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転がってきたナイフをゆっくり拾い上げると、床に倒れ込んだリスティアに近寄って行った。
「ちょ、ちょっと、やめてください、お姉様。……来ないでっ!?」
バタバタと座りつつも手足を動かし部屋の隅へと移動していく。
「……私はあなたが大っ嫌い。ニコラスとベットで愛し合ってるのを聞いた時すぐにでも出ていき問い詰めたかった。でも色々と手を回し、私を追いやったわよね?」
「や、やめてっ。……メリー、助けて!?」
リスティアの言葉にメリーはメリッサから離れ、すぐにこちらへとやってくるが、私はそちらに力強く目を向ける。
「うっ……」
「なにしてるの、早く助けてっ!?」
「メリー、早くメリッサを解放しなさい。じゃないと……」
さらに一歩、リスティアへと近づいていった。
「こ、来ないで……」
もう目の前にはナイフの剣先があり、少しでも前に手をくり出せば刺さるような距離まできていた。
「やめてくださいっ、お願いします!?」
目を戻し、私はゆっくりとリスティアと同じ高さになるようにしゃがみ込み、目の前からお腹へとナイフを移動させた。
息遣いが激しくなり、肩を揺らし呼吸するリスティアの顔は徐々に青白くなっていく。
「……怖い?」
「こ、怖いです……」
「そうね、でも、さっきまでメリッサも同じ気持ちだったはず。された者しか分からないからね。
……もう二度と私達にちょっかい出さないで。わかった!!?」
私は声を張り上げた後、ナイフをお腹へと動かした。
「イヤァァァァ!!??!?」
リスティアは叫び声を上げた後、首を右に倒し、気を失った。
だが、私はナイフを突き刺していない。フリをしただけだ。
「リスティア様っ!?」
メリーの声も虚しく、気を失ったままのリスティアはそれから動く事もなく、しん…としていた。
私はそんなリスティアをほっとき、メリーへと近づき始めた。
「……メリー、あなたのご主人はそこで寝てる。早くメリッサを解放しなさい」
「い、嫌よ」
「そう……」
私がさらに近寄ると、メリーは椅子の後方に回り、メリッサを盾にするように位置取っていく。
「来たら首、絞めますよ?いいんですか??」
メリーの言葉に足を一旦止めた。
「そ、そうです。そうしたらナイフを捨てて!?」
ちらりと持つナイフを見るが、私は捨てる事をしなかった。
「なんで捨てないんですか!?いいんですね、メリッサが死んでも!?」
メリーがメリッサの首に手を回した時だった。
メリッサは後ろへ倒れつつ、頭を顎辺りに頭突きしていく。
「あぅっ」
よろけ、顎へと手を移すの見て、私はすぐにメリーへと距離を詰めていった。
刺されると思ったのだろう…メリーはリスティアを見捨て扉へと駆け寄り部屋を出ていった。
部屋には意識を失ったリスティアと私達。
ホッと一息吐くと私はメリッサに近寄った。
「ごめんね、いま外すから」
口に括り付けられた縄を解くと、すぐにメリッサが声を上げる。
「お、嬢さま……」
顔には真横に縄の跡が残るが、それによって付けられた跡以外に叩かれたような箇所があった。
「……痛かったね。ごめんなさい」
外した縄を持ちつつも少し声を振るわせ話した。
「そんな……私は大丈夫、です」
しかし、私は何度も首を振りつつ謝った。
「……体、外すから」
クルクルと縄を外すと、ようやくメリッサは解放され、その瞬間私へと抱きついてきた。
「お嬢様は何も悪くない、……こうやってきてくれたじゃないですか?泣かないでください」
メリッサの優しさに胸を打たれ、私は大声をあげて泣いた。
少しだけ部屋の中で抱き合い、次第に収まってきた頃、メリッサが声をかけてくる。
「……どうするんですか、これから」
鼻を啜った後、今の現状をメリッサに教えた。
「今、戦ってるんですか……ならすぐ行かないと!」
スッとメリッサは立つと、私へと手を差し出してくる。
「行きましょう、お嬢様、大切な人でしょ?アドルフ様は」
「ど、どうして……?」
「わからないと思ったんですか?私はあなたの侍従ですよ?何年一緒に過ごしてきたんですか。……それより」
メリッサは差し出しつつもリスティアの方へと目線を向けた。
「今は気を失ってますが、いつ起きるとも分かりません。ちょうど縄なら有りますから縛っておきましょう」
「そうね」
私達は協力し合い、リスティアの体に縄をキツく縛りつけるとアドルフの元へと急いだ。
 




