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後日談 その二 一言主

後日談 「一言主(ひとことぬし)


明朝、まだ完全に日が登りきる前、急遽、桐忠は言霊蔵本部より召集令を受けた。しかも一言主直々の召集であり、すぐに向かったのである。


珠依との事件があったのは数日前のこと、おそらくそのことを聞かれるのだろう。本部玄関に行くと、そのまま直通で一言主の元へ通された。


一言主は相対する相手が持つイメージによって姿を形成する。そのため桐忠の前では背の低い小さな仙人のような男の姿になるのだ。


「おはよう、桐忠」

「ジジィは朝が早ぇな、飯も食わずに飛び出してきたぞ」


目を細めて一言主は桐忠を見つめる。そう言葉を多く語れない面倒くさい神なのだ。早く『玖燈籠』に戻って朝飯が食いたい、その一心で桐忠は先に質問をなげかけた。


「用件は?数日前の件か」

「……」

「どっちだ、監査中の出来事かその後のことか」

「どちらだと思う」

「十中八九、あとの出来事だろうな、お見通しなんだろ」


ニコニコと笑う一言主の瞳は、どうも意思が読み取れない。見透かされてもどかしいようなむず痒い気持ちになるのを抑えて桐忠は続ける。


「知ってたかもしれないが、俺が珠依を傷付けた、もちろん謝罪は済んでる。本部への再異動も検討したが却下された」

「そうかい」

「……知ってたんだろ、どうして見通してるくせに、俺を『玖燈籠』に派遣したんだ」

「お前は言葉を紡ぎにくい」

「……言葉にするのが得意じゃねぇのは、自分でもわかってる」

「荒療治」

「は?」


荒療治?そう訪ねると一言主はにっこり笑って頷いた。桐忠は一言主に詰め寄った。


「言葉を紡げるように、荒療治で珠依のとこに送ったのか?珠依がどうなるかもわかった上で?お前は正気か?そんなんで自分の手駒を痛めつけるなよ」

「紡げるようになった」

「今はその話をしてねえ!珠依が大切じゃねぇのかって聞いてる!お前の勝手な判断で、そして俺のせいで、珠依は倒れたんだぞ!」


分かってんのか!と掴みかからんばかりに、桐忠は一言主に詰め寄る。その気迫は周囲のものを気後れさせるほどのものであった。けれども一言主は何処吹く風。目の前で木枯らしが吹いてるのを楽しげに眺めるように、桐忠を見つめる。


「珠依は言葉がうまい」

「確かにあの人の言霊の力は他の司書と比べても群を抜いてる、だけどそれじゃああいつが痛めつけられていい理由にならないだろ」

「情が湧いた」

「……俺が司書っていう存在に感情を持つことが本当の狙いだったってのか」

「お前は感性が育ちきってないから」

「珠依は言霊、感性を育てるのに適性があったって訳かよ」

「それも務め」

「もういい」


いくら詰め寄っても暖簾に腕押しだ。もう最低限の報告は済んだだろう。桐忠はそう思い踵を返した。すると、くい、と服の裾を掴まれた。


「あ?まだなんかあんのかよ」

「珠依に」

「渡せってか?」


一言主のもう片方の手には、封筒が握られていた。中身は手紙か何かか。とりあえずそれを渡せばここに用はないだろう。奪い取るようにして一言主の元を後にする。


「桐忠」

「なんだ」

「またおいで」

「は、二度と来るかよ、俺はもう玖燈籠の宿者だ」

「それでいい」

「お見通しかよ……もう帰る」


今度こそお別れだと桐忠は部屋を出た。


本部から『玖燈籠』に連絡通路を使って移動する。渡された手紙を懐にしまいながら、桐忠は珠依の元へ足を向けた。


朝食前なら厨房に彼女はいることが多い。当番制で回る厨房係の手伝いをするのだ。そのため珠依の自室ではなく厨房に向かう。


ガチャガチャと言う音と人の話し声が聞こえる。厨房にかけてある暖簾から顔を覗かせると、ちょうど近くに珠依がいた。朝食の盛りつけをしている最中なのか、エプロンをつけて作業をしていた。


「あら、桐忠くん、おかえり」

「今帰った、あとこれ」

「なぁに?」

「一言主から、あんたに渡せって」

「一言主様から?」


珠依はエプロンで軽く手を拭いながら「すぐ戻るから」と厨房係に伝えた。そして桐忠の前にやってきた。


「お手紙かな?どれどれ」

「ここで開けていいのかよ」

「多分公式なものじゃないから大丈夫」


そうして丁寧な手つきで一言主からの手紙の封を切る。そして中から手紙を取りだした。


「……なるほど、桐忠くんも読んでみる?」

「いいのか?」

「隠す内容じゃないから」


そう言って珠依から手渡された手紙を覗く。そこにはこう書かれていた。


『珠依へ』

『すまなかったね』

『一言主より』


「なんだこれ」と桐忠はつぶやく。苦笑混じりに珠依が答えた。


「多分この前の件だね」

「謝ればいいってもんじゃないだろ」

「でも一言主様って最終的にはいい結果の判断しかしないからね、今も、これからも、それは変わらないよ」

「俺が言えた義理じゃないけどよ、良いのかよ」

「それが司書だからね」

「一言主の手駒は大変だな……もう用済みだろ、俺は自室に行く」

「分かったよ、あと少ししたらご飯できるからね、あとお手紙ありがとう」


そうして桐忠は厨房を後にした。それを見送り、手紙をしまおうと思って手を持ち替えたところで、裏に一言書いてあるのを見つけた。


『追伸』

『桐忠のことをよろしく』


「……ふふ、任されましたよ、一言主様」


珠依は大切そうに手紙をしまう。そしてエプロンを結び直してまた厨房に戻って行った。

読んでいただき、ありがとうございます。


面白ければ感想や、いいね、ブックマークなどしていただけるとありがたいです。


誤字脱字報告も、もしよろしければお願いします。

これからも読んでいただけると嬉しいです

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