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華やかな式とは対照的に私達は騎士達と共に屋敷の奥へと連れられ、ある階段を降りていく。
「お嬢様、ここは?」
「……わからない。初めて来た」
壁に設置された灯りが照らす細く窮屈な階段は降りる度にジャリジャリと音を鳴らす。
真っ直ぐ伸びた階段の先に鉄格子が見え、足を止めた。
(牢屋……?)
「おいっ、止まるな」
後ろから押され、止まる足を動かされた。
「逃げようと思っても無駄だ」
振り返る私の後ろにはまだ数人の騎士がおり、階段の左右に位置をズラし通せんぼをしてくる。
「……ここに連れてきてどうするの?」
「さぁな、ニコラス様の指示でここに連れてきただけだ。あとは知らん」
(何をする気なの……ニコラス……)
階段を降りるとすぐに私とメリッサは左右に別れて牢屋に入れられた。
私達の両手はガッチリと縄で締められ、簡単には解くことが出来そうになかった。
「待って!」
私の声など聞こえない振りをして、騎士達はさっさと階段を登っていってしまった。
地下だと思われる牢屋は肌寒く、灯りも階段の足場までしかないためかなり暗い。
かろうじて漏れる灯りを頼りにメリッサの安否を確認する。
「お嬢様」
「メリッサ、大丈夫?」
「私は大丈夫ですが、……なぜここに連れてこられたんでしょう?」
「分からない、ニコラスの指示って事しか言ってなかった。でも、ここに追いやったなら必ずニコラスもやってくる」
「……そうですけど」
「今はとにかく待つしか……」
上ではいまだに祝宴が開かれているのだろう。
追いやられた私達はひたすら待つしかなく寒い牢屋内で身を小さくして時を待った。
ーーーーーー
(寒い……)
向かい合うように地面へと座り込み、お互い無言のまま過ごしていく。
何分、何時間……。
待っても誰も来る気配も無く、次第に空腹が襲ってくる。
その時、ジャリ……という音に気付き、伏していた顔を上げるとメリッサが体を横に倒していた。
「メリッサ!?」
「……お嬢様、大丈夫です。座るより横になった方が楽で」
「そう」
体に変調をきたしたのかと思い慌てたが、違ったようで少しホッとした。
だが、誰も来ない時間が続く事で不安感も増していく。
(このまま、来ないつもり?……まさか、私達を餓死させようと?)
いてもたってもいられず私は座った体を立たせ、鉄格子を掴み声を上げた。
「誰か!?」
「……お嬢様?」
「ニコラス、いるなら来なさいよ!?」
「どうしたんですか?急に」
「もしかしたら私達をこのままここで殺すつもりなのかも」
「えぇっ!?」
「だって、もう流石に終わってるはずでしょ、式なんて」
「どれくらい経ったか分からないですよ?」
「それでも!?」
私は手格子を揺らし、ガンガンと音を鳴らし続け、ニコラスの名を呼び続けた。
「……お嬢様」
それからしばらくそうしていると階段を降りてくる音が響いてきた。
「ニコラス!?」
階段を降り、姿を見せたのはニコラスではなく、リスティアだった。
「……なんで??」
「あらあら、なんて醜いの。それに大声なんて張り上げて」
「リスティア!?ニコラスは何処?!」
「そんな大声あげなくても来るわよ、……ほらっ」
後を続くようにニコラスが姿を見せてきた。
「待たせたな、……フェリス」
「一体どういうつもりなの??早く出しなさい!」
問い詰める私を見た後、リスティアと顔を見合わせると笑い出してきた。
「あはははっ、出す気などないぞ?」
「や、やっぱりここで私達を」
「まぁ、お前はそうかもしれんが、メリッサは違う」
「えっ?」
ニコラスはメリッサが捕らわれている牢屋へと近づいていく。
「お前とメリッサ、共にいるからお前は生きているんだろう?じゃなきゃアドルフの元に行った奴の末路は決まってるはずだ。だからお前達を引き剥がす」
「そういう事。わかった?お姉様」
「どういう事……?」
「なんだ、分からんのか?メリッサがお前の精神的な支柱になってると俺は思ってる。だからそれを砕けばお前は終わる。……リスティア」
「えぇ」
リスティアが合図を送ると、再び騎士達が姿を見せてくる。
「お前ら、こいつを好きにしていいぞ。ただし殺すのだけはダメだ。他はなんでもしろ」
「はっ」
「ちょっと、何をする気!?」
騎士達は牢屋の鍵を開けるとメリッサへと迫っていった。
「来ないでっ!?」
「メリッサ、逃げてっ!!?」
逃げようにも狭く、それに数人の男の前ではなす術もなくメリッサは簡単に捕まり、階段を登らされていった。
「お嬢様っ!!?」
「メリッサ!!!?」
「ふふっ、どうだ?悔しいか?お前は何日持つかな?せいぜい3日、か」
「……私にどうして欲しいの?」
「言わなくてもわかるだろう、……とっとと亡くなって貰いたいんだよ。お前と婚約していた、なんて事実を消したいだけだ」
「それだけのために……?」
「メリッサはおもちゃのように弄ばれるんだろうな」
「ニコラス様、そろそろ行きましょう。私達の初夜もあるんですから」
「あぁ、そうだったな。……じゃあな、フェリス」
二人はお互いの腰に手を回し合い階段へと向かっていった。




