第2シーズン 第一話 悪魔の始まりと思考改革宣言するであります
あの日から数日が立った。魔人に襲われて私の生活はめちゃくちゃになったと思ったけど、救われた。誓いを結んだ2人の悪魔の手によって。その2人は人間の姿をした悪魔だ。一人は20代から30代の女の子、もう一人は小6か中1ぐらいの背丈の女の子だけど口ほ悪く、大人びている。一瞬見た目は子ども、頭脳は大人を歌うアニメを思い出させる。
そんな悪魔と、暮らすのが楓里香、私のことだ。今日は友人と親友がくる。粋怜さんと美月柚葉だ。まだ謝れていない、情けないことに。
その支度として部屋の掃除や片付けを悪魔たちとしていた。もうそろそろくるのだけど…。
「ねぇ!本読んでないで片付け手伝ってよ」
「なんで口をきかないといけないのかしら?そう思わないスピア」
「はぁ?!」
「ごもっともじゃな」
カンカンに怒っていて掃除どころの話ではない。こいつら中途半端にやってあと5分もすれば終わるのに私にやらせようとしていた。しかも自分たちで汚したり、散らかした本だというのに!。
「あんたなら悪魔界の本とかの整理も得意げな感じがあるし」
「一応悪魔になれますけど。てっ、それとこれは一緒ではないだろ」急き立てるように癇癪をおこす
「本の整理をするの得意じゃんあんた。強みを活かすと幸福度が上がるって研究あるんだよ~知〜らないの〜?」人をおちょくってくる冷ややかな笑い混じりの声。
「強みの研究だろ、知ってるわよ!。だまされないぞ、それを使って幸福度が上がるからやったら?という理屈並べてやらないでいるのなんかミエミエだぞ」奮然とまくし立てて反撃
「自分ではうごかないくせにそういうことは言うんだ、さすがうごくことのできない電光掲示板」
「誰が電光掲示板だ」
口は詐欺師並みに人を説得させる卓越された言葉に翻弄されそうになるがそうはいかないぞ。
「てか思ったのじゃが」スピアがポツリと呟く
スピアの方を振り向く
「やれよ、はやいだろ」
「マジレスするな、てか誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
言い訳は並べてくるわ、マジレスするわ…この悪魔たちは口達者だけど時にこれだ…。
ピンポーン
「おっ、きたぞ〜今行くぞ〜」
「ちょっと!」
玄関の扉に向かい、鍵をあけ出迎えにいったスピア。サンタクロースのプレゼントをもらうかのようなはしゃぎようにはくすっとしてまうが慌てて私も後を追いかけていく。
「へいおまちー」
「どの時代の、どこの板前屋ですか、このげどうな悪魔ども」
どすのきいた冷たい声、じんじんと怒りが伝わってくる。その声にスピアが青ざめる、私が顔を上げると目の前には柚葉、粋怜さん。そしてその声の主である猫耳をはやし、スーツ姿に眼鏡をかけたふっくらとしたボブ髪の女性悪魔猫宮がいた。目が下品な男を忌避するような目つきで私たちをみていた。多分、数日前のあれだ…私たちは禁忌を犯したのだから…。後ろの2人は苦笑い。とりあえず靴を脱いで上がってもらう。
彼女たちは手洗いを済ませ、席に着く。テーブルの奥に座った3人の悪魔たち…アスカも極力、猫宮の目が合わないようにそらす。お茶を人数分注いで目の前に置いて席に着く。私たちも口を紡ぐ。…何このどよついた雰囲気は…震えながら視線を手元におく
「さて、席にみなついたみたいなので話を始めましょうか」
猫宮が仕切りだす。
「私が来た目的は2つ。一つ目は楓里香様のご様子や今後どうされるのか。2つ目、あんたらがやった"禁忌行動"について」
冷酷なのに美しいほどの美声で私たちに今のことを告げた。そりゃ怒るよ、悪魔の法律に反したことをしたのだから。私たちは、どんな刑罰…を受けるのか。俯いたり、猫宮の表情をチラチラみたりして心が休まらない。心臓の鼓動の打つ音がまるで恋人といてなに話せばいいのかわからないときの緊張感と同じ…。息があさくなり、周りの音が入りにくい…猫宮の両隣にいる超絶悪魔たちら、仲良く鏡になるようにそっぽを向く仕草で、目を合わせないようにしてる様子は姉妹ですかね?
