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厳かな雰囲気で始まった式は淡々と進み、誓いの言葉、指輪の交換、キスを経て、晴れて二人は夫婦となり皆の前で盛大な拍手を受けていた。
途中、リスティアは何度も私の方を見てはニヤつき勝ち誇っているようで…。
(そんなに見せつけたいのね…)
式は終わり、ニコラスが集まった皆に向け声を発した。
「皆の者、今日は私とこのリスティアの為に集まり礼を言う。今宵は無礼講だ、心ゆくまで楽しんでいただきたい」
挨拶の後は周りは歓談の場となり、各々が楽しそうに振る舞っているが、一方で私は隅に隠れ、この祝宴が早く終わらないかと願っていた。
すると、リスティアがゆっくりと私の方へとやってきた。
「あらあら、そんな所でポツリと」
「リスティア……」
「お父様とお母様はニコラス様のご両親と歓談されているから暇なんでしょう?私が相手してあげる」
「……いいわ。結構よ」
「そんなふうに言っていいの?せっっかくこのブーケあげようかと思っていたのに」
「リスティア様、それは勿体無いですよ、だってあの冷酷な殺人者の元に行った人の末路なんて……」
「あらぁ、そうだったわ、いずれそうなるなら勿体無いわね。助かったわ、メリー」
「いいえ、……それよりフェリス様、メリッサはどうしたんです?あの子の姿が見えないけど」
「……お手洗いよ」
「そう」
「メリー、メリッサにちょっかい出すのはやめて」
「分かりましたよ、そんな顔しなくても出しませんよ」
話し込んでいる所に今度はニコラスまでやってきた。
「リスティア」
「あっ、ニコラス様!」
「……フェリスなど相手にするな。時間の無駄だ」
「そうでしたね。申し訳ありません、つい!」
ニコラスに近づくと左手の薬指にはまった真新しいダイヤの指輪を見せつけてくる。
「本当はこれをはめるのがお姉様だったんですよね?でも、これはもう私の物。あはははっ!?」
高らかな声で笑い出し、惨めな私を強調するかのような態度を取るリスティアから私は逃げ出すようにこの場を去っていった。
貴賓の間を出た私は、すぐ近くの廊下の隅でへたり込み天井を眺め、薄らと涙を浮かべた。
「お嬢様??」
お手洗いから戻ったメリッサがすぐに気付き、近づくので私はすぐに目元を拭い、涙を見せないようにした。
「……何かあったんですね。言って下さい」
どうやらメリッサにはお見通しのようだ。
「……大丈夫、ちょっと酔っただけよ」
「いいえ、そんな訳ありません。私はずっとあなたの側にいるから分かる。……もういいですよね、お嬢様?
帰りましょう、ここにいても」
肩を抱き、立たせるメリッサは屋敷の外へと向かい始めていく。
「……お母様に一言」
「あとで手紙でも送りましょう。今は一刻も早くここを離れるのがいいです」
だが、屋敷の扉へと近づくとガチャガチャと音を鳴らし、甲冑に身を包んだ騎士達が何人も姿を見せ、行く手を遮ってきた。
「な、なんですか?あなた達??」
「フェリス=ハーベスト様と侍従のメリッサ様ですね」
「そ、それが何か?」
「おいっ」
中央にいる騎士が周りの騎士へと指示を飛ばすと私達を囲み出してきた。
「何をする気ですか!?」
「ニコラス様の命令であなた達を拘束します。抵抗すれば手荒な真似をしても構わないと言われていますので、大人しくしてもらえますか?」
「なぜニコラスが私達を!?もう私とニコラスは何も関係ないはず!?」
声を上げる私が気に入らなかったのか、隣にいるメリッサを引き剥がし、床へと押さえつけた。
「ちょ、ちょっと!?……メリッサ、大丈夫?離しなさい!?」
「大人しくしてもらいたい。さもなくばその者の腕は一本、使い物にならなくなりますよ」
騎士が目を送ると、メリッサの右腕を締め上げ始めた。
「ああぁあぁっ!?」
「やめなさい!?……わかったからメリッサから手を離して」
私は両手を上げ抵抗の意志は無いと示す。
「おいっ」
「はっ」
メリッサの腕を締め上げるのを止めると、私にも近づき、縛り上げていくと私達は何処かへと連れて行かれた。