里香の決意-優しさと誠実さ[前編]
気がつけばもう朝になっている。頭がクラっとする。自分の部屋のカーテンを開けて空を見ると曇天だった。スタンディングディスクに置いてあるスマホで時間と曜日を確認する、土曜の9時半。今日は休みか、昨日はえ〜と…あれ?何をしていたんだっけ…?ていうか最近記憶がないな…私は今まで何してたんだ。私ここの部屋にきたのいつだっけ…。どうしても思い出せない。
今日だけではない。記憶がない日があると自覚してから今日で合計一ヶ月だ。尋常ではないことが起きている。認知症なのか?!…いやそれだけならいいか、嫌よくねぇーよ。これが日常茶飯事とかまじで洒落にならないんだけど!
私の体で何が起きてるんだ、朝から脈が速まる。一旦落ち着いて里香、あいつらに確認しなくては。リビングの隣の和室にむかっていくとリビングで本を読み、紅茶を飲む超絶悪魔アスカがいた。上下紫で無地の半袖、半ズボンの人間姿のロングヘアーな悪魔。
「あら、今日は遅いわね」
「おはよう…アスカ。」
スラッとした姿はいつ見ても奇麗だムカつくほどに。
「里香、あなたそんなことを言うためにわざわざ来たわけ?」
「そんなわけてないでしょ、あと心の声を勝手に聞かないでよね。」
「私になんのようなの」
若干不機嫌なご様子。けどそんなのに構うわけにはいかない。真意を確かめないと。
「最近記憶がないの。今日で合計一ヶ月記憶がない日がある…。私の体に何が起きてるのよ。教えて」
アスカは紅茶をを一口運ぶ。本を片手に読んでいる。回答するのか沈黙が流れたが、全然回答しない。しかとするなよ。
「ねぇ、教えなさいよ。なにか知ってるんでしょ!」
「スピアにきいたらどうよ」
「はぐらかさないでよ」
質問に理路整然と応えようとしない態度に目くじらをたてる私を逆なでするような無神経な反応とは。
「そんなに教えてほしいなら、一人で悪魔になればわかるわよ。本を読んでるときぐらい邪魔しないでもらえる?」
ムスッとした態度は一向に変わらない。なんの本ナノカわからないが赤と黒い表紙、この世の文字ではなさそうな文字が書かれた本を読み漁っている。机の上には10冊の本が置いてあった。どの本もなんて書いてあるのかさっぱりわからないタイトルの本がずっしりと。
そういえば自分の力で悪魔になれるんだったな。私は悪魔モードになって街を散歩しにでかけた。このモードではアニメのキャラみたいに魔法が使えるんだったな。試しに使えるところないか探しに出かけることにした。
この姿で街を歩いていると街の人の視線なんかどうでも良くなる。レッドカーペットを歩いている女優さんのように正々堂々と歩ける。前はびくびくしてたのに、なんてことないわ。
「ちょっと話してよ!」
どこからか不快さを表す声が聞こえた。この声の方向に歩いてみると悪い人たちに絡まれている柚葉がいた。
「かわいいな〜ねぇさん。一緒に遊ぼうぜ〜」
「お言葉ですが、あなたと遊ぶ時間なんかありません。」肌が紅潮しているのがわかるほど怒る柚葉。ガラの悪そうな大柄な男3人が前にたち柚葉をかこう。悪いニヤつきをする男たちは今にでもなにかしそうだ。助けないとまずいかもしれない。
「そこにいるガラの悪そうなお兄さんたち、その女性から離れろよ。」
「はぁ〜?だれだてぇめ〜?」
「そいつの友人だよ。離れろよクソザコども、あんたらが口説こうとしても無駄なのわかってるのにそんなこともわからないとは気の毒な頭をしてるのね」
「はぁ?」
しゃがれた声で吐息を放つ男たちは私に近づくないなや殴りかかってきた。私は右ブローを首を相手からみて左にかしげてよけ、右手から瞬時に魔法剣を取り出し柄の部分を思いっきりつき当てる。男は苦しそうなうだぎこを上げる。そこに蹴りを一発入れて軽く吹き飛ばす。そいつは泡を吹いて倒れる。
「このクソガキが!調子のんな」
もう一人の男が折りたたみ式のナイフを取り出して切りにかかる。剣から邪悪な杖を素早く交換した、魔法陣を眼の前に出して波動砲を放つ。その男はぐはっと声を上げて倒れるもまだ息をしていた。
「弱いくせによくもまぁ〜、こんな腐った行いができるわね」
その斬りかかろうとした男の体を何度も足で踏みつけてにした。このかいかんよ、ゾクゾクするわ。クズ肉らしい惨めなやつね。もう一人の男は震えてながらこちらを見る
「あなたもこうなりたいのかしら」
「このガキが!覚えてろよ!絶対に復讐してやる」
捨て台詞を吐いて退却した。
「最低な仲間ね~、人を見捨てて一人で逃げるなんて。弱い肉体のくせによくもいけしゃあしゃあと私の友人をいたぶろうとしたわね」
私はそいつの顔を踏みつけてずりずりと靴裏で踏みつける。
「もういいわよ!十分よ、里香」
「何いってんのかしら、コイツラの地獄はこここらよ」
「何いってんの…?それはこっちのセリフよ」
「もっと殺らないと、痛みを味合わせないと。そうでもしないと反省すらしないわ」
柚葉が近づいてきた。このゴミを上からにくだすようようにしていると…ドン!。
柚葉が前から体を思いっきり押されガツンと背中をうつ。体中に痛みが襲いかかる。やっと目が覚めたと思った次の瞬間、ペシ!頬を熱いフライパンで殴られるようなビンタを食らう。
え?…柚葉…?目を見ると涙ぐんでいて今にでもこぼれだしそうな瞳の雫。私、今何して…なんで男が倒れてるの!?