「わかってますよね?法律違反した処罰ぐらい受けてもらいますよ」
淡々と述べていく。この重苦しいほどの、重圧に体が押しつぶされそうだ。
「わかってるけど…」アスカは目をやっと猫宮に向ける。手足をどこに置けばいいのかわからないし、粋怜も柚葉の表情も硬く口を閉ざしながら姿勢を整えてる。
「どんな処罰になってもいいわよ。悪魔として権限がなくなるとかでも構わないわ」
「アスカそれは…自分の…自分の存在を消すってこと?」
私が質問するとアスカは首を横にふるう。
「そういう意味ではないわ、悪魔の力を失うだけよ、言い換えればただの…」
「そんなことを言う必要はないと思います。あなただけがわかっていればいいだけの話ですよ」
いいかけた言葉を静止させる。都合が悪いのだろうか、お茶を一口のみ終わると丁寧に置き、私を見つめる。
「里香様のためにやった禁忌はたとえなにがあろうとしてはいけません。それがどんな悪魔だろうと。しかもそれを分かっていたにもかかわらずやるなんて、ほかにも方法があったかもしれないのに」
「かもしれんな」
「はやまったわね」
私は言い訳がましくいつもなら言うのに…そんな言葉すら浮かばない。手足に力が入らず、俯くしかない。猫宮は私をじっとみている。目力だけで押しつぶされそうな威圧的な雰囲気。足を閉じて押し黙る。柚葉と粋怜さんは私をチラチラみては少し困惑してそうだ。言葉に困っているのだろう。
「どんな刑罰になるかあなたもわかってますよね里香様。あなたの願いは身を直すとともに傷を負う手術のようなもの。あなたの刑罰も重いですね。どんな刑罰にしてやろうか」
裁判官のようなことを言ってるように見えるが、悪魔なんだよね…最後の言葉が怖い。どんな刑罰にされるんだろう。私…もしかして最初の代償よりももっと重いものが…。クビに傷を?それとも美肌無理とか…身体障害負うとか、そんなことを妄想していたらさらに青ざめてきた。もうおしまいだ…私なんか…。手に力が入らず、目が今にでも涙腺から途方もない涙をこらえるのに精一杯だ。
「ねぇ一つ質問したいんだけどいいかな」
柚葉がよそよそしく質問。
「それはどのぐらいの刑罰にあたるの?」
「そうですね、本来は命をいただくレベルか全体をもぎ取るとか、何かの機能性を取り除くか。」
「重すぎますね…」
粋怜さんも一言呟く。柚葉と粋怜さんも私のことをあんじているのに不甲斐のなさにもなさすぎる。
身が悶えて吐きそうだ。こんなことになるぐらいなら悪魔になったほうが楽だったかもしれない。
「私はこの件を許すつもりはないですね。でも一つ感心しましたよ。」
「なににジャ」
「ここにいる違法者たちは言い訳一つ見せない。素直で素敵、ちょっぴり惚れてしまいました。態度だけは相変わらず有言実行なのですね。」
「そうよ、」
思いも寄らないニコニコしながら花を愛でるような声で私に語りかける。涙がしたたかに頬を伝うその言い方にはカラメルソースのように甘苦いほどの言葉であった。
「あ〜あ泣かせてたな〜猫宮、脅すにもほどがありすぎじゃ」
「悪法の違法刑罰にも軽いから重いまでありますよ、その程度の違法ならそこまではしないけど。少なくとも何か奪う程度に収まるでしょう。なのでそんなにおびえなくても良かったのですよ」
緩急の強さに頭が追いつかない。流した涙は次々と流れできて止まらない。
「私、本当に死ぬのかと思って…」
「いったん深呼吸しよ、里香」
「よかったね、一つ何か奪われるぐらいで」
