気にとられる側近に静かに微笑むと、公爵邸へと帰って行った。


 中を確認せず鍵を閉めた巡回者は注意はされたが、なぜか処罰はされなかったそうだ。





 夜は明けて朝となり、学院祭ははじまった。訪れる貴族たちはみな国の重鎮や知識人などだった。自らの子どもを見る為という貴族もいるようだったが、少ない。


 将来の優秀な人材を見極める格好の場だった。



 一学年の最上級クラスの劇は正午からの開始だった。

 この祭典の為にしか使われない劇場は、素人の子どもたちが使うには過ぎたものだった。


 内装の装飾は彫刻家の作品の様であったし、緞帳で隠された舞台上には一流の役者が待ち構えていなければ許されぬ、そう見たものに感じさせる程だった。


 だが観客はこの国の特権階級なのだから相応しいとは言えるかもしれない。


 観客席には人が集まり、席は全てうまっていた。それも当然。今からはじまるのは、今日の最も話題ある出し物の一つだった。



――噂に聞く優秀と名高い公爵家の後継者殿はどんな少年かね?

――そういえば大変美しいお嬢さんが今年は入学したそうだね?


――いやはやまったくもって楽しみだ。



 大人たちの思惑とは別に、今からはじまる劇の本当の意味を知る者は“不安”と“決意”を胸に抱きながら時を待つ。


 幕はあがった。





――語り手の少女の声が朗々と客席に響き渡る。


『昔この国に二人の王子がいました』


 舞台に赤の衣を身に纏った一人の少年が現れる。茶の髪をたなびかせ、舞台中央で立ち止まる。気品ある立ち振る舞い、まさしく“王の血の流れを汲むもの”。


『その身に好んで纏う色になぞらえて“赤の王子”と――』


 反対の舞台袖からも、黒の衣に身を包んだ一人の少年が現れる。きつく編んだ金の髪が風に流れる様は、あまりに美しかった。赤の王子の傍らに控える様に立ち止まる。


『“黒の王子”と呼ばれました』


 語り手の言葉が途切れると、赤の王子は舞台中央の奥に置かれた緋色の椅子にむかって歩き出した。


『赤の王子は王妃の子ども。血統正しく、次の王になる子ども』


 そして緋色の椅子、――玉座に座す。


『黒の王子は妾妃の子ども。血筋卑しく、次の王になりはしない』


 黒の王子は玉座に対し、膝をつく。――二人の関係を表す様に。




『王子たちが子どものころ、この国は強国に囲まれ存亡の危機に瀕していました。そんなときに父である王が病で倒れてしまいます』


 赤の王子と黒の王子が観客席から見て左手側に移動する。二人は手を取り合って身を屈める。


 そして舞台袖から、王権を表す様な衣装を着た少年、煌びやかな衣を纏った少年、甲冑を纏った少年が現れた。その背後には配下役の少年たちが控える様に背後にいる。


 赤の王子と黒の王子はとり囲まれた。

 これはこの国がかつての列強三国の脅威にさらされたときの縮図を表していた。



『しかし二人の王子は才溢れ、たび重なる戦に勝っていきました』


 赤の王子は凛として立ちあがる。黒の王子は赤の王子を守る様に一歩踏み出した。赤の王子が指を動かし敵国を差すと、黒の王子は機敏に立ち上がり、指された敵国に突撃する。――やけに剣戟が上手い。


 敵国役の少年たちが大げさな程に倒れ伏す動作をする。


『そしてある国は姿を消し、ある国は同盟を申し出、またある国は恭順を示しました』


 語り手の言葉とともに役者たちは動きだした。


 王権を表す衣装を着た少年とその配下は姿を舞台袖に消し、煌びやかな衣を纏った少年が配下を下がらせ優雅に手を差し出し、甲冑を纏った少年は配下とともに膝をついた。


 赤の王子は周囲を睥睨し、開かれた舞台中央に歩き出した。黒の王子を引き連れる様にして。中央にたどり着くと、赤の王子は手を空にむかってのばし、つかんだ。


――天意は我にあり。

 覇権を握った事を示した。



『これは大戦の終結を意味し、この国の現在に続く基盤をつくった時代のはじまりです。そしてまた“決闘”もこの時代からはじまります』



――他ならぬ、赤の王子と黒の王子によって。


 物語はこうしてはじまった。





『戦は終わり、ようやく赤の王子は即位する事にしました。戦中に父王は病で亡くなっていたからです』


 城の中を模した背景となる。絵師に描かせたのだろう、絢爛でありながら静謐な王の間の光景だった。即位式の場面である。


 役者は赤の王子と黒の王子、そして宰相、侍従長の四人のみだった。舞台中央に赤の王子と宰相が、箱が安置された台座に歩みよる。


『王が引き継ぐものは冠などではなく、初代王から続く言葉を受け継ぎます』


 宰相が箱の中のものを取り出し読む動作をする。赤の王子はそれを傾聴する。これが王権の継承である。

 黒の王子と侍従長は距離をもって控える。単調でありながら権威ある儀式だった。


『宰相と侍従長は下がり、赤の王子と黒の王子のみが残りました』


 赤の王子は黒の王子に笑いかけた。黒の王子もぎこちなく笑い返す。


『二人は仲がよく、赤の王子はこのまま黒の王子とともに国を治めるつもりでした。ですが――』


 いきなり、黒の王子が膝をついた。こうべを下げ、顔は見えない。


『黒の王子は言いました。城を離れて、領地を賜りたいと』


 赤の王子が激昂した様に手を横に薙ぎ払う。


『赤の王子は言いました。許さぬと。――それでも黒の王子は揺るぎません』


 赤の王子が説得する様に話しかける素振りをする。だが黒の王子は首を横に振るだけだった。


『――二人は譲らず、闘う事に』


 赤の王子はうつむき手を握り締めた。そして顔を上げる。語り手はそれに合わせて言葉を紡ぐ。


『赤の王子は言います。この城からでて行きたいのなら、私と剣で勝負し、勝ってからにしろと』


 黒の王子は顔をあげ、頷いた。


『黒の王子は、是と言いました』



 赤の王子は黒の王子の手をつかみ、起き上がらせると舞台を降り闘技場へと歩き出した。


 観客は多少、困惑したが誘導役の少年たちに“次の舞台は闘技場です”と言われて指示に従った。



 誰もいなくなった広い劇場。その舞台上に、役者が一人残っていた。語り手の少女である。

 その少女がぽつりと言った。




「ここからは彼らの物語」


 少女もまた闘技場へと歩き出した。まだ彼女にも出番があったから。





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