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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
33/62

赤の王子と黒の王子[序幕]

今回一つ造語があります。

(辞書で調べましたが本来はそんな意味ではないようです。)

あとで変えるかもしれません。

――ずいぶんと久しぶりにこの日記を開いた。まぁ最近は頭を悩ます事もなく平穏だったから書く事がなかった、それだけである。


 そうなのだ。また、また頭の痛い事態が起きてしまったのである。


 焦ってはならん、冷静にならなければ。

(メイドの淹れてくれた紅茶をぐいっと飲む。ここは私の自室であるからいいのだ。)


 頭の中を整理し、対策をたてる、さすれば後れはとるまいよ。




――今日は、朝からなにかと騒がしい一日だった。

 一体何事であるのかね、とクレア嬢に尋ねると『今日は学院祭のクラスの出し物を決める日ですわ。私たちとっては“演目”を決める日ですわね。最後の講義の時間を使うそうですわ』と話してくれた。


 思わず急いた様に『私がする事はないのですか?』とクレア嬢に聞いた。


 私はクレア嬢に協力する事になっていたからだ。姫の役をしない為に。


 それはまだ三日前の事だった。だから驚いたのだ。なんの相談もなかったから。


だが――


『私が貴女の名を呼びましたら、立ちあがってこの紙に書かれている事を読み上げてください。そしてもう一度貴女の名を呼ぶときがきます。そのときに立ちあがって頷いて下さい』


――それで十分ですわ。


 クレア嬢は一通の手紙を渡しながら“指示”を言った。私は受けとり、ただ頷いた。

(反論してはいけない雰囲気だったのである。)




 そして時はすぎ、劇の演目の決定する為の時間がきた。


 私は講堂の中心の位置にぽつんと座った。

(クレア嬢からの追加指示である。)


 クレア嬢は最前列に座っていた。演目の提案する者は“その演目内容”について発表しなければいけないらしい。


 そんな事を考えていると、提案者の少年たちの発表がはじまった。



 演説の内容は詳しく書く必要はないだろう。六人の少年たちの提案は全て同じ様なものだったからだ。


 まず“姫”がでる。

 内容は、恋と愛しか目的がないのかね?という様なものから、可愛らしい姫が人助けする物語(まだ抵抗が少なかった。)など様々だ。


 クレア嬢の先見の明には驚くばかりである。



 そして最後にクレア嬢の発表がはじまった。


 黒髪の少女が壇上に上がる。彼女は周囲を見渡してから、この歳にしてはやけに堂に入った話し方で話しだした。



「私が提案しますのは『赤の王子と黒の王子』です。我が国の伝統的な決闘法の元となっている古い物語ですわ」


 この国の貴族、いや国民の大半が知っている決闘の決まり。クレア嬢は確認の為か、朗々とそらんじた。


 かかげるは、赤の旗。かかげるは、黒の旗。

 決闘を申し込むものは赤をかかげ、受けたものは黒をかかげる。

 使うは一本の剣のみ。

 勝負は一本。どちらかが戦闘不能とみなされるまで。



「今までも何度か劇場で講演している演目ですが、その特徴をあげるなら公演のたびに結末が違う事です。――理由は皆さまもご存じの様に『赤の王子と黒の王子』は結末のない物語だからです。ですから脚本家が新しい解釈をし、内容の印象をどうとでもする事ができる“可能性”に溢れた演目だと言えると思います」


 そこまでを言いきると、講堂の中心に目線をやってクレア嬢は言った。恐らく彼女は私を探したのだ。


「では……一応、もしかしたら内容を知らない方がいるかもしれません。私の助手に朗読してもらおうと思います。――アリアさま、よろしくお願いしますわ」



 講堂の視線が一気に私ににむかった。私はぎょっとしながらも立ちあがると、紙を持ち上げ読み上げた。

(声が緊張で小さくなってしまった。)




 赤の王子と黒の王子。


 昔この国に二人の王子がいた。

 赤の王子と黒の王子と二人は呼ばれた。

 赤の王子は王妃の子ども。血統正しく、次の王になる子ども。

 黒の王子は妾妃の子ども。血筋卑しく、次の王になりはしない。


 二人の王子は才溢れ、赤の王子はこのまま黒の王子と国を治めるつもりだった。

 だが、黒の王子は城を離れて、領地を賜るつもりだった。

 赤の王子は『やめよ』と言った。それでも黒の王子は揺るがない。


 二人は譲らず、闘う事に。



――結末のない物語の粗筋だった。



 私は読み終わると、クレアに視線をむけた。“この後はどうすればよい?”という意味でだ。

 彼女は正しく受けとってくれ『ありがとうございました、アリアさま。お座りになって』と言った。


「そしてこの演目をしたいと私が思ったのは、このクラスなら私の思い描く“赤の王子と黒の王子”をする事ができると思ったからです。――そして役者として参加して頂きたい方には既に打診しており、了解を得ています」


――それは勝手がすぎるのではないか、そんな声が講堂から聞こえた。

(貴様らにだけは言われたくはないと思う私は変だろうか。)


「大丈夫ですわ。全ての役ではなく、重要な“赤の王子”と“黒の王子”を決定しただけです。私はこのお二人だから“できる”と感じましたので、このお二人の了解がとれなければ立候補する事はなかった、それだけの事です」


 クレア嬢の静かな声は、講堂の多数の声を黙らせた。


「まず“黒の王子”はアリア・ウォルシュさま。彼女は勿論女性ですが、どうやら“姫”の役はおやりになりたくないそうで、この王子役ならばと快諾して頂きました。彼女ならば美貌の王子となれるでしょう」


――姫は絶対にしたくないそうです。するくらいなら不参加だそうです。なぜか彼女は強調して二度も言った。


 私はまた立ちあがり、動揺しつつも大きく頷いた。(王子役だと、ここではじめて知ったのである。)


 場の空気を支配したのは彼女だった。私はそれに安堵し座った。



――愚かな行為であった。

 私は知らなかった。



「そして“赤の王子”はエミリオ・ハーウェルンさま」


 ざっと音がしたかと思った。みなの視線が私の背後に一斉にむいたのである。


「理由は私が言わなくてもお分かりだと思いますが、この方以外では不可能だと思っております」


 私も背後に振り返った。


「“赤の王子と黒の王子”は才に溢れたお方たち。私たちは演技などした事はないし、ことこの項目に関しては素人です。ですから、演技なくとも“才に溢れた”このお二方ならそのままで十分だと考察いたします」



 最後列に一人、立ち上がった少年がいた。茶の髪が夕陽をあびて朱金の様に見える。


 久しく目線すらあわせなかった彼だ。


 一瞬あったのは冷たい、温度を感じさせない様な目線だった。まるで彼の叔父の様な。

 その事は覚悟したはずなのに私の胸を抉った。


 そして、その衝撃になにも考える事ができないうちに、クレア嬢の案が採用されてしまっていた。



――……どうすれば、いいのだろうか。私は彼と劇で決闘する事になってしまった。

(明るく、書き出したのに駄目だな。落ち込んでも意味はないというのに。)



……エミリオ、君は、私に君と闘えというのか。


 君の心が分からない。




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