「私…どうしたの…」
そう言いかけたら言葉を被せるように柚葉が肩を震わせながら、震えた声で言葉を紡ぐ。
「どうしたのじゃないよ!こっちのセリフよ!ねぇどうしたののよ!いきなり現れて。悪いやつをやっつけたあとや、その最中の言葉は!!もっと痛みを味合わせないと?、地獄はこここらよ?」
「そんな言葉誰がいったの…?」
「あんたに決まってるでしょ!!」
滝のように涙をこぼしながら、血が頭に登るように憤怒としてる柚葉…。私は愕然として言葉を失う。
「あのときもそうよ、私や粋冷といたときにもあんたいじめのことを掘り返したよね?!ねぇどうしたのよ…」
私は目を背けることしかできなかった、みていれられなかった。
「私はあんな里香なんか大っ嫌い、里香はもっとじゅうんすいで骨董品を見たら好きなことを止まらないで話したり、自分の意見があるのに人に譲ってしまうほど優しくて困ってる人を助けようとする優しい人だった。ねぇ、戻ってきてよ」
言葉が最後になるにつれて弱々しくなる、私の目からも涙が溢れ出てきた。
「戻ってきてなさいよ!!私の里香を!優しかった楓里香を返してよ」
泣きじゃくる彼女、見ていていたたまれなかった。彼女の泣き叫ぶ声が心臓中を100回切り裂くほどの痛みが襲った。彼女は走っていった…。
放心状態の私はてが震え、叫んびごえを猛獣のとおぼえのようにうわぁ~!と叫び走った。雨がポツポツと振り始め、一気に大雨が降り注ぐ。
全速力で走った、豪雨が降り注ぐ。爪が入り込むぐらいに握りしめ地面を思いっきり蹴り飛ばす。顔に当たる雨粒は神経一本一本の痛覚を痛めつけるほどの強さすらかんじる。風は皮膚をよこぎり氷の破片がパチパチと意思を持つように攻撃されているように思えた。心はまるで地獄の処刑を次から次へと行われて断末魔の叫び声を上げるほど激痛が走るぐらいだ。
家に帰る頃には全身の力はだだ抜けでビショビショの服が現実に引き戻そうとまとまりつく…。鍵を開けて部屋に入ると出迎えてくれる悪魔。
「遅かったわね、濡れてると風引くからシャワー浴びなさいよ」
俯いたまま顔を下げていると、アスカは前のめりになり私の顎に手をやり一言。
「シャワー浴びないなら、今すぐその服引き裂いてボロ雑巾のように体も引き裂いてやろうか?命令する、シャワー浴びよ」
私は靴を脱いで洗面所に向かい服を脱いでシャワーを浴びた。温かい湯気があたりを包み、今までの行いを優しく慰めるようなぬくもり。肌に降り注ぐシャワーはこれまでの傷を修復するかのようだ。風呂から上がると洗濯機の上に服が置いてあった。アスカが出した服だろう。私のために…今は彼女になにか思うほどの気力はない。
リビングに向かうと机にコーヒーが置いてあった。湯気がたちもっている。座れということか。私は先に座る…キッチンで紅茶をいれるアスカ。手慣れた手つきで黙って紅茶をいれる。ティーカップを持ってコーヒーが置かれた反対の席に腰をかける。
私はコーヒーを一口くちに流し込む。二人きりになるのはいつぶりだろうか…髪が完全に乾いてないせいか髪が皮膚に当たるとツンとする。
「私…人間に戻りたい…」
なけなしの言葉をポツリと吐く。とてもひ弱で情けないほどの言葉。まるで、戦争に負けたのに相手に自分の願いをいう弱小戦士。
「いきなりそれからか…」
呆れてものも言いたくないような口ぶりのアスカ。ただ顔色は平常だ。
「私はただ変わりたかっただけなの。人と関わるのが嫌で意見もおじけて言えない、何をするにも自信なさげな私自身が嫌いだった。そんな自分を変えたかった」
言葉が溢れ出るのが増せばますほど一語一語が強くなる、感情の蓋を開けてそのバケツをぶちまける。顔が熱くなり、手には力が入っていた。
「私はこんな自分を!変えたかっただけなの!悪魔になんか変わりたくなかった!なのにそんなのあんまりよ!戻しなさいよ、ねぇ!私の体を戻しなさいよ!このクソ悪魔!」
