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コードネーム:赤ずきん

作者: 神泉せい

「同志赤ずきん」

「イエス、マザー」

「グレート・マザーにワインとパンを届けなさい」

「イエス、マザー」

「くれぐれも、オオカミには気を付けなさい」

「イエス、マザー」


 赤ずきんと呼ばれた十二歳の少女は、パンの入ったカゴと赤いワインのボトルを受け取り、基地から森へと足を踏み入れました。

 グレート・マザー……通称“お婆さん”の家は、森の中の一軒家。

 お婆さんは王家の粛清で夫を亡くし、王家の滅亡を固く心に誓って、レジスタンスと呼ばれる反政府組織を作り上げた女傑だったのです。

 現在は足を悪くして、森の家に隠遁いんとんしています。それでもなお、組織に大きな影響力を持つフィクサーとして君臨しています。


 森の小道は光にあふれ、妖精が花の間を飛んでいきます。瑞々しい緑に、初夏の眩しさを覚える季節になりました。

 赤ずきんは周囲を警戒しつつ、慎重に歩を進めていきます。途中、男性二人組に声をかけられました。

「女の子一人で、どうしたんだい?」

「母からの申しつけにより、病気で寝込んでいるお婆さんのお住まいに、お見舞いに参ります。こちらは見舞いの品にございます」

 赤ずきんはマザーから渡されたカゴを男性に見せました。布の下には大きなパンに、82年のボルドー産の赤いワインのボトル。

「いいワインだね。しかしお見舞いなら、花があった方がいいんじゃないかい?」

「それはしたり、いかにもあなた様のおっしゃる通りにございます。幸いにもここは、花が咲き乱れる森の中。私はあの黄色い花を摘んで行こうと思います」

「気を付けてね」

「とうりゃんせ、とうりゃんせ」


 愚かな飼い犬よ。

 赤ずきんは心で侮蔑の言葉を投げ、少女らしい笑顔と歌声で彼らと別れました。

 彼らは通称『オオカミ』と呼ばれる、王家の犬なのです。赤ずきんの所属するレジスタンスとは対立しています。

 その場面を見ていた者がいました。

 森に住まう高貴なる獣、狼です。狼は赤ずきんの先回りをし、お婆さんと赤ずきんを食べてしまおうと画策します。

 草を踏む僅かな音だけを残し、狼は森へ姿を消しました。


 お婆さんの家に先回りした狼は、寝ていた足が悪いお婆さんを、なんと丸のみにしてしまいました。噛まないと消化に悪いでしょう。

 そして代わりにお婆さんのネグリジェを着込んでベッドに横になり、布団を被ってお婆さんをよそおいました。

 しばらく待ち、退屈があくびを誘う頃、ようやく扉がノックされました。

 何も知らない赤ずきんがやって来たのです。

 お婆さんに化けた狼がどうぞと言うと、赤ずきんは疑わずに家の中へ入りました。しかし寝ているお婆さんの姿に、違和感を覚えます。


 ……この者は本当に、組織を作り上げた女傑、グレート・マザーなのか?

