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ひとり達のanthology  作者: mina


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第二話 一日遅れのクリスマス

クリスマスは、幸せな日──というイメージは、誰が作り出したのだろう。きらきらと瞬くライトアップに覆われて重そうに佇む木々を視界の両端に捉えながら、そんなことを考えてしまう。光に満ちた世界の足元で踏みしだかれて朽ちていく葉のことを想う人は、どれだけいるのだろうか。


毎年恒例の県外の仕事からやっと戻ってきた。日付が変わる少し前から降り出した雪は、何とかひどくならずに済んだ。時刻はもう午前三時を過ぎている。いつもの24時間営業のスーパーの駐車場に車を入れる。


このスーパーでは、毎年、クリスマスケーキが一つか二つは残っている。それが誰かの意図なのか、偶然なのかは分からない。ただ、ここに来れば、クリスマスケーキを買える確率が高いと分かってからは、毎年ここに来ている。


胸に湧いてくる若干の緊張を感じつつ、足が少し早くなる。


(あった!)


ホールのチョコレートケーキが二つ残っていた。クリスマスらしいデザインのパッケージ。ほっとする。


20%引きのシールの上に、50%引きのシールが貼り直してある。そう、シールが2枚もついている。これ、絶対、恵美が喜ぶな。くすりと小さく笑いそうになる。


一度大奮発して専門店のケーキを買って帰ったことがあった。クリスマスの翌日だから、普通のデコレーションケーキで、サンタの飾りはなかったし、一番小さなサイズだったけれども。


でも、お店のロゴが入った銀色のおしゃれなシールは、恵美の小さな指ではうまくはがれなかった。もともと貼り直しができない仕様になっていたのかもしれない。でも、彼女は破れてしまったシールを残念そうに見つめて、ちょっと拗ねた。


「いつものお店の方が好きー。シールも大きいし、きれいだもん」


彼女にとっては、洗練されたデザインの白い箱よりも、にぎやかなクリスマス模様のパッケージと、大きくてカラフルな値引きシールの方が魅力的だったようだ。それを聞いて、母は声を上げて笑った。


(あの頃は、皆でずっと一緒にいるんだと思ってた。馬鹿だね)


突然恵美がいなくなって、それから間もなく母も身体を壊して、わけも分からないうちに、ひとりになった。正直、今でも良く分かっていない。


前に進めていないことは分かっている。でも、それで良いと思っている。少なくとも、思い出をなぞることで、自分を保てている。


クリスマスケーキを八等分にして、ひとつひとつお皿に載せるのは、母の役割だった。それを、小さな目にわくわくをいっぱい溜めて、恵美が見つめる。


三つのお皿に載った三つのケーキを並べてたっぷりと観察し、恵美は言う。

「おばあちゃんが切ると、全部同じ大きさだね!」

母が誇らしげな顔をこちらに向ける。


恵美は、いつも上から三分の一ほどしか食べられないのに、私たちと同じ大きさを欲しがった。ひらがなを覚えて、初めて書いた七夕の短冊は、「くりすますけえきをぜんぶひとりでたべられますように」。なんて壮大な願いだろう。


その願いを代わりに叶える訳ではないけれど、今日買ったケーキも、私がひとりで食べることになる。さすがに一度には食べられないが、母がネットで、デコレーションケーキの冷凍保存方法というのを見つけて以来、うちではそれを実践している。カットしたケーキを保存容器の蓋に載せ、その上に容器を被せるというもの。まったく、これを考えた人は天才だと思う。ただ、容器をひっくり返すだけだが、なかなか思いつかないものだ。


「通販や冷凍食品に冷凍ケーキがあるんだから、ケーキは冷凍できるはず」と言って検索し、この方法を見つけた時、母はやっぱり誇らしげだった。


恵美が生まれた後、我が家の全ては恵美が基準になった。恵美が生まれて半年も経たないうちにひとり親になってしまったが、それでも、恵美を守るために頑張ろうと思った。頑張れると思った。母も来てくれた。恵美はどんどん大きくなった。それだけで、良かった。


恵美が小学生になったら。恵美が中学生になったら。そんなことを母と話していたのが、まるで馬鹿みたいだ。未来なんて、こんなにも不確かで、脆いのに。


だから、未来には期待しない。


過去は、元気をくれる。動画の中の恵美はそれ以上年を取らないけど。私たち家族の動画はもう増えないけど。


手に持ったクリスマスケーキを、丁寧にそっとかごの中に入れる。壊れたら、もう元には戻らないから。


「えみ! あったよ、クリスマスケーキ、1コ残ってる!」


はっとして声の方を見る。若いカップルが嬉しそうに最後のクリスマスケーキを手に取っていた。


ああ、なんてことだろう。

視界がにじんで、思わず焦る。ついさっき、未来には期待しないと言ったばかりなのに。


恵美も大きくなっていたら、こんな風に自分でクリスマスケーキを買いに来たかもしれない。こんな風に大好きな人と一緒に。こんな風に幸せそうに笑って。


そうか。

そうだね。

世界中の「えみ」が幸せだと良いな。



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