表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとり達のanthology  作者: mina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話 共通項

今日と明日は、ショッピングモールの年末イベントに駆り出されている。本来は、経理部の事務職で、年末年始はお休みのはずだった。

しかし、未婚で一人暮らしの私が出るのは当たり前。そういう空気ができていた。このプロジェクトの発案者である澤田さん自身は、お休みだが。


カランカラン!

「おめでとうございます! 三等が出ました!」

私の隣で大きな金色のベルを鳴らし、営業部長が大きな声で告げる。三等を引き当てた女の子と女性が、顔を上気させて喜んでいる。女の子が「おばあちゃん」と呼んでいるので祖母なのだろう。


私は心の中で驚いていた。私が差し出した箱の中から、当たりくじが引かれたことに。

いや、くじ引きなのだから、当然のことなのだが。


「女の子に引かせたい」と言うので、私が箱を両手で持ち、その子の前にしゃがんで引いてもらったのだ。

正直、私のせいで「はずれ」になるのではないかと密かに恐れていた。

(「はずれ」でも小さなチョコレート菓子がひとつもらえる。子どもにはそちらの方が嬉しいかもしれない)


私は、昔からくじ運がなかった。「あたりくじ」は外れるが、「はずれくじ」はよく当たると言った方が正しいかもしれない。家族も、友人も、就職も。今日のこの当番も。


できるだけ人と話さなくて済むように、数字を相手にする仕事を選んだのに。


「林部長、おつかれさまです」

人の波が少し落ち着いたお昼過ぎ、よく通る声がした。

「あれ? 澤田さん、この近く?」

「そうなんですよ。せっかくだから売上に貢献しようと思って」

「いやあ、助かるよ。でも実はくじ目当てだったりする?」

「ばれました?」

部長と澤田さんがおかしそうに笑う。


澤田さんは総務部の人だ。明るくて話し好き。私はもちろん苦手だ。必要もないのに、くじの箱の位置を直す。


「今日から帰省するんじゃなかったの?」

「そうなんですよ。今から三時間運転ですよ。お昼食べたら下の子が『眠い』って言い出して、主人は先に下の子と車に行きました。私はここに寄らないといけなかったから、この子だけ連れて。くじを引きたいって言うから」

「それは大変だね」

「本当それですよ。子どもとか親とかいろいろ。あーあ、独身貴族がうらやましいです」


澤田さんは、私の方を見て言う。その言葉が、私の心にまたひとつ傷をつける。


「あ、飛行機好きなんだ?」

部長が、澤田さんの息子さんが大事そうに持っている飛行機のおもちゃに目を留める。

「ふふ、最近飛行機にはまってて。去年までは電車だったんですけど」

「あー、分かる~。うちもそうだったよ」



澤田さんの息子さんは、チョコレート菓子を嬉しそうに握りしめて、帰って行った。

「懐かしいなあ」

部長が小さな背中を見送りながらつぶやく。

私が何か言うべきかと迷っていると、部長は続けた。

「僕もあれくらいの頃、飛行機にはまっててね」

そう言いながら、チョコレート菓子をひとつ補充する。


「年末、祖父母の家に帰省した時、夜の便だったんだけど、空港のお店の人がさ、『空から下を見てごらん、魔法みたいにきれいだから』って言って、そうしたら本当にきれいで、小さいながらに、『本当に魔法みたいだ』って思ったんだよ。今でも、その時のことを時々思い出すんだ。不思議だよね」


部長はいつになく柔らかい表情で、天井を見上げている。もしかしたら、天井のさらに上の空を見ているのかもしれない。


部長が少しうらやましいと思った。

私にも、そんな優しい大人からもらった宝物があったら、もっと違う人生があったのだろうか。


部長は後で良いと言うので、先にお昼休憩をもらった。このショッピングモールは初めてだ。レストラン街を探して、柱に掲示されているフロアマップを見ていると、左手に何かが触れた。


何だろうと思って左下を見ると、小さな女の子が私の手を握っている。

(え? なんで? 誰?)


その子は、ふとこちらを見上げる。

(さっき、三等を当てた子だ)


私と目があった途端、彼女の顔が驚愕の表情になる。小さな目が大きく開いて、それはもう心底驚いたという顔。


その時、私は微笑んだ。

私は、再び驚いた。

(私が、微笑んでいる?)


女の子はすぐに手を放し、今度は戸惑いの表情になる。


恵美(えみ)! 何してるの、こっちおいで」

少し離れた場所から聞こえた救いの声に振り返り、女の子はすぐに走って行った。


さっきの祖母らしき人と、女の子の親御さんらしき人。

親御さんのコートは、私と同じグレーだ。子どもの目線では、ちょうど同じくらいの位置に私の左手が見えたのだろう。


(あの人の手と私の手、そんなに似ていたのかな)


こんな私でも、誰かと共通項があった。

それだけで、なんだか、くすぐったいような感じがした。


ちょっとした勘違い。

あの子は私のことなどすぐに忘れてしまうだろう。

でも、私にとっては。


十二月三十日。「はずれ」と思ったけれど、そうでもなかったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