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(さて、どう出る?)
私は部屋を出た後レスティアの方を向き頭を巡らす。
証拠となるカップを持ってこられ飲むように要求したらこの子は拒む。
それは間違いないはず。
「……お姉様、カップに証拠でも?」
「えぇ、あなたが盛ったって言うのならその成分が溶け出しているはずだし」
「ふぅ~ん」
(なんで余裕なんだろう?)
「フェリス、仮にその証拠となるカップに何も無かったらどうするんだ?」
「えっ?」
「……ここまで言っておいてレスティアを犯人に仕立ててるんだ。
何も無かった、となったらどう責任を取るんだ?そこまで考えているんだろうな?」
「それは……」
(なんで私が責められているんだ……?この子がやったのは間違いない、だって、あの話を私は直接聞いたんだから……)
「お嬢様っ!」
息を切らし、カップを持ってきたメリッサに一斉に注目が集まる。
「これ」
メリッサが私に近づき、カップを見せてくる。
(うん、大丈夫。思った通りだ、あまり飲んでない、これなら)
カップには半分程残る紅茶、そしてその底には輪切りの薄いレモンが沈んでいた。
「レスティア、これ、飲めるわよね?昨日、口にしていたんだから」
「えぇ~、でも昨日ってことは飲んだらお腹壊しそうですけど??」
「1日くらいなら大丈夫でしょ!?」
侍従達がざわつく部屋。
だから私はメリッサからカップを取り、向かいにいるレスティアへと運んだ。
「さぁ、飲んで」
「えぇ~……」
(やっぱり渋ってる。……なら決まりよね)
「お父様、見て下さい。レスティアはこれを飲みません。それって薬を盛ったのがこの子って証拠になりますよね!」
「……」
黙る父を見て私は『よしっ』と確信した。
ゴクッ
「えっ……」
「はぁ~……お姉様もうるさいこと、これで良いんでしょ」
カップを飲み干し、私の胸元にズイッと押し付けてくる。
「の、飲んだの?」
「えぇ、見たら分かりますよね?」
チラッと押し付けられたカップを見ると紅茶はなく、沈んでいたレモンの断面のみが見えた。
「……」
「なんで黙るんです?お姉様の要求は通しましたよ?でも私の体は、ほらっ」
飲んだレスティアは手を広げ体を大きく見せてきた。
「で、でも、すぐに効かないだけじゃ……」
(……待って、どういう事?)
「すぐに効かない?……なら少し待ちましょうか?せっかく侍従達が食事を用意してくれたんですから冷めてしまったらもったいない。お父様も」
父の私を見る目が怖かった。
この子に無理矢理飲ませ、何も変化がない。
このままじゃ私が悪者にされる…。
「フェリス、座れ。レスティアの言う通りにまずは食事を取ることにしろ」
「……はい」
カップを手に私は自席に戻り、目の前に出された朝食に手を付けた。
小さなフランスパンと、コーンスープ、そして色とりどりの野菜のディップ…。
どれを口に運んでも味がしなかった。
(おかしい、……でもそろそろ効いてくるはず)
パンを一口大にちぎり、口に運びつつレスティアの様子を伺った。
「そんなに見ないでくれます?お姉様」
「……別に良いでしょ」
「私が可愛いからですか?それって……嫉妬??」
バンッと音を立て勢いよく立ち上がったことで椅子がゴロンと倒れていく。
「嫉妬ですって!?……何か細工したでしょ!?」
「細工って……メリッサが持ってきたんですよね?ならメリッサに聞いてみたらどうです?」
その言葉に私は扉の前にいるメリッサの方にすぐに目を移した。
でも必死にメリッサは首を振り、否定してくる。