アスカはピクリと眉が上がる、立ち上がって私の前にきた。
泣きながらもしっかりアスカの顔を睨見つけるようにみる。アスカの表情は唇をつまみ、無表情なうえ冷たい顔を見せる。
「何よ!」
「たてよ」
言われるがままに立つ。
「お前よく自分から変わりたいとかいうくせに挙句の果ては悪魔に罵声だと?悪魔になりたくない?そんなことが言える立場にいつからなったんだ?」
語彙からジリジリと怒りをかんじる。目は平然を装うが内心にえくりかっているのだろう。
「そうね、今すぐダンプカーで顔面を下敷きにして割りたいわね」
冗談の口調でいってるようではなさそうだ。心を読まれたとしても今はどうでもいい。体の震えはもはや何から来てるのかわからない。そういったアスカだけど、口元や表情がしょげている。肩が震えている。
「悪魔に片足入っているのにまだ人間でありたいと思うわけ?あんたは悪魔になりかけているのよ…悪魔になりかけたあんたは人間とそれをいったり来たりして記憶が混濁してるの。だから、記憶がないのよ」
震えた声に今にでも泣き出しそうなほどの悲痛な思いが伝わる。見ている方がもらい泣きしてしまいそうなほどの痛みが声、顔の表情から伝達されてくる。
「人間に戻りたい…?できるなら私が…私が…」
私の肩に手を置き、泣き出しそうな表情を必死で噛み殺そうと私の顔を背けて下を向く。その瞬間、彼女の思いがその手からジーンと染み渡る。私が悪魔になることを大いに心配しそうならないことを願っていること、そしてその思いやりは今にでもにもあったことを思い返せずにはいられなかった。銀行で襲われそうになった時も、風呂で私の体を触りまくろうとしてた時も私のことを考えていた事に…。
「うっ!ぐぅはぁ!」
突然胸から全身を締め付けるほどの激痛が襲った私はその場に崩れ落ち、悲鳴をあげながら頭と胸をぎゅっと握りしめるように手を当てる。涙をこらえるアスカが咄嗟に私の体を支え、私の名前を呼びかける。私は意思がとおのき、彼女の声すらもかすれていった。
里香を救いたい、それができるなら私は力を貸したりすることなど造作もないことだ。けど、今回ばかりはうまくいくいくかわからない。倒れた里香をお姫様抱っこで彼女のベットに運んだ。彼女は善と悪をさまよっている。でも、できる方法がなくはないがこれは悪魔として罪の行為だ。誓いを一部書き換える、それは悪魔の重罪に当たる。そんなことをしようものなら消されてもおかしくない。でも、やらなければならない。彼女が本当に崩壊してしまう。
胸をトゲのついた鎖で締め付けられるほどの痛みがあるがあいつに会いに行く。私は雨よけのレインコートをかぶり玄関から家を出て魔法でロックをかけて出かける。降り注ぐ大雨の中、ある気配をたどりながら。その気配は裏山にまで続いている。雨が降っているからたどりにくいが
なんとか気配をたどって到着した。頂上に着くと開けた場所に出た。街をを見渡せるぐらい高い山に1人の超絶悪魔がいた。身長は小6ぐらいから中1ぐらいの背丈。髪は肩までしかないこの悪魔。
「あんたはずぶ濡れにならぬのか」
「それならあんたもねスピア。まずは自分からやりなさいよ」
無意味に見える会話だが、互いの心境を探るような重々しいのを感じた。彼女はこちらに向かえる。 「おぬしはいつまで生易しくしてるんじゃ、天使の悪魔様よ。いいかげんあんな小娘殺せばいいものを。だから弱いんじゃよ」
彼女は目を細めながら私に視線を送る。その目からは不服を感じさせる。ゆっくり言葉を吐き出す。
「私は、里香を救いたいだけよ。」
「救うじゃと?」
鼻で笑い飛ばすスピア。
「私はそのために力を貸し、誓いを結んだ。彼女の願いは自分を変えること。それが本来果たすべきことよ。でも、彼女は悪魔になることは望んでないわ」
「むろんそんなのわかっとる。じゃが、代償は免れられない、何があろうとな」
