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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
14/62

君に捧ぐ闘い

「失礼いたします」


 鍵の開けられる音がした。

 そこへ、一人の少年がそっと扉を開け入ってきた。とても緊張している事がその顔から見てとれる。


 簡素なテーブルと椅子だけがある小部屋だった。

 椅子に腰かけた金の髪の少女が少年を見た。

 少年は中にいる少女、アリアの美しさを知っていたが、その美しさを見てしまい罪悪感を感じた。

 理由は勿論あった。だが――ほんの少しであっても、この人を閉じ込めた事に変わりはなかったからだ。


「ア、アリア様、この様な場所に閉じ込めてしまい申し訳ございませんでした。これから闘技場まで、私がエスコートさせて頂きます」


 少年は片膝をつき、少女にむかって手を差し出した。


「必要ありません。道案内のみ頼みたいと思います」


 少年は驚いた。アリアはその外見から、とても儚く、意思の弱い女性だと思っていたからだ。


「で、ですが、途中歩きにくい場所もありますし」

「必要ないと、私が言っているのです」


 だが、それを否定するように威厳をもった少女の声が部屋に響いた。

 少年に反論は許されなかった。




 闘技場は人で溢れかえっている様だった。

 アリアと少年はまだ中へと入っていない。だが、沸くような歓声が外まで聞こえてくる。全生徒が見にきている様だった。


「アリア様、こちらでございます」


 アリアが連れてこられたのは、この広い闘技場の中でも、最も見晴らしのよい場所の席の様だった。

 その上個室になっており、いかにも特別席という感じだった。


 だが、それはアリアの求めたものでは全くなかった。


「……証人には私がなるのではないのですか?」


 証人とは決闘責任者のことだ。決闘をする両者にとって中立の存在。

 アリアは自分がその役で呼ばれたのだと思っていた。


「アリア様にその様な煩わしい事をして頂くつもりはありません。ご安心ください。証人には講師のベーガン氏をたてています。……こちらで決闘が終わるのをお待ちください」


 アリアは今日、我慢に我慢を重ねてこの場にいた。その我慢の限界が来たようだった。


「なにを言っているのです!! 私が見届けずして、だれが見届けるというのですか!!」


 機敏に立ちあがり、決闘場まで駆けていくアリアを少年はとめられなかった。




 かかげるは赤の旗。かかげるは黒の旗。

 中央に立つのは証人、決闘責任者。

 使うは一本の剣のみ。

 勝利の乙女は、どちらに振りむくのか。



 アリアは駆けた。

 ドレスの裾が邪魔だった。

 駆ける彼女を見た観衆が驚いた様に目を見張った。淑女は駆けないものだからだ。


 だが、それがどうした。

 決闘とは誇りをかけた闘い等ではない。ただの殺し合いだ。

 少なくともアリアはそう思っていた。だからこんな馬鹿な事は絶対とめるつもりだった。

(証人の場所からなら簡単だったのに)


 決闘場から離れた特別席からここまで来るのに、随分かかってしまった。時間がない。


――そう、思った時だった。

 少年、いや青年が立っていた。アリアを通すまい、と道をふさいでる。


 あと少しで、観客席から闘技場へと行ける道だった。焦りをそのままにアリアは早口で言った。


「そこを退いてください!」

「いいえ、退きません。席にお戻りを」


 実直そうな青年は、ただ平坦に告げる。

 この青年を武器もなく、どう退けるか、アリアは考えた。


 だが――


「それに、もう始まってしまいます」


 怒涛のような歓声が響き渡った。決闘ははじまってしまったのである。




「黒の旗、エミリオ・ハーウェルン」

「はい」

「赤の旗、シザック・ベイン」

「はい」


 証人の声に従い、両者は一歩前に出た。

 この国の伝統的な決闘法だった。


 決闘を申し込むものは赤をかかげ、受けたものは黒をかかげる。

 勝負は一本。どちらかが戦闘不能とみなされるまで。


「ここに、アリア・ウォルシュ嬢の自由をかけた、決闘をはじめたいと思う。――黒が勝てば、このまま何もなし。だが、赤が勝てば、黒は今後アリア嬢に過剰な接触をしない。両者、異議はないな?」


「相違ありません」

「ありません」


「では、構えて――はじめっ!!」



 勝敗は、一瞬後には決まっていた。





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