2人が背中をさする。その手からはハンモックのように優しくふわりと受け入れてくれるような温かみがあった。
「いやいやいや、何奪われるのかわからないのによくそれが言えるわね、楽天な人」
「奪われても今あなたが身につけた悪魔の能力の一部を奪う程度ですよ。このぐらいで悪魔になった奴の命を奪うことなんか悪魔の法律は厳しくないですよ」
口をとがらす猫宮。人生が終わらないことに感謝する以外の感情が思い浮かばない。ヒンヒンとないている私の気持ちが少し収まってきて顔を上げると猫宮が微笑みかける。
「猫を救う人に悪い奴は居ないでしょう。そんな人を私は見過ごせないタイプなので。」腰に両手を置いて自信たっぷりにドヤる
「珍しいな〜、猫宮が笑顔とはのぉ〜」
「このクソガキな悪魔やっていいか?」
声色が緩急つけて低く、おどろおどろしいほどの声を出す。
「私は賛成」ウキウキしながらアスカは答える
「てめぇー!!」憤慨するスピア
「あんたらは?」猫宮が真顔で質問を振った。
私たちは沈黙してしまう。回答に困るしどんな答えを返してもいい結果にならなそう。私たちは顔を見つめ合って悩んだ末に出したそれぞれの回答。
「反対ですね」手を指先までのばして挙げる
「反対かな〜」苦笑いで答える柚葉
「どちらでも…」ヒクヒクと呼吸が乱れながらの回答。
猫宮が退屈そうな顔をする。つまらない回答過ぎたのだろう。悪魔からしたら盛り上がれる場面だったのだろうから。
落ち着いた私は姿勢を正してお茶を飲んで気を取り直す。どんなに雰囲気だろうと私は自分であろうとする。
「最近体は何か変化などありましたか」
「そうね、悪魔になってからは力を感じるの」
猫宮が服のシワを伸ばして身なりを綺麗にする。目に力が宿るように鋭いまなざしを感じる。これではさっき感じたのと変わらないではないか。
「悪魔になるとどんな変化があるのよ」柚葉が目をきらきらさせて質問する。
「う〜ん、なんて言えばいいのかしら。体に血が循環するようなイメージかな…言葉で説明しにくいのだけど。」所々言葉を捻り出すのに苦労する。なにせこんなことを経験することなんかないし、体が悪魔ってどんな冗談だ。
「それを経験した感想をきかせてください」粋怜さんがインタビュアーのように体を近くに寄せて声をかけてくる。胸の弾力やぬくもりが服を伝ってくるほど近寄らないでよ、そのぬくもりは寒い火に猫を抱え持つと感じられる体温そのもの。弾力はプリン並につるんとして餅のように反発力を感じる。
「えぇ〜、恥づいよ〜。」
「恥ずいことではないだろ」
「立派なことじゃろ」
軽々と言うスピアとアスカ。他人事ではあるがあまりにも無責任な大っぴらな態度はしゃくに障る。
「魔法をどうやったら使えるのかわからないの。突発に使おうとするときしか使えないし、発動させる方法がわからないの。」
「そうなの!?」柚葉が手をカエルのように挙げながら口を大きめにひらいた。
「そうだね。て、柚葉驚きすぎ」
猫宮がすかさず質問する。
「教えてもらえてないのですか?」
「はい」
「スピア、アスカ。しっかり教えなさいよ。」眼鏡の縁を触る猫宮。眼鏡をかけてる人ってこれクセなのかな。スピアとアスカ、今日は大人しいな。いつもならよく喋れるのに。
「わかったわ。てか猫宮がいるのとこんだけの人数いたら聴く側に回るだろ。」アスカがダンボールを片付ける時にかったるそうな首を回す仕草を見せながら答える。
猫宮がアスカの方を向いて答える。
「教えて差し上げて」
