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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
17/62

思いをかけて、君と

「貴女がほしい。それだけだ」


 衝撃的なセリフだった。


「分かりましたか? 直接的に言った方が分かりやすいのでしょう?」


 言葉とともに、彼が一歩、一歩近づいてくる。


「貴女の声がほしい。手がほしい。笑顔がほしい。全部ほしいんだ。他の奴に渡すなんて考えたくもない」


 私は無意識で後ろに下がっていたようだ。背が東屋の柱にぶつかった。――もう後がない。

 彼は止まらなかった。追いつめられた。


「私はなにも惜しまない。行動も、言葉も、方法も」


 頬に触られた。手も握られる。


「どうしたら貴女は私を選んでくれる?」


 とても近い距離で話しかけられる。



 どうしよう。どうすれば、いいのだ。わからない。言葉が出なかった。


 できない。無理だ。

 私は生涯、彼女を愛すると誓ったのだ。彼女に、そして私の魂に。

 彼女は決して、彼ではないのだ。彼を傷つけたくないんだ。――でも。


 私の葛藤を感じたのか、少年は身体を離した。

 そして。


「信用できないということなら、――貴女に剣を捧げます」

「!!」


 剣を捧ぐ――この国で、忠誠と誠意を相手に伝え、誓う儀式だ。


 生涯で二度しか許されない。


 一つは、主君に。

 一つは、最愛の君に。


 もし誓いを違えることがあれば、死をもって償う。


 私は前世、勿論エミリアに捧げた。彼女以外考えなかった。彼女でなければ、意味がないのだ。

 そう思っていたから後悔なんてしなかった。


「や、やめてください!!」


 彼が、私にしていいものではなかった。


「私では駄目なのですか」


 彼が切なく、苦しそうな顔をしている。


「……ごめんなさい」

「好きな方がいるのですか?」


 エミリアのことを説明できるはずがない。

 私は黙った。黙るしかなかった。

 彼はそんな私を見て少し沈黙した。何かを考えているようだった。


「……そうですか。例え、友情であっても、貴女が私の手をとったことに変わりはない。なら――今から言う質問を『はい』か『いいえ』で答えてください。首肯でもいいです」



 それからなされた質問は拍子抜けするような気軽なものだった。


 好きな本、作家、色、家族、そんな他愛もないもの。

(私は、大人のはずなのに、こんな少年に気をつかわせてしまっている。情けない)

 その気づかいを嬉しい、と思ってしまった。


 彼の空気が少し変わる。とうとう本題に入るようだ。


「私のことが嫌いですか?」


 そんなことはない! 頭をぶんぶんと横に振った。


「では私のことが好き?」


 ちょっと躊躇って、頷いた。


「私の恋人になりたい?」


 !!と、とんでもない。盛大に頭を振った。


「……私の友になりたい?」


 とてもなりたい。力の限り勢いよく頷いた。

 『そうですか。わかりました』と彼が言い、さらに言葉を続けた。



「では――私と勝負しませんか?」


 なにを、と思って彼を見た。


「貴女は私の友になりたい。そして、私は貴女がほしい。詳しく言うなら、恋人、いえ生涯の伴侶になってほしい。……だから貴女は私に友情を感じさせるよう、努力してください。――可能性は限りなく低いですが、あるかもしれません。私は貴女が私に愛情を感じてくださるように努力をします」


 決意を込めた目線が真っすぐに私を見る。


「貴女が勝てば、私は貴女に『友になってほしい』と伝えます。私が勝てば、貴女は私に『恋人になってほしい』と言ってください」


 結婚してください、でもいいですよ。そんなことを彼は軽く言う。



「私との勝負、お受けして頂けますか?」


 右手が差し出される。


「……私が勝てば友に?」

「えぇ」


 私はエミリオ少年の手をすぐさまとった。

 引き分けはあっても、負ける事はない。そう思ったからだ。


「期間は卒業までで、よろしいですか?」


 頷く。これからどうしよう。さっきまで停滞していた思考が、嘘のように動き出す。


 彼に私がいかに、友にむいているか。友情を育む相手として相応しいか、どう伝えよう。

 思わず彼に伝えた。


「頑張ります。私の気持ちが伝わるように。貴方の友情が得られるように」


 久しぶりに笑顔がでた。いつも押さえていたが、私のやる気を伝えるにはいいと思った。



 エミリオ少年は、そうですか、と言い、なぜか一瞬口元がひきつった様な顔をした。

 でも、次の瞬間には、優雅な微笑になっていた。


「私も、努力します。……覚悟、してくださいね」


 笑顔の彼は文句なく、美しかった。

 なのにそう言った彼が、なぜか少し、怖かった。



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