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ひとり達のanthology  作者: mina


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7/10

第七話 あるカウントダウン

「大人になったら」というのは、子どもにとって魔法の言葉だ。

自分にもきっと幸せな未来があると思っていた。

大人になったら魔法は解けるのだと、知らなかった。


友達がいないのはダメ。

親兄弟と仲良くないのはダメ。

会社の飲み会に行かないのはダメ。

だから「普通」になるために、本を読み、動画を見て、セミナーにも行った。

でも、学べば学ぶほど、自分には無理だと分かっただけだった。


子どもの頃も違和感はあったが、気にしていなかった。それがいけなかったのだろうか。

魔法は徐々に弱くなり、いつの間にか消えた。


「おひとり様ですか?」という言葉にさえ、胸がざわつくようになり、外食もやめた。

結果、料理が上手くなったのは、想定外の良いことだった。


世界は変わり続ける。


その一方で、学生の頃から暮らしているワンルームの部屋の中は、ずっと同じ景色。

それで良いと思うことにする。

「変わらない」ことにも、もしかしたら価値があるかもしれないから。


派遣の仕事はコールセンターが多い。たまのクレームは辛いが、それでも、お客様は私が「普通」ではないとは知らない。


夜勤の時間帯は、私だけか、またはもうひとり追加されて最大二人体制。余計な話をしなくて済む。


今日は、十二月三十一日。

年末年始は人もいないので、出勤は私だけ。日中の引き継ぎもなく、穏やかな年末となりそうだ。


年末年始に働くのは、もう慣れた。むしろ、選んできた。

ひとりきりのランチタイム。

ひとりきりの年越し。


静けさが満ちたオフィスで、今朝退勤した後のメールをひとつひとつ丁寧に確認する。時間はたっぷりある。


コールが来た。

表示された電話番号で、直近の問い合わせを確認。履歴なし。

呼吸を整えて、電話をオンにする。


システムエラーで、上級エンジニアへのエスカレーションが必要なケースだった。エンジニアにつないで、電話を切る。


よし、ひとまず完了。

時刻は二十三時十五分。メールの続きを開く。


しばらくして、先ほどのエンジニアから「無事完了」のメールが来た。ほっとする。

時刻は二十三時五十七分。


と、本日二件目のコールが来た。

先ほどと同じ電話番号が表示されている。

(まさか、新たな問題発生?)

再度呼吸を整えて、電話をオンにする。


「あ、さっきの方ですよね? 良かった~。いや、たいしたことではないんですが、御礼だけ言いたくて。さっきはどうもありがとうございました。おかげさまで無事解決しました。本当に良かっ……あっ、ちょっと待ってください」

一気にそこまで話すと、電話の向こうで、別の人と話しているようだ。数人の賑やかな声が聞こえる。笑い声も。何だろう。お仕事中じゃないのか?


「すみません、お待たせしました。いや、もうこんな時間で、電話つながっているし、このまま一緒にカウントダウンするしかないですね」

(え…?)

「十数えたらクラッカー鳴らすんで、ちょっと受話器を離したほうが良いかもですよ」

(何それ?)

焦る私をよそに、電話の向こうでカウントダウンが始まった。何人かいるようだ。

「......五! 四! 三! 二! 一! ゼロ!」

容赦なく唱えられる数字を聞きながら、慌ててボリュームを半分まで下げる。


盛大…...かと思いきや、控えめなクラッカーが三つ。ちょっと拍子抜けするほど。

「ハハハ、いや、すみません。付き合わせちゃって。学生さん達がカウントダウンやりたいって、きかなくて」

遠くで、『店長もノリノリだったくせに』『誰に言い訳してるんすか』『あけおめ~』などとわいわいしている。


(なんか、良いな)

そう、思ってしまった。

私には、遠い世界。

でも、ちょっとだけリモートで繋がってしまった不思議。


「とりあえず、あけましておめでとうございます」

「あ、あけまして、おめでとう、ございます」

「去年は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします」

「こ、こちら、こそ」

「夜勤おつかれさまです。おかげさまで助かりました。今年もお互いに良い年にしましょうね」

「あ、はい。ありがとう、ございます」

正解が分からない。こんなやりとりはマニュアルには載ってない。


「じゃあ、どうも、失礼します」

「はい、失礼いたします」


(しまった! 『お電話ありがとうございました』って言わなかった)

電話を切った後で気づくが、もう遅い。


誰もいないオフィス。


でも、なぜか、胸の奥がほわりと温かい。

もうちょっと、頑張れそうな気がした。


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