「いいわよ。魔法のだし方は手を握りしめるときに感じる力あるわよね。あれを具現化すると言えば分かりやすいかな。イメージを形にするといえばいいかしら」
やってみなと言わんばかりな顔を少し前に突き出す。そんなことを言われてもだけど手を前に出して手に力を入れてみる。指先をピンと張る感覚、ゴムをこれ以上伸ばせないくらいに伸ばす感覚を意識しながら手を表にして力を入れる。すると徐々に何かがその手に集まる感覚が…。柚葉と粋怜さんは私の体を挟むように近づく。悪魔3人はじっと見守る。
「そうしたら集まって来た力や感覚にイメージを加えていくのよ。あなたの魔法の創造を形にするの」
「どんな形でもいいの」
「基本的にはね。でも、無理難題な形には対応しないから。そうね…最初はハサミとかでもいいじゃないかしら」
頭にハサミの形を思い浮かべながら具体的な形を想像した。すると手から小さな魔法陣が現れてそれから電信音のような音がしだした。両隣にいる彼女たちは歓声を挙げる。その音が消えると手元にはハサミのような形をした紫に光る道具が手のひらに乗る。それを手で握ると生ぬるい温かみと氷のようなひんやりとする冷たさを感じる。
「基本はそれよ。後は自由に形を変えたり、速く出す訓練を積めばいいだけのことよ。これでいいかしら、上級悪魔さん」
嫌味を言うようにアスカは最後の言葉に力がこもる。猫宮はスルリとかわすように話を切り出す。
「えぇ、ありがとうございます。これで里香様は悪魔の力を使いこなせるようになります。制御は難しいかもしれませんけど、少しずつなれればいいだけの話です。」
一口お茶を飲む、その仕草はお上品な飲み方だ。酒や料理を堪能するときにじっくり味わうテイスターのようだ。
「よかったな〜これで妾たちの負担が減るわけじゃ。」
「負担って…言い方もう少しないのかよ」
「じゃ…言い直すか…重荷がとれた」
「言い直せてないよ」
心をときめかせながら口を開く、しょんぼりするようなしないような。まぁ、言いたいことはわかる。これまでずっと頼りっきりだったので肩の力が抜けるようになるのもわからないでもない。それに助けられていたことに感謝する立場だと思う。嫌味を言いながらも支えてくれていた事実は消えるわけではないのだ。
「それはよかったね」
「そうね〜全部消えたわけではないけどな」
「誓いを結んでる間よろしくね」
姉妹かコイツラ、2人とも頬がピンクになったぞ。素直じゃないな〜
「うるさいな〜急に褒めだすんじゃないよ」
「まだ褒め言葉言ってないよ」
「そ、そうだったわね」
粋怜さんと柚葉には何のことかわからずきょとんとしている。
「そういえば柚葉だっけ?あんたも使えるのよ悪魔の力」
電車が止まった時にできる一瞬の静寂ができた後私たちは大声で叫んだ。悪魔たちは動じずに私たちの表情を伺う。柚葉は困惑を隠せない。手足がおぼつき、キョロキョロと自分の体を見渡す。もしかしてと言わんばかりな口を大きく開き問いただす。
「あの時のキスに何かあっただろ、やっぱり」
「えぇ、そうよ。あのキスはただのキスではないわ。悪魔の血、唾液を強力にあけわたす行為の一つよ」
壁に落書きをしてケラケラと笑う犯罪者のような不気味すぎるほどの微笑を浮かべ、目が歪めて微笑する。してやったりと言いたげな表情をみるたびに宇宙という監獄にぶち込んで一人芝居をさせてやりたいほどの怒りが湧く。そこで一人でそれをして閑古鳥が鳴くほどの悲しい世界に葬り去りたい。まぁ、自分にそんな力がないことは言うまでもなく。
