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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
19/62

最悪なできごとと

今日は少し早めに投稿出来ました。明日からも頑張りたいと思います。

あと、たくさんの方に読んで頂けているようで、とても嬉しいです。

感想、評価、お気に入り登録もありがとうございます。

楽しんで頂けるよう頑張りたいです。


 背後から近寄ってきた気配。アリアを抱き込むように伸ばされた両手。

 その片手をつかんで身体をひねり、もう一方の手を襲撃者の首元へ突きだす。


 首の皮一枚で止める。そのつもりだった。だがアリアは驚き、手元が狂う。襲撃者は目を見張りながらもアリアの短剣を持つ手を押さえたが。

 頬に線が一筋、赤いしずくが滲みだしていた――


 アリアは声にならない悲鳴を上げた。




 王都の発展した街の中でも、上層階級御用達の店が連なる通りを人目を引く二人連れが歩いていた。

 一目で分かる貴族としての気品、そして何より容姿の美しさと――異様な雰囲気に。


 一人は茶の髪に、まだどこか幼さがある顔立ちの美しい美少年だった。そしてもう一人は――本来なら、儚げな美少女と言われるであろう金の髪の娘は、大変おかしなことになっていた。


 人生が終わったかのような顔である。眼はうつろい、死霊のような動きである。少年が優雅に腰を支えて、なんとか歩いている状況だった。


「私といてもつまらないかな?」


 少年、エミリオは苦笑しながら話しかける。


「断じてそのようなことはありません!」


 アリアは即座に姿勢を正し、機敏にこたえた。だが、相変わらず血の気はなく悲壮な顔である。


「気にしなくていい、と言ったはずですが」

「そんなことは駄目です! 貴方は、怒って、罵って、蔑んでもいいんです。わ、私はそれくらいのことをしました」


 今度は青い瞳が涙で潤んでいる。少年は溜息をつき、そのしずくを指で拭う。


「なかなか頑固な方ですね。この程度のことで泣かないで下さい。それに――だから今、償って頂けているはずですが」

「こんなものは償いになりません!!」


「そうですね」

「なら」


「このままでは、ですが。せっかく貴女と遊びに来ているんですから、笑顔の貴女が見たいんです」


 だから笑って。


 アリアは負けを認め、精一杯今日は笑うことにした。




 あの東屋でアリアは、背後からの襲撃者をいつもの変質者、信奉者、誘拐犯のどれかだろうと思い冷静に対処しようとした。


 だが、想定外の人物に驚き手元が狂い、そして反射的に逸らした結果、彼の顔を傷つけた。

 エミリオの顔に走る切り傷は深くはなかった。だがアリアはエミリオの制止を聞かず、すぐさま鞄にあった傷薬を取り出し手当てした。


 アリアの顔に傷がつくよりは問題はなかったはずだ。だが、アリアは血の気の引いた顔で謝罪し続けた。


 それは、エミリオがどうなだめても止まらず、仕方なく『――では償いとして、私に貴女の時間を下さい。今日は街に行ってみようと思っているのです。その付き添いを貴女に頼みます』とアリアに告げたのだった。





――アリアはとびきりの輝くような笑顔をふるまった。最初は“今日は笑うぞ!!”のような硬く強張った笑顔だったが、その後は自然な笑顔になっていた。


 おかげで背後で見守る護衛達が大変だった。


 少年から『何があっても不審な男は近寄る前に排除しろ』という命令があったからである。今日はなぜか通常の倍以上の護衛をつけていたが、それでもだった。


 なにせ、街を歩くほとんどの少年、青年、そして……中年(と、ごく少数の老人)が頬を赤らめ立ち止まる。そこから、すうっと引き寄せられるように近寄ってくる連中はまだ少数ではあった。にしても多い。


 これじゃあ、背後から(足音を消して)来たエミリオ様に短剣を向けても仕方ないよなぁ、と護衛達は思った。まわりが敵だらけだもんな。そう思う自分たちでさえ、綺麗だなぁと顔が赤くなってしまうのだから。

(新しい文具でも買ったのか、欲しい本でも買ったのか可愛い顔して喜んでいる)


 綺麗な娘は大変だ。





 買い物と見物を終え、アリアはエミリオと共に王都の中心からそれ程離れていない河原にきていた。


 腰を支えていた手はいつの間にかアリアの手を握っていた。

 川辺に立ち、なんだかエミリオは無言だった。アリアはどうしたらいいのか分からなかったから、じっと川面を見て待ってみた。


 すると、おもむろにエミリオは話し出した。


「今日、はじめて街を歩いたんです。あと河原もはじめてですね。いつもなら課題をしている時間です。――ああ、違うこんなことが話たいんじゃない」


 いつも明朗な印象の人が、どうしたらいいのか悩んでいる様だった。


「困らせてしまって、貴女に悪いことをしていると思っています。自覚もあります。でも、目的の為には、いつも思いつく限りの手を打つことが普通でした。そして今回も負けるつもりはない。――というより一番負けられない勝負だと思っています」


 エミリオは少し苦しそうに言う。アリアは前から聞きたかったことを聞くことにした。


「なぜ? 前は驚いて聞けませんでしたが、私は貴方とまだ会ったばかりで、そこまで思われる理由が分からないのです」


「……そうですね。自分でもなぜか分からなかったんです。はじめは、そうですね、正直に言います。本当にお綺麗な方だったから気になったんだと思います。それからは、そう手を握って下さったとき、あたたかいと思ったんです」


 ぽつり、ぽつりと彼が話す。前の、たたみかける様な告白じゃない。穏やかに、多分、彼の真実を言っている。私の心に伝えるために。


「それから、夜、学院から帰って、寂しいという気持ちになるようでした。なぜか、無性に、貴女に会いたいなと思うのです」


「だから今は、寂しくありません」


 貴女がいるから。

 手が少しきつく握られた。言葉じゃなくても、気持ちが伝わってくる。そんな雰囲気。



「貴女と一緒にいたい、ずっと一緒にいたいんだ」



 なぜかアリアは驚いたような、懐かしむような顔をしてエミリオの顔を見ていた。





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