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「来るな、フェリス」
だが、私はその言葉に首を振り、一歩ずつ近づいていく。
そして、二人の近くに来ると、ニコラスが声をかけてくる。
「よし、じゃあ甲冑を外せ」
「フェリス……」
アドルフの事を見上げ、口を軽くキュッと噛んだ後、私は甲冑へと手を伸ばした。
カチャカチャと音を鳴らし、胴体部分の留め具を外していると、再びニコラスが声を出してきた。
「待て」
「なに?要求通りにしてるはずよ」
「そうじゃない。……フェリス、俺に背を向けろ」
「どういう事?」
「あぁっ!?口答えするのか、お前は!いいんだな、アドルフがどうなっても!?」
ニコラスの怒号にビクつき、一瞬体を硬直させたが、言われた通りにニコラスに背を向けた。
すると、私は後頭部に何かが当たる感触を感じた。
「……そうだ、最初からこうしていれば良かったんだ。なんで気づかなかったんだ、俺は」
ゴリッと後頭部に銃を押し当ててくる。
「おまえっ!?」
「なんだ、アドルフ?」
「俺を殺りたんだろう?フェリスは関係ないはずだ」
「いいや、よく考えたらお前よりこいつを殺したほうが精神的にも追いやれるだろう?……いいから早く外せ、フェリス!?」
さらに銃を押し付け急かしてきた。
「……アドルフ」
私が見上げると、何かを感じとったようだ。
「フェリス……?」
次の瞬間、私はクルッと反転し、ニコラスの右頬にビンタをかました。
私の行動は一瞬で、押し付けていた銃も反応できず、それにそんな行動を取るとも思っていなかったニコラスは無防備だった。
「がっ」
叩かれた瞬間に構えていた銃を落とし、それを私はすぐに蹴っ飛ばした。
「フェリス!?テメェ!!!?」
掴みかかろうとするニコラスに対し、アドルフは痛めた右手を使い掴むと思いっきり投げ飛ばした。
転がった銃はキサラさんの足元近くまでいき、それを拾い上げると、私達の元へとやってきた。
「こんな物も用意していたとはね」
それをアドルフへと差し出していった。
「あぁ、とっておきとか言っていたしな。ならこれ以上はないだろう」
銃を受け取ると左手で構えニコラスに照準を合わせていく。
「や、やめろっ!?」
すぐに顔の前に手を差し出してきた。
「なんだ、怖いのか??さっきフェリスも同じような目に遭っていたぞ」
「アドルフ……」
構えつつニコラスを追い詰めていき、銃口はニコラスの額に向けられた。
だが、使い慣れてない左手の為か、少し震えていた。
そんな様子を見て私は寄り添い、構える左手を支えた。
「フェリス?」
「こうした方がちゃんと撃てるから」
「な、なんだとっ!?お前、俺を撃つ気か!?婚約者を撃つ奴など聞いたことがない!?」
「……なに言ってるの?私とあなたは元婚約者でしょ?それにもうリスティアと婚姻してるんだし、そんな言葉出す方がおかしい」
「し、知るかっ!そんな事!?」
「……フェリスの言う通りだな。そんな事を言って命乞いする奴など見た事ないな」
「なんだとっ」
グッと引き金に力を入れていく。
「やめろっ!!??」
パンッ
アドルフは額じゃなく左肩へと発砲した。
「……どうして?」
「見たいのか?人が死ぬ光景を。……あまりいい物じゃないぞ」
「グワアアァァッァア」
悲痛な叫び声をあげ、床に転がり回るニコラスを私達は冷たい目で見ていた。
「……もういいだろう、いくぞ」
アドルフは背を向けキサラさんへと近づいていくので私も追った。
「いいの?もう……?」
私の言葉にアドルフは再度ニコラスの方を見て話しだす。
「殺す価値もない。あのまま喚き散らかしておけばいい。……おい、お前達」
アドルフはニコラスの周りにいた騎士達に向け、声を発した。
「歯向かってくる奴がいるなら来い、相手してやる」
だが、そんな挑発的な言葉を受けても騎士達は誰も声を上げず、項垂れているだけだった。
「ま、待ちやがれ……」
だが、一人だけいた。
「勝ったと思うなよ、アドルフ!?」
左肩を必死に押さえつつ立ち上がったニコラスだった。
その肩からは血が流れ落ち、手の甲は真っ赤に染まっていた。
「まだやる気か?」
「……当たり前だ。ちょっとくらい撃っただけで勝った気でいるなよ!」
ふぅ……と一息吐く姿を見たニコラスは顔を赤らめ詰め寄ってきた。
「殺してやるっ!?」
パンッ パンッ パンッ
規則正しいリズムで三発、ニコラスに対し撃っていく。
そしてその内の二発が両足の太もも辺りに命中した。
当たった事ですぐに倒れ込み、痛がる姿を見せ、悲鳴をあげる。
「いい加減にしろ」
アドルフは近寄っていくと痛がるニコラスの額に銃口を押しあてていく。
そこからは撃ったばかりの真新しい煙が立ち上り、押し当てた額からは、『ジュゥ…』と音が聞こえ、赤く染める。
「次は本当に殺すぞ」
冷酷な目を見せ、ニコラスに迫るアドルフは冷酷な殺人者と付けられた所以の態度を示していく。