「あら、そんなことにしていいのかしら〜。それを考えてるのは人を殺そうと戦った戦士同士の相討ちににてるわね。私には誓いを交わした者を道連れにできる権利があるわ。勝てるかわからないから戦いを挑んだけど、結局お互いに死んじゃうから意味はないし。あなたの命は私の命なのよ」
情報の洪水が津波のように押し寄せすぎて脳内の神経という橋が壊れそうだ。このやり場のない怒りとやるせない思いが胸を渦巻く。
「あのさ、それどういうこと。柚葉にも悪魔の力使えるって。」
「私のキスを受けて、悪魔の力を植え付けたのよ。私の能力を上げたというよりあなたの素質に合わせた悪魔の力を与えたという方が正解。」
アスカは柚葉の質問におくせず答える。背筋を伸ばし凛とした態度を取り戻した。柚葉は唖然とする。
「ちなみに私の能力って何?」
「見せてやったらどうじゃ」
気乗りししなさそうなうかない表情をしたがスピアのハツラツな回答に渋々応える。アスカは指を鳴らす。すると柚葉の衣装が半袖に長いズボンだったのがみるみるうちに忍びの服とドレスっぽいような服装を足し合わせた服に変化した。
見た目が変わり果てた自分を体を舐め回すように柚葉はみていた。恋にときめくような彼女は衣装に手を触れて感触を確かめていた。
私と粋怜さんもそのきれいな色や服装に目を奪われてしまう。
「ちなみにあんたの能力は人の飛び攻撃を文具に変える魔法よ。もっとも貧弱な力ね」
「いやいやいや、凶悪な力ですよね」
「どこがよ、体強くもないし、それ悪魔が近くにいるときにしか使えないし、あんたじゃコントロールできないし」
「どういうこと、あんたじゃコントロールできないって」
「柚葉は私の操り人形」
私たちの興奮は一瞬にして凍える寒さが立ち込めるように肌がピリッとする。
…頭の血管が同時に弾けさせるほどの怒りがこもる。私は手を強く握りしめる。
「まぁ、安心しなさい。ほとんどそんな奴隷みたいすることはないと思われるから」
さらりと流すように言葉を吐く。アスカは足を組んでコーヒーカップを手にして一口飲む。猫宮は口を挟むことなく傾聴している。スピアは今日はうるさいという世界とはほぼ遠いところにいる。なんか気になるし。
それよりも気が重いのは柚葉に対してだ。今回もだし、この前も傷をつけてしまった。どんなニコニコと会話していたが、正直言ってどんなことばで謝ればいいのだろう。
さっきからチラチラ私の表情をみてはコップに写るアスカ自身の顔とにらめっこ。バレてないとでも思っているのだろうか。
「そんなに気になるなら言えばいいだろ」
スピアが急に鋭い口調で咎めるようにいいはなった。突然過ぎで反応がボタつく。
「あら、いきなりそんな声でどうかしたのですか、スピア」
「コヤツずっと嘘くさいかおしおってな。どうせ、この前の一件とこの件でおしろめたさってのを抱えとるんじゃろ」
「それを言うなら後ろめたさですよ」
「それじゃ、はっきり言え。でないと…あんたのはづかしいことを猫宮にバラす」
「はづかしいことって何よ、てかそんなことしてないし」
「ほんとか〜、例えば…」
本気で何か言われたら顔が真っ赤になりそうなことを言い出しそうだ
「わかったわよ。」
「とっといえって」
私は深呼吸をして柚葉を見つめる。柚葉は私に柔和な笑顔で手を軽くひらいている。
「私のせいで色々迷惑かけてごめんなさい。私が悪魔になったばかりに柚葉や粋怜さんにも辛辣な思いをさせてしまって。どんな表情であなたに顔向けすればいいか…」
