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アドルフがニコラスの元へ向かっていくと急に声をかけてきた。
「おぉっと、待ちな。……メリッサがどうなってもいいのか?フェリスがいるとは思わなったが、都合がいい」
ニコラスはリスティアに目を送り、軽く頷く。
すると、リスティアは部屋の奥へと逃げ込んでいった。
(メリッサに何かする気だ!)
「リスティア!?」
私は立ち向かうアドルフの前を走って行こうとした。
「待て!フェリス!?」
掴もうとした手は空を切り、私は一直線に逃げていったリスティアを追い出した。
「……なんだ、お前、『フェリス』なんて呼ぶのか。あいつはなんの魅力もないぞ、そそる体でもない。自分からも来ない」
「黙れっ」
「あぁっ??」
「フェリスの何が分かる?自分から捨て、妹に手を出したクズだろう、お前は」
「なんだとっ!?」
「……まぁいい、口で分からんなら体で分からすしかないな。お前ら、ニコラス以外相手にしろ。こいつは俺がやる」
「……面白い、やってみろよ!?」
ーーーーーー
「待ちなさいっ、リスティア!?」
先を行くリスティアは私の方を振り向く事なく廊下を駆けていく。
(絶対その先にメリッサがいるんだ)
廊下を曲がると一つの部屋へと入っていった。
私も迷う事なくその扉を開け入っていくと、息を切らしたリスティアとメリー、そして、椅子の背もたれと一緒に括り付けられているメリッサがいた。
「メリッサ!?……良かった、無事で」
「んんっっ!」
口には太い縄を括り付けられ、言葉が発せないようだ。
「リスティア、早くメリッサを解放しなさい」
「……はぁはぁ、嫌よ。少しでも近づいたら」
するとリスティアは小さなナイフを取り出し、首元へと近づけていった。
「分かりますよね、どうなるか?」
「……卑怯よ」
「いいえ、そんな事ない。こうやって追い詰めるのが定石。ねぇ、メリー?」
「えぇ、ほらぁ、フェリス様に言ってあげなさいよ。あなたが何をされたかを」
メリーの言葉にメリッサは目を伏し、瞬きを何回もしていく。
「……なにをしたの?メリッサに」
「えぇ~~、私が言っていいんですか?リスティア様?」
「ふふっ、いいんじゃない?だって口塞がってるんだし」
「んんんっ!!?」
「な、なにを……?」
ただならぬ感じは分かるが、そうであって欲しくないとも思った。
「この子はねぇ、ヤラレちゃったのよ。……騎士に」
メリーの言葉にメリッサはガクッと首を傾け項垂れていく。
「……そ、そんな」
「あはははっ!なんでそんな悲しい顔してるんです?女として嬉しいことじゃないんですか??
ねぇ、リスティア様??」
「ふふっ、そうよ。私だってニコラス様に抱いてもらってる時、幸せだった。この前だって……」
初夜を思い出したのだろうか…リスティアは首元に突きつけていたナイフを一旦外し、顔をあからめ体をくねらせていく。
「……最っ低」
「えっ?何か言いましたか?お姉様」
「最低よ、あなた達。笑って話すような内容じゃない。人の体を弄んでなにが嬉しいの!?」
「……あぁ、そっかぁ。お姉様は《《まだ》》経験無いんでしたよね」
「えぇっ!?無いんですか??可哀想……」
「うるさいっ!?」
私はメリッサを助けようと近づいていった。
だが、それを見たリスティアがすぐにナイフをまた首元へと近づけていく。
「危ない、危ない。……諦めて下さいよ、お姉様」
だけど、私はそんな言葉に耳を傾けず、更に近づいていった。
「み、見えないんですか?これを!?それ以上近づいたら切りますよ!?」
「……やればいいじゃない」
メリッサも含め三人共、言葉を失った。
「切ったらあなた達がどうなるか分からないから」
真っ直ぐ向いた目は今までの私からは想像出来ないくらい怖いらしい…。
メリッサでさえ括り付けられた椅子を引いてしまうくらいだから。
「わ、ワァァァァッ!!?」
首元に突きつけていたナイフをリスティアは私へと矛先を変え、振りかぶり切りつけてきた。
だけど、私は体を横にし避けると、空を切ったリスティアはよろけてしまい、床へと倒れていく。
チャリン……と金属音を鳴らし、ナイフを手元から落とすと、それが私の足元へと転がり込んできた。