目つきがさらに鋭くなり眉間にシワがよる。私は手に力を入れて押さえていた思いが限界だ。
「彼女を…里香を人間に戻したい。」
すると、スピアは手に魔法の短剣を召喚した。
「それが何を意味するのかわかって言ってるのかアスカ。お前はどこまでもお人好しだな。それは重罪じゃよ、悪魔として。」
打ちつける雨が強さをましてくる、一歩一歩音を立てながら近づくスピア。私も魔法で出した剣を右手に握りしめる。スピアが咄嗟に地面を蹴り飛ばして斬りかかる。一瞬の出来事に目が見開く、なんとか剣で応戦するも間一髪。俊敏な一振りの重さは軽い鉄の棒で殴りかかられたのと変わらない。だが、力はダチョウが殴るときのような威力。あれを食らっていたらひとたまりもない。
剣を盾に構えて防げたものの何発もこんなのが来たらたまったものではない。
「オラオラどうした!かかってこいよ天使の悪魔!!」
残虐非道な悪魔は連続で短剣で斬りかかる。その猛威を両刀に持ち換えて斬りかかるのを打ち払うようにさばいていくが一発が素早い上に力強い。腕がつりそうなほどの振動が腕に響くように伝わってくる。雨あしの轟く雷が一層、場の空気を逼迫させる演出を醸し出す。
高速で剣の打ち合いになっていたときの刹那であった、スピアの脇があいた。そこに左手で相手の脇腹に剣を握った拳を一突きカマスと重苦しい声を上げる。そこに右足で蹴りを入れて吹っ飛ばす。吹っ飛ばすもすぐ姿勢を直し手を体操選手のようにクルクルと体を側転させて立ち直る。こんなんで倒れるわけはない。
「これでもくらえ」
スピアはそう言って人差し指と親指を指で鳴らすと稲妻が空中にできた魔法陣から弓のようにまっすぐ落ちてきた。横に避けたがそのまうえから邪悪な刃の矢が降り注ぐ。悲鳴をあげながらも両刀で駒のように体をバク転させて回避。バリバリと音が鳴り響く攻撃音、お互い一歩も譲らない、それは侍が敵と一騎打ちしてる時と変わらぬほどの剣幕だ。
大勢を立て直すため2本の短剣をもち、両手を軽くひじをボクサーのように曲げて構えたときだった。スピアがまた指を鳴らすと足を私の足元に魔方陣ができた。
「なにこれ?!」
焦って気が動転したのが相手にも伝わり、足を一瞬のうちに鎖で絡めとられた上に、体に魔術の術式が体にまとわりつき体が思うように動かせない。何度も手や足を動かしてもびくともしない。次第に思考が奪われる。
「くっ!動かせ…ない!」
「最初っからこうすれば良かったのジャな」
不敵な歪みのある笑みをみせると指を鳴らし、魔方陣からさっきの攻撃を何発も食らわせられた。雷、魔法によって作られた闇の石の塊の弾道弾。断末魔の叫び声、悶え苦しむような息苦しさが襲う。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その痛みは神経を一本一本潰すとにに何も感じなくなるほどの激痛。親指をダンプで潰すような痛みや岩石の振り子が直撃するような痛み。スピアの攻撃には慈悲すらないのかよ。
「はぁ…はぁ…ぁ…」
立った状態で体は大の字にさらされ、体中を痛みと激痛。綺麗な肌は血とあざ、傷が刻まれるような状態。首がなだれる、スピアが近づく足音…。
しゃ!、しゃん!びしゃ。
スピアが私の腹をエックスを描くように斬りつける。口からも血をぶちまける、荒い息が漏れる、惨敗…しかもこんなあっさりに…。
「誰がお前の協力などするものか。そんなんだから弱いのだ。悪魔であろうお主がそんなざまでは願いなんぞ叶えられるか」
降りしきる雨が血を洗い流すがにじむ。最後の力を振り絞り私は彼女に懇願する。
「私…が…だいしょ…はら…う…。それなら…かま…わ…」
縛られていた魔方陣はとかれた、途絶えそうな意識を持ってくちにするも体が前に倒れ虚しく散った。
「……。お主はどうしたらそんなに人思いになれるのじゃ…。……困ったやつだ…うーん…。」
続く