言葉に詰まりながら答える。柚葉はその笑顔を崩すことなく言葉をのみ込んでいる。粋怜さんにも本当に嫌なことをしてしまった。顔を合わせたいが後ろをうしろをふりかえろうとすると足がびくびくする。
「そうね〜迷惑かけてばかりだったね。あなたが悪魔になってからほ〜んとうんざりするわ」
言葉をバネのように引き伸ばす話し方にハツラツな声、体を電車の手すりのように揺らっとさせる。
「悪魔にキスされて私も悪魔になるし、変な奴に絡まれてしまうし」
これは嫌われても無理もないかなと心の底思って首を下に向けていたら私の肩を前後から触られる、ビクっと反射的に反応、同時に顔を上げると柚葉が話し出す。
「むしろありがとう」
マジシャンがスマホから花を出されるぐらいの衝撃が私を襲う。私の頭は追いつかない。
「なんで…」
「もちろん、怖かったしムカついたよ。だって悪魔に命を狙われる事あったからさ。だけど、そのおかげで里香と交友関係が一層深まったのなら、凄い笑い話がお互いにできるし。」
柚葉は気遣いという仮面ではなさそうだ。彼女から地下から湧き上がるほどの温泉のような温かみや優しさ。それが脳の神経回路にまで伝わってくる。
粋怜さんがいきなりぬるっと顔を私の頬まで近寄らせて耳元で囁く。
「最初は憎悪みたいなものが渦巻いてましたね。悪魔なんかと何やってんだこいつって。ただ、里香さんと関わると意思の強さ、芯があるっていえばいいですかね。それに惹かれるようになったんですよ。」
粋怜さんが柚葉の隣にいく。向き直して私の方をみる。その表情には照れくさそうに俯く。
2人の言葉や本心に体の重さが軽くなるように思えた。
嬉しさの余り涙がしたたかに溢れ出てくる。泣き崩れる私に寄り添い体をさすってくれた。その優しさに救われる。
「小奴ら、こんなんで仲良くするとは傷のいたわりあいでしかなさそうジャな〜」
スピアの水を差す言葉に猫宮が釘を刺す。
「犬のように吠えることしかできないあんたなんかに、猫のようにお互いを毛づくろいし合うことの偉大さはわからないだろうな」
それらの言葉は耳には入らなかったけど、どうということはなかった。
落ち着いた私たちは席について今後どうするのかについて話をし始めた。
「やっと本題に話が進めますね」
猫宮が本腰を入れるタイミングを待ちわびていたように見える。鋭い目つきで私をみる。
「そうね、私は人間に戻るためにしないといけないこともあるけど自分を良くしたい」
「具体的に何かこれよくしたいとかあるの?」
訝しく柚葉は尋ねる。手をそっと顎に当ててみるもこれと言って何を改善したいのかが明確ではない。この内向な自分に嫌気がさしているのは間違いないし、暗い性格をどうにかしたいと思うけど一体どうすればいいのやら…。
チラッと3人の悪魔達の顔色を伺う。悪魔達は忌避する顔することなく私をみつめる。
「そんなに見つめてどうしたのジャ」
「もしや私たちの麗しき美貌に惚れたのかしら」
「そんなわけないでしょ」
各々、勝手に話し出す。この悪魔達の他愛のない会話はちょっと好きかもしれない。
「あら、そんなふうに思ってくれてたのね里香。深謝するわ。あんたの悩みの一つに暗い性格ってのがあるのよね。お礼にそれを解決する手伝いをしてあげるからそれにしたら」
思いもよらなぬ提案に腰を抜かしかける。って、また心を読みやがる。でも今回は無かったことにしてあげる。
「それ私も知りたいです。教えてくれませんか」
粋怜さんが頼み込んだ。アスカは腕を背中に回して体を左右に揺らす。
「いっそのこと、コイツラの思考力も改善してやったら功績としては大きいいのではないかのう」