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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
11/62

乙女のなみだ

――この日記に、嬉しいことを書く事は難しくなってしまった。

 前のページは変なところで文章が切れているし、急いで閉じたので汚くなってしまった。まぁ、いいか。


 また今日も書こうと思う。

 落ち着くな。ここは自室であるし、闖入者などありえないからかな。


 私の嬉しい事、それは勿論、エミリオ少年を助ける事ができた、そう思ったからだ。

 もう、嬉しい事では、なくなってしまったが。



 それは図書館での事だった。

 私は諸注意や講師の顔合わせのあと、そのまま帰るのではなく図書館に寄ったのだ。

(落ち込んだ気持ちを、明るくしたかったのだ)


 この学院は王都で王立図書館に次いで本が多い場所だった。

 数は王立図書館の方が多いが、研究のための専門書はこちらの方が数があるのだ。


 だが、この学院の図書館は一般公開されていない。学生と研究生にのみ開かれているのだ。

(前世、あれほど本に興味がなかった私が、今では本の虫と家で呼ばれるようになった。今になって、昔、課題の為に読んだ本がどれだけ貴重な物だったかが分かる)


 だから、早速初日から図書館に向かった。また学生になったら、全ての本を読もうと思っていたからだ。


 そこで、私はもう帰ったであろうと思っていたエミリオ少年を見つけた。

(この日は一学年のみの登校日なので、他学年は来ていない。だから、何も気にせず悠々と本探しができると思ったのだが)



 彼の視界に入らぬように、さっと本棚の影に隠れた。

 彼は荷物をどこかの席に置いてきて、本を探しているようだった。

 本を棚から出して中を見ては、すぐに戻す。それを何度も繰り返していた。


 なにを、探しているんだろう。

 私はこれでも、過去に学院を卒業もしたし、今では本もたくさん読んでいる。


 私の知識で彼を助けれるかもしれない。

 でも、声をかける事もできない。そんな事をしたら不審者である。


(親しくもないのに、いきなり『何の本を探しているの?』は変だろう。しかも彼は私より賢い少年なのだぞ。聞いておいて分からない事だったらどうする。この世から消えたくなってしまう)


 とても、残念だった。だが、このまま彼をこっそり見ていても不審者だと気づき、反対方向へ歩き出した。



――だがそこで、おそらく彼の荷物の乗ったテーブルを発見した。

 不用心である。彼の上着と鞄、ペンにインク。そしてノートと――紙の束だった。


 これは、課題なのだろう。学院の講師のではなく、彼の家庭教師の。


 午前のクレア嬢の三時間に及ぶ話の一つを思い出した。

 優秀すぎるエミリオ少年は、これまた優秀な家庭教師を雇っており、いつも彼の鞄には、必ずノートと大量の課題が入っていると。

 そして、平然と熟なすのだそうだ。


 紙の束には一問以外、全てに回答が書かれている様だった。悪いと思いながらも内容を軽く見る。

 教師の要求した答えを、資料を探して回答せよ、というものらしい。


 彼の優秀さが伝わる、この歳の少年に望むレベルではない難易度だった。

 その中で、一つある未回答。問題を見た。


 それは、各領地の詳細な鉱石の採掘量を求めるものだった。


 驚いた。私はこれを知っている。

 なぜなら過去、といっても大昔にこの採掘量が私にも必要だったからだ。


――今も、昔と変わらずの場所にそれがあるなら。


 私の無表情のはずの口元が緩んだ。



 結果は、私の馬鹿さ、阿呆さ、考えたらずを露呈する最悪なものだった。


 彼は採掘量が分かったらしい。それはとてもよかった。


 だが、だがな、なぜかそれが私の犯行だと露見したのだ。

(私の望みは、こっそり影から、そうとは知れず助ける事なのだ。それが、早々に露見してしまった。これからどうすればいいのだ。な、涙が。いや、泣いておらぬぞ!!)



――はぁ、犯行を問い詰められるし、自白させられるし。彼はもしかすると私などが手助けする必要がないかもしれ……いやいや、まだ彼は11歳だぞ。


 子どもなのだ。まだまだ、大人の庇護も必要なはずだ。



――――いや、彼の立ち去るときのあれは、いや、なんでもない。考えるのはやめよう。

(私が疎いだけなのだろう。普通はこれくらいの歳で、あれくらいの気安さでするものなのだろう、多分)



 昨今の11歳とは早熟なのだろうか。私が彼と同い年のときには、もっと子どもらしい子どもだったんだが。


 勉学はそれほどしなかったが、剣術は頑張っていた。鍛練し、少しずつ強くなる事が嬉しかった。

 友と遠駆けしたり、街にいって買い食いしたり、普通の少年だったと思う。


(家柄も血筋も悪くはなかった。だが私には兄上がいらしたし、気ままな子どもでも、よかったのかもしれない)


 もっと、もっとよく彼の周囲、環境を考えて、理解できなければ彼は助けれないのかもしれない。



 私は彼に、婚姻もなにも望んでいない。ただ、幸せでいてくれるなら。

 だから、彼が私が傍にいる事を望んだら。


『私に、関わってください。貴女とならば、私は良い関係を築けると思います』


 私は怖い。私は彼が怖い。

 言えない。私は君を見ていないと。


 君の幸せを願いながら、私は君との関係を望んでいない。

 私は、君が君だから好きになったと言えないのだから。








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