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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
24/62

獅子の眠りを妨げる事なかれ

 エミリオと別れアリアスがむかったのは“導きの塔”だった。塔の主人は昨日会ったときと変わりなくアリアスを迎え入れた。


「なんです? いつもの“手筈”はとってありますぜ。そろそろ宿に行った方がいいんじゃないですかい?」


 “手筈”それは『アリアが王立図書館近くの宿をとり家に帰らない事をウォルシュ伯爵邸に伝えている』それだけの事だ。あとはリードの息がかかった宿に行けばいい。


――だが、そんな事はどうでもいいのだ。ここにいて“全て”を知るリードに説明はいらない。


「リード」

「なんです?」


「……分かっているだろう? 今回の主犯や目的の情報だ」


「どうするんで?」

「分かっているのに聞くのは、悪趣味だと思わないか?」

「へいへい」


 リードは本当に“腕の立つ”情報屋だ。


 エミリオのいる空家の近くのもう一軒を囮に、敵に情報を流した。その情報をアリアスが受け取り敵を待ち構えたのだ。


――つまり、リードは最初から知っていたのだ。この依頼が“誰”のものを“誰が”盗んだ話しなのかを。それを分かっていたから“アリアス”に頼んだのだ。


 “彼”の敵は、アリアスの敵なのだから。





――さて、今日も元気に日記を書くとするかな。

(やはり自分の部屋とはいいものである。ほっとするな)


 昨日は川を泳ぎ、町を走り回り、戦闘も熟した。さらには睡眠もとっていないのにこの元気!

 ふっこれぞ日頃の鍛練の成果よ。


…………いかんな、嘘は。むなしい、だけである。


 現実から眼をそむけてはいけないな。いろいろと今後の事や反省を書きたかったが、まず最近の“失態”を書かなくてはな。

(というか、まずそこから反省しないと動けないというか。まぁ、いいか。全部書けばいいのだ)


 私は元気である。これは嘘ではない。だが、当然であるのだ。


――さっきまで寝ていたのだから。

 どこで寝ていたのか分かるかね?


 それは学院から帰る馬車の中か。はたまた仮眠室の中なのか。不覚にも倒れて救護室の中なのかもしれない。

 そして――大胆不敵に講堂の中、なのかもしれない。




 正直に書こう。私はとても眠かった。

 導きの塔から宿に行くところまではよかった。まだ私は緊張感をもっていた。だが、そこからは――もう駄目駄目であった。


 急いで宿に着き、邸へと馬車でむかった。そして用意をし学院へ行った。


 瞼は重く足取りも危なかった。

(だ、だれか殺気か闘気をむけてくれ。そうしたら二、三日は起きていられる)


 壁には激突しそうになるし、ノートの文字は読めないし……もう最悪である。


……激突はしていない、エミリオ少年に助けられたのだ。


(回数は分からん。意識がないときも含めると一体何回なのだろうか。わ、私は、どうしてこんなに彼に迷惑をかけているのか。彼は熱がでたばかりなのだぞ!)


 だが、それでも昼まで意識があったのだ。

 完全に意識が途切れたのは、最後の講義のときだった。





――かすかな音が聞こえた。なんだろう、軽い音。気になって眼を開けた。


 あたたかくて、起きたくないなとも思ったのだが気になった。


 暗い部屋に、蝋燭の明かりが優しく広がっていた。

 だんだんと意識は鮮明になり、すぐ音の理由は分かった。

 本のページを捲る音。ペンが文字を書きこむ音。


 問題は“誰の音”か。


「眼が覚めましたか?」


 すぐ傍で声がした。私の頭上である。

 跳ね起きた。

 私は、エミリオ少年に肩を貸してもらっていた。


「ご、ご、ごめんなさい!!」

「いえ、大丈夫です」


 な、なにを言ってるんだ、君は!もう真っ暗じゃないか!誰もいないぞ!!それに、いつも君は課題をして、とっくに終わっている時間じゃないか。


 体も疲れたはずだ。彼はほとんど動かなかったはずだから。

(私は寝ていても“動いた”気配にはちゃんと起きれる。彼が壁みたいにいてくれたから寝れたんだろう)


 真っ青になった。


「……本当にごめんなさい。でも、どうして」


――起こしてくれなかったんだ。そしたら、君は早く帰れたのに。


 言葉は言わなくても彼に伝わったらしい。

 もう一度彼に“大丈夫なんです”と言われた。


――そして


「幸せでしたから」


 ほんとに、ほんとに嬉しそうな顔で笑うから。





 アリアはうめく様に声に出した。


「――だから、もう」


 何を言ったらいいのか、分からなくなるんだ。

 





――そんなときだった。メイドが新しい紅茶をもってアリアの部屋にきたのは。

 アリアは入室の許可を願うメイドの声で冷静になり、居住まいを正した。


(危ないのである。あんな苦悩していると分かる姿を目撃されれば、一体どうなる事か。――みな、心配しすぎるのだ)


 そんな事を考えているときだった、メイドが予想外のものに注目したのは。


「まぁ、お嬢様、これは? 素敵なお品ですけど」


 アリアばっと立ちあがった。


「そっそれは」


 エミリオから“アリアス”が貰った襟巻きである。


「男性物ですわよね?」

「え、えぇ」

「ご当主さまのでも、兄君さまのでも、ありませんよね?」

「え、えぇ。……あ、あの貰いものなの。大切に保管したいのだけれど、どうしたら」


 本当にいい品なのだが、川に落ちてしまったので少し汚れている。

 メイドに洗い方を聞いて自分でしようかと思っていたのだが。


「おまかせください!! 全力を尽くします!」


 なぜかなぜか、メイドは興奮したように叫んだ。

 まずは『汚れを丁寧に落とさなくては、そして陰干しに』『ああ、箱はどうしたら』等とぶつぶつ言っている。


 今は夜中である。そんなに頑張らなくても、と事の事態を理解していないアリアは戸惑った。だが、とりあえず感謝した。


「あ、ありがとう」


 メイドは使命感に燃えていた。


――お嬢様の初恋を応援しなくては、と。


 翌日、アリアは母親とメイドたちから、微笑ましいものを見る様な目で見られ続けた。


 なぜ、と思いつつ聞く事もなぜかできなかった。

 事の真相を知ったのは、さらに翌日の事だった。


『相手はどこのどいつだ!!』と絶叫とともに兄がやってくるまで。





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