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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
27/62

夜の語り手[二夜]

後書きに『今後について』を載せました。


(本当に多少ですが)展開が分かるといえば、分かるので嫌な方は読まれない方がよいと思います。


不快になるかもしれないと不安な方に読んで頂きたいです。

 赤毛の少年は夜に身を潜めて、またハーウェルン公爵邸にきていた。


 一夜だけでなく、二夜。

 それは昨日決まった事だった。

 エミリオが“ここからでるまでいてほしい”と願ったからだ。


 だからアリアスは、夜にあの部屋に通う事になった。





 また案内役がついた。昨日とは違う道順で連れて行かれる。

 昨日と変わらず、扉の前には監視が一人。


――ただ一つ違うのは、扉から一人の壮年の男がでてきた事だ。


 彼と同じ茶の髪に、厳しい眼差し。尊大ではなく、威厳をもった貴族の男だ。


 成長した彼から心を抜けばこうなるだろう、そんな体だ。

 男はアリアスに一瞥もせず、通り過ぎた。





 中に案内されて、昨日と変わらない部屋が見えた。

 一人の少年には広すぎる、寂しい部屋だ。


 少し違ったのは、出迎えてくれた彼が、昨日よりずっと分かりやすく“おかしかった”事だ。


 アリアスに気づいているだろうに、エミリオは窓の外を見たままだ。

 強張った横顔で彼は話した。




「……明日、王女をここに招くそうだ」


 それは、答えを出さなければいけない期日がきたという事だ。


 顔色が悪い。血の気が引いている。


「眠ったらどうだ。疲れているんだろう」

「……眠れないんだ」


 アリアスは溜息をついた。このままでは彼は倒れてしまうと思ったから。



「横になるだけでいいから、寝台に行け」


 渋るエミリオを追い立てて、寝台にむかわせる。

 彼は諦め、上着と靴を脱ぎ横になった。

 アリアスはシーツを上にかけた。


「……子どもになったみたいだ」


 エミリオがアリアスを見上げながら言った。


「11歳は十分、子どもの範疇だろう」

「そういえば、そうだったね」


――忘れていた。


「……いいんだ、少し休んでも。今まで頑張ってきたんだ。少しくらい休んだって、責任を放棄した事にはならない」





「アリアス、泣かすな」


 彼は泣いた。腕で顔を覆っているが、強張った口元は隠せていない。


「優しくされると、泣きたくなる事があるんだな。今まで知らなかったよ」


 ようやく、彼が顔から腕を退かした。

 眼が赤い、泣いた事がすぐ分かる顔だった。

 アリアスは彼が泣きやむまで、何も言わずに傍にいた。




「今まで気にしてなかったんだ。……誰に何を言われても。気にならなかったと言った方が正確だけど」


 天井を見ながら、ぽつりと彼がつぶやいた。


「……でも私は彼女を知って、好きになって弱くなった。彼女が笑うと、心があたたかくなる。私は今まで、心が冷えていた事すら知らなかった」


 言葉にだすだけで彼の心はあたたかくなる様だった。だが――


「――でも彼女にとってそれは友情で。伝わらない、返されない思いはつらいな。……あの方の賛同が得れない事も、拍車をかける」


――私は弱くなった。


 エミリオの視線がアリアスにむいた。


「だから、君に話が聞きたくなった。他に聞ける人もいなくて」

「何が、聞きたいんだ?」



「……君は恋をして弱くなった?」


 はじめてアリアスと会ったときの会話のせいだろう。

――もう会えない人間を変わらず愛しているアリアスの話が聞きたくなったのは。






「――――私が思うに、どちらでもいいのだと思う」


 アリアスは不思議な程、強張った声で言った。感情をこぼさない様にと、できるだけ平坦に。


「弱くなる事が嫌なら、諦めたらいい。彼女が好きで諦められないなら、自分の弱さと戦えばいい。それだけだ」


 エミリオにはその理由は分からなかったが、アリアスに聞いてはいけなかった事だとは理解できた。

 だが謝罪も彼は求めていない様だった。彼の話は続く。


「彼女を諦められるか?」

「それは――……できない。耐え、られない」


 想像したのだろう。エミリオは悲愴な顔をした。


「なら、覚悟すればいいだけだ」



 エミリオを見ながら、アリアスは昔に思いを馳せる。


――自分のした覚悟を。


 何を失くし、何と戦う事になろうとも。


『……我が心を貴方に、我が命尽きるまで、ともにある事を願う。我が心は変わらず。我が思いは誓いとなり、君に捧ぐ剣となる』


……貴方に捧げたい、私の心を。最期のときまで一緒にいてほしい。私の心は変わらない。その思いで、君を守りたい。


 これがアリアスのした“覚悟”だった。




「覚悟……」


「……私が時間を稼ごう。君に考える時間をつくろう」

「そんな、事をしてもらうわけには」


――アリアスは、一人くらい彼を守る人間がいてもいいと思った。

 例え、“アリア”が応えられなくても、自分だけは。



「この前の襟巻きは、少々、品が良すぎたからな。これくらいなら構わない」


「相手は王女だ。……相当、気難しい方と聞いている」


 恐らく、自分は王女に傷一つつけない。時間稼ぎだけならできるとアリアスは思った。


――必要なのは彼の言葉ただ一つ。


「私に賭けるか?」


「……君を信じる」


 なら、応えよう。君の期待に。



 少年の安らかな寝顔が見れた。






今後の展開について


 アンケートなどでお騒がせしましたが、ようやく今後についてどうするのかを決める事ができました。


 アンケートでは皆さま(ご意見、ご要望も書いて頂けましたが)


『一番は作者の思い通りに進める事』とほとんどの方の感想、メールにて言って頂けました。


(皆さまには感謝しきれません。本当にありがとうございました!!)



 なので、私なりに精一杯に考え答えを出しました。


 『君を守りたい』は

 第一部と第二部からなる構成の作品にしたいと思います。


 そして“第一部”は私の考えでは

[今掲載されている雰囲気のまま。どなたでも抵抗なく読めるであろう作品]

として完結します。


 そして“第二部”は私の考えでは

[(私の中では違和感なく)二人の恋愛が進展する。もしかすると嫌悪を感じる方もいるかもしれない作品]

として完結します。




 第二部に関してはご自分で、読む読まないを判断して頂きたいと思います。


(なんといいますか、内容に関しては作者を信じてくださいとしか書けません。)


(不安な方は活動報告に移動させた『アンケートについて』のネタバレ部分を読んでください。それで多少の予測はつくかと。)


[長くなりましたので、詳しい経緯は活動報告に載せています。]



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