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その後、私は父に呼び出され、また朝食を食べた部屋に向かった。
「どんな話なんでしょうか?」
「分からない……。でも良い話じゃないのは確か」
「それは、そうですけど……」
部屋の扉を開け、中にはもうすでに父が座っており、入ってきた私達に鋭く目を向けてくる。
「……遅い」
「す、すみません!」
「さっさと座れ」
「はいっ」
私は朝と同じ場所に座り、父へと体を向けた。
「……メリッサ、飲み物を」
「はいっ、すぐに!?」
二人きりにされ、メリッサを待つ時間となった。
終始無言で私を見る訳でもなく私が座っていない逆の方を見ているようだ。
(耐えられない……)
「あの……」
私は思い切って口を開くと、父は顔をそのままに口を開く。
「お前には失望した」
「えっ」
「いくらリスティアの事を嫌っても陥れるような事をするとは思っていなかった」
「あれは、本当にあの子がしたんです!あれから時間が経ってる。今、絶対寝てるはずです。確認して貰えば」
「……うるさいっ!」
「ひっ!」
父は顔を直し、私の方へと向くとステッキを持ち上げ先端を差し向けてくる。
「まだ言うのか!?証拠ならないだろう、いつまでもこんな話を繰り返すな。
そんな事より聞きたい事がある」
「な、なんでしょう?」
「ニコラスと寝ないのは何故だ?お前もこの家の娘だ、婚約がどういうものかわかっているだろう」
「そ、それは……もちろん……」
「なら、答えろ。何故ニコラスと寝ない?」
父の言い分はよく分かる。
ハーベスト家は代々、軍馬を生産しており、その地位を保ってきた。
ハーベスト家以外にも生産している貴族はいるが、質が良く、他より足の速い馬を作れる事が強みだった。
だが、最近、改良が進み他の貴族も段々と足の速い馬の生産を加速させ、ハーベスト家の地位は低下しつつある。
だからまだ優位の内にアーデルハイト家へと嫁がせ守ろうとしている。
いわゆる政略結婚だ…。
そんなアーデルハイト家は領土をルーベルト家が率いる国境付近に構え、常にその国境地域を守っている。
貴族とはいえ、屈強な軍隊を有し、アーデルハイト家が倒れれば国境を破られ、ルーベルト家が雪崩れ込んでくる。
いわばアーデルハイト家は貴族でありながら大小10からなる貴族のトップ、『王』の地位にあり、皆が顔色を伺う家柄なのだ。
「どうした、早くしろ」
「私は、その気はあります。でもニコラスが……」
「なんだ、お前が止めているんじゃないのか?」
「え、えぇ……」
父との会話中、なるべく音を立てないようにとメリッサが入ってくる。
そして、静かに私達の前にカップを置く。
もちろんそのカップは『あの』カップだ。
「……ルイボスティーです」
メリッサは小さな声で注いでいく。
ふわっと優しい匂いが香り少し心を癒す。
やっぱりメリッサだ、私を落ち着かせようとしている。
「お前に気があるなら何故ニコラスは手を止める?」
父は私の事を今まで見ていた感じではなく、じっくりと見てきた。
「あの、なにか……?」
ふぅ……と息を吐き、何かを察した感じだった。
「そうか……なるほどな。リスティアと比べると、無いな」
「無い?」
「言わんと分からんのか?女同士だろう、……メリッサ。お前ならわかるだろ?」
「えっ???」
「近くにいるんだ、フェリスとリスティアの違いを言え」
「わ、私が、ですか?」
「あぁ、そうだ。もう何年も一緒にいるお前なら分かるだろ」
父は言い終わると、カップに口を付け、椅子の背もたれに身を預け、足を組む。
私はすぐ近くにいるメリッサを見ると、困惑しかしてない顔を見せ目が合う。
「お、お嬢様……」
(この流れは言わせないと進まない)
私はコクっと頷き、目で訴えた。
「で、では、失礼ながら……。お嬢様とリスティア様の違いですが、その……体型、かと。でも!フェリス様もとてもお綺麗ですし、それに!?」
「メリッサ、……もう、いいわ。ありがとう」
「お嬢様……」
本当は自分でも分かってた。
だってニコラス様が私を見る目は何処かつまらなさそうな感じだったから…。
「分かってるなら、他でなんとかしようとすれば良いだろう?……まぁ、いい。
ところで、最近こんな手紙を貰ったんだがな」
父はメリッサを近くに呼ぶとその手紙を渡すと、こちらに戻ってきた。