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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
12/62

布は覆い隠す

たくさんの方に読んで頂けているようなので、とても嬉しいです。

評価、お気に入り登録もありがとうございます。

続きを書く元気がでます。

 学院の食堂では一つのテーブルが注目を浴びていた。

 そこには金の髪の少女と、茶の髪の少年。二人とも麗しいと言っても過言ではない容姿。


 だが、決して楽しい食事をしてはいなかった。

 少年は優雅に食後の紅茶を飲んでいたが、少女は食欲がないのか、ほとんど食事が進んでいなかった。

 少女は意を決して少年に話しかけた。


「……なぜ、となりにいるの?」

「貴女がいるから」


 少女は絶句した。精一杯の勇気を出して言った言葉に、そんな返答が来るとは思わなかったからだ。

 少年はその様子を笑い『ようやく、聞けましたね。もう少し早くその質問が来ると思っていました』と続けた。




――耐えれぬっ! 耐えれぬぞ!! もう、もう吐き出さねばやっておれぬ。

(ここが学院だろうと、もうかまわぬ! 日記には鍵だけでなく、新たなもので隠蔽もした。中身の重要さなど、誰も気づかぬよ)


 朝からエミリオ少年がずっっと傍にいたのだ。


 まず、最初の講義が始まる前に、横に座られた。

(隣、よろしいですか? の一言もないのだぞ! 思わず横を見たら、自然な笑顔で『何か?』と私の疑問は黙殺された)


 おかげで歴史学の共同研究者に自然になっているし、講義室の移動も当然のごとく一緒だった。

(自然に扉を開けて、エスコートをしてくるあの少年を、誰か、どうにかしてくれ!! 泣いてしまうぞ)


 なぜか、この前の大勢の取り巻き連中は近寄ってこないし、どうしろというんだ。

(ク、クレア嬢は怖くて見ておらん)


 昼食を食べるため行った食堂でも、なぜかエミリオ少年は私と相席したのだ。

(というか、混んでいる食堂の中で颯爽と席をとった彼にエスコートされたというか。いやいや、そんなはずはない)


 まぁ、そこでようやく『なぜ、君そこにいるのかね』と聞けたのだ。


 すると彼は『前に言いましたよね、“貴女とならば、私は良い関係を築けると思います”と。……だから、良い関係をつくりに来たのですよ、私は』と言ったのだ――






――パタン、とノートは閉じられた。


 革靴の音は静かな図書館によく響く。

 アリアは背後の人物に対して緊張している事を悟られぬよう、肩の力を抜きペン先を布で拭った。


「また書き物ですか。何か調べものでも? 大変可愛らしいノートだが」

「えぇ、その様なものですわ」


 エミリオはまた、断りもなくアリアの横に腰かけた。どうやらまた課題を熟すためにいる様だ。


 アリアは自然な動きで、レースが布に縫い付けられたカバーのノートを鞄にしまった。

 そして中から本を取りだし、それを読みはじめる。




 音のない時間が長く続いた。

 アリアは一冊が読み終わり、エミリオに挨拶をして帰るべきか悩んだ。

 そのときだった。


 静かな、静かな図書館だから、聞こえてしまうほどの囁き声。

 本棚、二つほどむこう、少年二人の声だった。


「……はぁ、あのお坊ちゃん何考えてるんだろうな? ま、あのアリア様の美しさにやられたって事かな。でもあのお坊ちゃんなら、もっといいとこから貰えるだろう? 僕らのアリア様に手を出さないでほしいんだけどな」


「将来の側近候補様の考えねぇ。……頭が良すぎるやつの思考なんか分からないさ。普通なら結婚前の恋人ってやつじゃないか? それ以外の可能性もあるかもしれないが。…………俺たちは精々反抗しないで従っておけばいいのさ。将来の為にね」


 二人の少年は声を大きくしては言えない事をいろいろと話をしていた。アリアが呆然としているうちに声は遠ざかり離れていった。



 アリアは驚いていた。内容にではない。邪推、悪意、媚、そんなものは日常によくあるものだ。驚く事はない。

 でも、あの声は――アリアは横で、何事もなかったように課題を熟す少年を見た。

 あれは彼の取り巻きの一人の声だ。アリアの視線に気づいた彼が答える。



「私たちのいる世界はこういうものだろ?」


 平然と本の文字を目で追いながら、エミリオは話す。


 アリアはなぜか、彼の机に置かれた右手に、自分の手を重ねた。

 衝動、だった。


「ごめんなさいっ」


 手を離そうとしたが、つかまれて、それはできなかった。


「なぜ?」


 エミリオの瞳はまっすぐアリアを見た。


「……昔、落ち込んだときに、してもらって嬉しかったから」


「私が落ち込んだとでも?」

「だから、ごめんなさいと」



 アリアの言葉は途切れた。


「あたたかいな。貴女の手はあたたかい」


 彼が切なく、切なく、彼女の手を見つめたから。






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