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振り返るレスティアはまたニヤリと笑うと、またすぐ向き直し歩きだす。
「……ねぇ、メリッサ」
コソッと私はメリッサの耳元に口を近づける。
「なんでしょう?」
「今、あの子の侍従のメリーがいない。お母様の侍従もしているからここにはいない」
「そうですね、姿が見えないって事はそういう事ですよね」
「ひとつお願いしたいの」
「なにをですか?」
「私の部屋に戻り、テーブルの上を片して欲しいの。
でも私が飲んでいたカップは残しておいて」
「どういう事です?」
「さっき、あの子が言っていたでしょ。急に私が頭を揺り動かし寝てしまった、って。
昨日、縛られていた時に言ってた。薬を盛った、って」
「えぇっ??」
「だから途中で寝たなら全部は飲んでないはず。残ったまま残しておいてあの子が飲めるか確かめてやる。もし渋ったら犯人はあの子、間違いない」
「で、でも、残しておくと言ってもどこに……?」
「私のベットの近くにボックスがあるでしょ。あの下の段にそっとしまっておいて」
「……大丈夫ですか?もし見つかったら」
「あの子は私の部屋には来ない。あんな事……」
「あんな事?」
「いえ、とにかくお願いね。私はあの子の後をついて行くから」
「お、お嬢様っ」
メリッサと離れ、私は先を行くレスティアを追いかけた。
バンっと勢いよく扉を開けたレスティアの後に続き、私はある部屋に入った。
そこにはアンティーク調のダークブラウンで揃えられたテーブルと椅子。
そのテーブルは長方形をしておりとても長く、十人は座れそうな位で、椅子の背もたれは頭の高さまであり、肘掛け部分は金色に塗装されいる。
また部屋の真ん中には大きなシャンデリアがあり、窓から差し込む日を受けるとキラキラと光り、その日を受けてテーブルにまだら模様の光の跡を残す。
「やっと来たか、フェリス」
入り口から向かってテーブルの端の上座に座っているのが父であり、現当主のラルフ=ハーベスト。
赤毛の髪をオールバックで固め、切れ長の目はエメラルド色をしており、上下黒のタキシードを纏い首元は赤いスカーフを巻く。
座る椅子の肘掛けには真っ黒なステッキを引っ掛け、不機嫌そうに右足を上に足を組む。
「遅いわよ、フェリス」
母のリーナ=ハーベスト。
艶々とした綺麗な栗色の長髪は腰辺りまで伸び、近くにある窓から差し込んだ日を受けてより鮮やかに映る。
色白の肌に少しだけ下がった目元には青い瞳。
薄らと赤く塗られた唇は小ぶりで、とても優しそうな印象を与え、着るドレスは純白のドレスでさながらウェディングドレスのようだが、特別な装飾はされておらずシンプルな作りで赤と黒のチェックのストールを緩めに羽織っている。
「申し訳ありません……」
「まぁいい、とりあえず座りなさい」
「……はい」
上座に座る父の左横には母が、そして二つほど距離を取り、母側の席にレスティア、そしてその向かいに私が座った。
座るのを確認すると父がパンパンッと手を合わせ鳴らすと仕えている侍従達がぞろぞろと部屋に入り、配膳をしていく。
その最中、父がゆっくりと口を開いていく。
「フェリス、お前、いくつになった?」
「えっ。……20、ですが」
「そうか、レスティアは?」
「18になりましたわ、お父様」
「そうか」
「あの……それが何か??」
父は一つ息を吸い、鼻から吐くと私の事を見てきた。
「ニコラスとはもう何年になる?」
「ニコラス様、ですか。……えっっと、五年、でしょうか」
「もうそんなにか。……早いものだな」
(何を聞きたいのだろう……。でも明らかに良い話ではなさそうな感じがする)
父の問いに考えを巡らしていると向かいに座るレスティアの視線を感じた。
すると、ぺろっと舌を出し、自分の唇を左から右へと舐めていく。
(なに、その行動……)
「ねぇ、お父様。お姉様が困ってるわ。《《ハッキリ》》と言って差し上げたら?」
レスティアの言葉に父は足を組んだ右足に両手を乗せると指を絡ませ核心を述べてきた。