 私が本当の同志か確かめようともせず、それでいて緊張感がない。


 赤ずきんは現時点での推定お婆さんに、質問をすることにしました。

「お婆さん、お耳が大きいですね」

「お前の声がよく聞こえるようにだよ」

「お婆さん、ギョロっとした大きな目ですね」

「お前の姿がよく見えるようにだよ」

「お婆さん、耳まで裂けた大きな口ですね」

「お前を食べてしまうからさ!!!」


 狼は本性を現し、赤ずきんに襲いかかります。しかし赤ずきんもレジスタンスの一員。狼の思惑は見透かしておりました。

「おのれ、我らがグレート・マザーをかたる不届き者よ! 私が成敗してくれる!!!」

 赤ずきんは狼と距離を取ると、カゴを棚に乗せてナイフを片手に持ちました。

「なんか思ってた展開と違う」

 狼がぼやきました。きゃーと泣き叫んで欲しかったのです。

 赤ずきんは鋭い眼差しで狼を睨みます。

「お婆さんをどこへやった!」

「俺様の腹の中さ! ところで、どこで俺様が偽物だと気付いた?」

「最初から疑っていた。質問の答えが違っていたからね!」


 そうです、赤ずきんの三つの質問は、同志を見分けるための暗号でした。狼はそれを知らなかったのです。

「大きな耳には“民の嘆きを聞くために”と答える」

「聞こえすぎて泣きそう」

「ギョロっとした大きな目には、“我はいかなる不正も許さじ”」

「視力と一切関係なし」

「最後は、“今こそ自由を叫ぶのだ!”と答えねばならなかった!」

「教えてくれていいの?」


「構わぬ! 貴様の命は今、尽きるのだ!」

 赤ずきんは狼に襲いかかります。狼はベッドから降りて避けますが、お腹にお婆さんがいてあまり早く動けません。

 そこに騒ぎを聞きつけて、ハンターキャップを被った男性がやってきました。手には三八式歩兵銃を抱えています。

「何があった? その赤ずきん、同志だな!??」

「ハンター……、この者はグレート・マザーを食べたというのです! きっとオオカミに違いありません!」

「なんだって……!? 偉大なる指導者にて慈悲深き我らの導き手、グレート・マザーを……!??」

「大事になった」


 狼は普通のお婆さんと孫だと思っていたので、混乱しています。

 そんな狼の姿に、ハンターが目を見張りました。

「同志赤ずきん、その者はオオカミではなく獣ではないか……!」

「え、あ! ほんとだ!」

「もっと早く気付いて! 狼です、狼は合ってるの!」

 必死に種族をアピールする狼。ナイトキャップを捨てて、顔が見やすいようにします。赤ずきんとハンターは、あらわになった狼の顔を凝視しました。


「もしや、狼……。絶滅した幻の生き物、森の高貴なる獣……!??」

「え、俺様のお仲間、絶滅してんの? 誰にも会わないわけだぜ……!」

 絶滅を知らなかった狼が、目を丸くします。

 狼は狼でも、赤ずきんたちが対立しているのは、国王直属の処刑部隊、通称“オオカミ”。その名の由来となった森の高貴なる獣、孤高なる狼を目撃した人間は、今ではいません。


「なるほどね……。見慣れぬ獣で油断しちまったが、そうだったのかい」

 狼のお腹から、老婆の声がしました。

「お婆さん!」

「グレート・マザー!」

 赤ずきんとハンターが声を揃えて喜び、狼の腹に注目します。お婆さんを飲み込んで膨らんだお腹が、中から押されて動いていました。

「うわあ、どうなってんの!??」

 狼の口から小さな白いまゆが飛び出し、地面に落ちてパラパラと崩れ、濃い白い煙がもれています。

「秘術……繭返り!」

 なんと、お婆さんがそこに立っていました。

 お婆さんは修行の末に百の必殺技を会得えとくしているのです。繭返りはそのうちの一つ、敵から身を守る為の秘術でした。


「おおお、これがグレート・マザーが追い詰められた時、オオカミどもの目を誤魔化し難を逃れた、至高の術……!」

「さすが我らがグレート・マザー!」

 ハンターと赤ずきんが手を叩き、お婆さんを讃えます。狼もよく分からないまま、一緒に拍手しました。お婆さんはそんな狼に目をほころばせました。

「……いい面構つらがまえだ。それに不意打ちとはいえ、このあたしを飲み込むとは、なかなかの腕前。お前も同志として迎えよう」

「俺様は人間の国家とか、どうでもいいんだけど」

「狼よ。我らの秘密を知ったお前は、死ぬか同志になるかの選択しかない。さあ、選ぶのだ」

 困惑する狼に、赤ずきんが囁きます。狼は体を震わせ、三人に囲まれて死を意識しました。


「……同志に……なりますぅ……」

 レジスタンスに狼も加わり、赤ずきんたちは政権打倒のために日夜奮闘しました。

 赤ずきんが十六歳になると、十五歳までの女性で作られた頭巾部隊からカチューシャ部隊へ転属となり、よりいっそうの活躍を見せました。その横には森の高貴なる獣、狼が鋭い牙を持ってやけくそになって戦っていたということです。

 ハンターは森で狩人のフリをして、グレートマザートとの連絡役を続けています。三十も年上のグレート・マザーより、自分が先に引退しそうだと笑っていました。



 めでたしめでたし。

自分でもよく分からない世界観な話になりました

楽しんで頂ければ幸いです

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