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ひとり達のanthology  作者: mina


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第九話 一月二日のコロッケ

自分がまるで機械の一部になったような感覚になることがある。


昨日と同じ今日があり、今日と同じ明日がある。

昨日と同じ言葉を交わし、明日も同じ会話をする。


シフトは二十三時から朝八時まで。朝に帰宅して、夕方に起きる。そんな生活をしているうちに、連絡を取り合う相手はいつの間にかいなくなった。


今日最後の配送先に到着。

一月二日の早朝。冷えた駐車場に他の車はない。

このコンビニは、大学の近くにあるからか、学生アルバイトが多い。店長も優しい人だから、ここに来ると、ちょっとほっとする。


(コロッケ、残ってる)

ホットスナックのケースをちらと確認した時、奥から店長が出てきた。

「ああ、どうも。あけましておめでとうございます」

「あ、はい。あけましておめでとうございます」

ただ相手の言葉を繰り返すだけの自分が、ちょっと情けない。


その時、チャイムの音が高らかになって、家族連れが入ってきた。

「あ、店長いた!」

「おお~、澤田君。一昨日はおつかれさま」

「おつかれさまです。やっぱりここでカウントダウンすると、良いですね」

「年末カウントダウンを始めた張本人だしね」

店長と『澤田君』が笑う。奥さんも加わる。

「店長、この人、急に『店長に会いたい!』ってLINEしてくるんですよ。まったく、どれだけ店長のこと好きなのって感じですよ」

「何かあった? 一昨日会った時は何も言ってなかったけど。僕の白髪が増えたことしか」

「そんなこと言ったの? 相変わらずひとこと多いんだから」

「ハハ。電車で隣に立っていた人が、席を横取りされたのに全然怒らなくて。何て言うか、その、柔らかい雰囲気が店長に似ていたんですよ」

「一応褒められているのかな? ありがとう」


三人の話を部外者の私が聞いていても良いのか、居心地が悪くて落ち着かない。だが、会話に割って入る勇気もない。

先ほどから見ているふりをしている端末の画面は、もう入力すべきものは何もない。


店長が『澤田君』の隣に立っている男の子に目を移した。

「子どもたちもまた大きくなったね。お兄ちゃんは飛行機が好きなんだ」

「そうなんですよ。今はまってて。……飛行機を見ると、空港で働いていた時のことを思い出します」

そう言いながら、『澤田君』は、飛行機のおもちゃを大事そうに持っている男の子の頭を撫でる。奥さんはこちらの方へ軽く頭を下げてから、小さい子の手を引いて店の奥へ歩いて行った。


「あのショップの店長から、『うちのバイト君がAIの勉強をしたいから大学を受けなおすと言い出した』ってLINEが来たの、覚えているよ」

「ハハ。こっちに戻るって話した時に、『前の店長と同郷だ』ってなって、店長を紹介してもらって。人生は、どこでどう繋がるのかわかりませんね」

「おっ、なかなか深いこと言うね」


奥さんが飲み物やおにぎりなどをかごに入れて戻ってきた。

レジに立ったスタッフさんにかごを渡しながら言う。

「コロッケを三つと、ポテトを二つください」


ハッとして思わず顔を上げる。


そこへ、店長が声をかけた。

「あ、すみません、コロッケはひとつ先約が入ってて。からあげがさっき揚げたばかりなのでおすすめですよ」

「あら残念。ここのコロッケおいしいから、楽しみにしていたのに。じゃあ、コロッケ二つとからあげ二つにしてください」

「さすが店長、商売上手ですね」

『澤田君』が言い、私以外の皆が笑っている。私も笑った方が良いのかなと思った時には、すでにタイミングを逃している。


『澤田君』一家が去った後、店長がこちらを振り向いた。

「コロッケ、間に合いました」

「え?」

思わず声が出た。

「えっと、その……さっきの『先約』って、私の、ために?」

「はい。あ、でも今日は要らないということでしたら、どうぞお気になさらず。うちに見えた時はいつもコロッケを買って下さるので、今日もかなと思っただけですから」

「あ、はい……」


今なら、ちゃんと続けて言えそうな気がした。

伝えたい。

さっきの澤田君の奥さんのように。

「ここのコロッケおいしいから……いつも、楽しみにしているんです。ありがとうございます」


店長が一瞬私を見つめ、今日一番の笑顔で、言った。

「常連さんにそう言ってもらえるのが、一番嬉しいんですよ」


仕事だけのつき合いだと思っていた。

『常連さん』。

自分では気づかないうちに。

私のことを気にかけてくれている人がいた。

こんな近くに。


運転席で、袋を開ける。

ひと口。

サクッとして、温かい。

(うん、やっぱり、おいしい)


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