表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
29/62

獅子の守り人[前編]

更新が遅くなりました。ごめんなさい。

頭痛もありましたが、しっくりこなかったので時間がかかってしまいました。

たくさんの方に読んで頂けている様でとても嬉しいです。

感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。



あと感想やメールを下さった方へ


最近の返信ですが、短くあまり内容のないもので申し訳なく思っています。

ですが、作者の思想を深く書くとネタバレになってしまいそうで、あまり書けません。

いつも長く書いてはネタバレ箇所を削除し、あの様な味気ないものになってしまいます。

感想は本当に読むと元気になります。

見捨てないで頂けるととても嬉しいです。

 日は昇り、人々は動き出す。それは貴族の邸宅も同じで、少し騒がしい。変わらない一日のはじまり。


――ただ一つ違うとすれば、庭を少女が駆けている事だ。


「お待ちください!」


 金の髪を風になびかせ、少女は眼の前の人物を追いかけていた。聞こえているだろうに、眼の前の男は歩き続ける。少し苛立った様に、少女は叫んだ。


「兄上っ!!」


 懸命な呼び掛けにようやく男、いや、少女の兄が振り返った。


「――アリア」


 男は、儚げなアリアの兄にしては体格が良く、獅子の様なたたずまいだった。

 アリアは厳しい眼差しにさらされて、少し身構えた。

 そして――


「“兄様”と呼べと、いつも言っているだろう」


 こんな事を真剣な表情で話すこの男は、レイノルド・ウォルシュ。過保護な過保護な、アリアの兄だった。





――あの過保護、どうにかならんのか!!前から思っておったが過剰すぎるぞ!


 ここに吐き出さねば、心がもたぬ。

 なんとか隙を見て逃げだせたが、もう限界だ。どこまで監視すれば気がすむのだ!!

(もう昼だが、食欲もでぬ。)



 なにが『アリア、俺には話せない様な相手なんだな。お前の……は。(恋人と言いたくないらしい。)――まさか、付き纏われているのか!! 安心しろ、俺がそんな奴には裁きを下してやる』だ。


(そんな輩がいたら自分で手を下しておるわ!!)


 はぁ、一から書くか。冷静になる為に。


 あのエミリオ少年からもらった“襟巻き”は我が兄上に雷を落としたらしい。

 そして、何を血迷ったのか学院に“妹に付き纏う不逞の輩”に裁きを下しにきた様だ。

(私は最近、兄上以外から“付き纏われた”覚えはないのだが?)


 そんないもしない輩を排除する為に、我が兄上は仕事を休んで学院へとついてきた。

(王室騎士団の仕事は、そんな軽いものだっただろうか。休みをとれたというのも、甚だ疑問である。)


 学院に父兄が勝手についてきて参観するという、前代未聞の事をしでかしてくれた。

 戸惑う講師になにが『お気になさらず』だ。目立ぬとでも思っておるのか。

 まったく、人の迷惑を考えぬのだから。名の知れた者だという自覚はないの――――





 アリアは勢いよく飛び上がり、身構えた。

 こちらにむかってくる足音がある。

 心臓がせわしない。まさか図書館の最奥の資料室で、人の気配を感じるとは思わなかったからだ。


 荷物は鞄に即座にしまった。後は相手の出方を見るまで。そびえ立つ本棚は死角をよくつくる。逃げだせない事はなかった。


 扉が開けられた。そこにいたのは――

 思わず長く息をはいた。相手が音につられこちらを見る。


「まぁ、ご挨拶だこと」

「も、申し訳――」


 黒髪に黒い瞳の少女、クレアだった。


「いいのよ。兄君さまと間違われたのでしょう? 貴女の兄君さま、レイノルド様の武勇は聞いておりましたけど、まさかあの様な方とは思っておりませんでしたわ」


 アリアは乾いた笑いすらでなかった。


「……兄上は、その、過保護なのです。私を、赤ん坊のころと変わりなく思っているのです。――昔、私の体が強くなかったせいなのですが」


「まぁ、それでなの。エミリオ様に伝言を伝えておいたのは正解でしたわね」


「あ、あの、ありがとうございます」


「いいのよ。まぁ、朝いきなり本を渡されて『この前読みたいと仰っていた本ですわ』なんて話しかけられるとは思っていなかったわ。――本に手紙が挟んであったから、すぐに理由は分かったけれど」



『今日は一日私に近づかないでと、エミリオ様にお伝えして頂きたいです』


 馬車の中で書いた様な走り書きだった。少女の動揺そのままの様な。


 朝、アリアは講堂にむかう途中でクレアに会う事ができた。絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。

 エミリオと兄を会わせるわけにはいかなかったから。


「本当に、感謝しています」


 感謝の心をこめてアリアは笑った。悪魔も祓える微笑である。


 クレアは居心地が悪くなったのか、表情を曇らせた。


「――ごめんなさい。その言葉は受け取れないわ。私がここにきた理由は、貴女を呼びに来たからよ」





 アリアは走る。前に学院を走ったときも、似たような状況だったのを思い出した。


 前回は、少年たちの決闘をとめる為に。

 そして今回は――過保護すぎる兄をとめる為に。




 場所は中庭か、そのあたりらしい。騒ぎが離れたここにも聞こえてくる。

 着くのに時間はまだかかるだろう。


 その間にクレアの話を思い出す。



「……兄君さまが貴女についた虫をはらいに学院にきた事は、誰でも予想がついたわ。だから貴女を慕う少年たちは、エミリオ様が邪魔なのだから――貴女という『嫌われたくない人』が兄君さまの横にいなければどうなるか」


――分かるでしょう?


 アリアは血の気が引いた。そんな、まさか。


「でも、兄上に詰問されても彼が『違う』と言えば――」


 そうだ、否定すればいい。それならエミリオは安全だ。

 だがクレアは頭を横に振った。



「あの方は逃げないと思うわ」


 どうして、とアリアは視線で聞く。


「……いつからかしら。少し前からね。あの方の貴女を見る目が変わったと思ったから」


 変わった、なにが?

 アリアはエミリオを手強くなったとは思っていたけれど、他の変化を感じていなかった。


「……逃がさない、違うわね。――逃げない、ね。やはり」


 クレアは言葉にしてようやく、おさまりのいい場所を見つけた様だ。


「だから早く貴女は行った方がいいと思うわ。あの方に怪我をしてほしくない、と思うならば」



 だからアリアは走る。

 彼に掠り傷一つだって負ってほしくなかったから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