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君を守りたい  作者: 長井雪
お礼というか記念というか
3/62

白雪、姫?

PVとユニークがまたとんでもない数字(私にとっては)をこしていたので、今度はお礼に小説です。

……といいますか、前の『白き花は~』を書いたときに書きたくなってしまった話を書いちゃっただけといいますか。


お礼になればいいのですが。私はとんでもなく書くのが楽しかったです。


――書く必要はないかもしれませんが、本編には全く関係がなく、ただ『君を守りたい』の登場人物と『白雪姫』の設定を少々使っただけの話です。


 優しい陽光が部屋にさし込む。照らされた部屋は王城のなかで、最も暖かい場所に位置する部屋だった。淡い色を使った壁紙と家具。ふっくらとした寝具に椅子。


――この国に嫁いできたばかりの王妃のための部屋だった。


 その部屋の中、壁には金で縁取られた鏡が掛けられていた。その前で王妃は険悪な顔をしながら、鏡に命令している。


「鏡よ、もっとも美しい人をうつせ」


 とんでもなく変な構図である。しかし、これには事情があった。

 王妃の言葉が終わるやいなや、鏡が水の表面のように波打ち、別のものをうつしたからである。


――王妃の顔である。しかし険悪な顔ではなく、幸せそうな笑顔である。


 金の髪に青の瞳。肌は雪のように白い。確かに王妃は美しい少女だった。美女というよりは、美少女だろう。まだ彼女は15歳だった。


 だが、王妃の顔はさらに険悪なものになった。おぞましいものでも見たかのようだ。


「いや、馬鹿なことをいうでない。そなたの目は節穴、間違っておる。そもそも、美しいという事を理解していない。可哀想な鏡であると理解しているが、そろそろ“真実”をうつせるようにならねば、嘘つき鏡と呼ぶぞ」


 鏡は焦ったかのように、またすぐ波うち、別のものをうつす。

 今度は王妃が少し戸惑ったかのような顔がうつった。可愛らしい顔である。

 王妃は敵を見るような顔つきで鏡を睨みつけた。


「ふふっ、まだ私が美しいと。……貴様はまるでなにも分かっていない、本当に美しいというのは、我が妻エミリアのように信念をもって生きている女性のことを言うのであって、私のような見掛け倒しを美しいなどと考えるなど愚かすぎる。貴様は何も見えていない」


 『さぁ頑張れ!! やるのだ!!』という声が響いている。廊下にまで聞こえそうだ。

――王妃は少々、事情のある人だった。




 そこへ扉を軽く叩く音と、来訪をつげる声がした。

 王の来訪である。王妃はとても驚きながら、王を迎え入れた。


「へ、陛下」


 侍従を引き連れてやってきたのは、この国の王である。歳若く王になったために、いまだ他国の王子と変わらない年齢だった。

 だが豪奢な服などなくとも身に纏う気品が彼を王にする。そんな少年だった。


「今日は休憩をとる時間ができたので、お茶でもどうですか? 貴女がよければ、ですが」

「も、もちろんです」


 王妃はさきほどまでの険悪な顔はどこかに捨ててきたのか、戸惑いながらも幸せそうな顔をした。






――前世、妻を守れず共に死んだ夫は、もし次があるなら君を必ず守ると決意する。なのに男が生まれ変わったのは驚くほど可憐な王女だった。

 それでも諦めず努力するが、美しい王女は政略結婚のために隣国に嫁ぐことになる。他国にも名を轟かせるほど賢王と名高い少年王のもとに。


 そして王女は王に“真実をうつす”と言われる魔法の鏡をわたされる。婚姻の証として。


 もちろん王女――いや、王妃は、もらってすぐに胸を高鳴らせながら“王妃にとっての”最も美しい人――妻、エミリアを見るために鏡に言った。



 『この世で最も美しい人をうつして』と。


 エミリアをうつして、そう素直に聞けばよかったのだが、王妃は少々恥ずかしがりやでだったので(名前をいう方が恥ずかしいらしい)そんな言い方をした。


 ここでうつったのが見知らぬ美しい少女ならば王妃は『ほう、世間はこういった方を美しいと思うのだな』と納得したはずなのだが……悲しいことに自分がうつってしまったのである。


 後には引けぬほど、意地になってしまったのだ。


 そこからはじまった“美しい”とはなんなのか議論(鏡は無言なため、傍からは一方的に見える)は白熱し、三ヶ月たつ今でさえ収束していない。





――妻の生まれ変わりをうつして、そう聞かないのはなぜか。

 答えは簡単だった。鏡を見つける前にすでに出会っていたからだ。

 夫の記憶をもつ少女は、おそらく妻である人物とであう。王女の義務として行った結婚式で。


 王は、妻にそっくりな少年だった。




「陛下にとって“一番美しいもの”はなんですか」


 お茶とお菓子を楽しみながら『そういえば』というように王に尋ねた。

 若き王は優しく笑い、王妃の頬を撫でる。だが、答えない。


「秘密、ということですか?」


 王妃は少し戸惑うように視線を動かし『あら、だいぶ時間がたちましたね。お仕事はいいのでしょうか?』と聞いた。


 王はその姿を微笑んで見て『そうですね』と部屋をでた。



 執務室にむかう途中、背後を歩く侍従に聞こえない程度の声で王は言った。



「私のこころをうつす鏡は、いつも貴女をうつすはずだが……」


 王の“本当”をうつす鏡は国の秘した宝だった。

 王の本当をうつす――つまり、王にとっての美しいもの、愛しいもの、好きでないもの、憎いもの、その全てを。


 何代も前の王が、心から愛した王妃に変わらぬ愛を誓ったときに使った鏡だ。

 代々の王のほとんどは使わない。政略のための婚姻に愛は必要ではないのだから。





 この逸話は他国にも知れわたっていたために王は知らない。王妃がその逸話を知らず、“世の中の真実”をうつす魔法の鏡だと思っていることを。



――すれ違いは終わらない。



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