33
十日後……
「じゃあ」
私はアドルフに馬車を借り、アーデルハイト家へと向かうことにした。
髪を束ね三つ編みに結い、あの赤いドレスを纏う。
「あぁ、気をつけろ」
アドルフはこの婚姻に関しては何も言ってこなかった。
それはこの問題は私達、家族の問題だからだと思う。
乗り込み、ゆっくりと馬車は進みだし、次第にルーベルト家の本宅は小さくなっていった。
「早過ぎませんか?婚姻の儀をするのは」
「……そうね」
メリッサが驚くのも仕方ない。
あの日、婚約をしてからまだ一年も経ってないのにこのスピード感。
だけど、私にはなんとなく分かった。
父が焦り進言したとか、リスティアが物言いを言ったから……そんな感じだと。
馬車は森を抜け、施設を通り過ぎると次第にアーデルハイト家の屋敷が目に映ってきた。
(……またここにくるなんて)
ニコラスと婚約していた時は何回も訪れていた場所。
でも今回は破棄され、妹の婚姻のために訪れる。
立場が全く違う中で踏み入れる空気に私は少しブルっと体を震わせた。
バロック様式の大きな屋敷。
領地内での権力の強さを表すかのような豪華な造りで周りを大きな塀で囲み、入り口には重厚な門を構え、その前で一旦馬車は止まった。
召使いが門番と会話を交わすと、ゆっくりとその門は開き、中への入門を許された。
「……やっぱり豪華ですね」
「……えぇ」
久しぶりに中へと踏み入れた屋敷内は入ってすぐに大きな木が立ち並び、それを抜けると今度は鮮やかな花が出迎える。
近くには水をやる使用人がおり、現れた黒い馬車を見て少し驚きの表情を見せていた。
(そうよね……この馬車、争ってる人の物だし)
馬車はゆっくりと進み、屋敷前にあるロータリーを回ると、扉の前で止まった。
「……メリー」
メリッサがいち早く出迎えた人物の名を呼ぶ。
止まった馬車の扉を開くとリスティアの侍従、メリーがいた。
「どうもご機嫌よう。フェリス様、そして、メリッサ」
ゆるふわに巻いた桃色の長髪に優しく微笑みを浮かべるエメラルドの瞳、メリッサと同じ侍従の格好を纏い、細く白い腕を差し出してくる。
「あなたが出迎えるなんて……」
「あら、意外だったかしら?ニコラス様とリスティア様は手が離せないの。分かるでしょ、今日がどんな日かを」
「え、えぇ」
「それと、フェリス様も……」
メリーは私が纏うドレスをじっくり見ているようだ。
「まだ、ニコラス様の事好きなんですか??」
「なんで……?」
「だって、そのドレス」
ふふっと笑いを入れ、口元を隠していく。
「ちょっとお嬢様に失礼でしょ。あなた、私と同じ侍従のはず。立場をわきまえなさい」
「おぉ、怖い怖い」
「……行きましょう、お嬢様」
メリーの出迎えを無視し、私達は馬車を降りた。
「場所は何処で……?」
「もちろん、貴賓の間ですよ。うんと豪勢な式なんですから。……でも、良かったですね」
「なにが??」
「リスティア様はあなたを呼ぶ事を最初は猛反対してましたよ。別に出て行った人間だし、ましてやあの冷酷な殺人者の元へ行ったんですから。
それでもニコラス様がどうしても、と言ったので仕方なく手紙を」
「どうしてニコラスが……」
「あらあら、フェリス様。あなたがもうニコラス様を呼び捨てで呼んだらいけないのでは??とても高貴な方ですよ」
「ちょっとメリー!あなた、さっきからその物言い可笑しいわ!??」
「……メリッサ、あなたも少し私に口を慎んだほうがいいのでは??」
「なぜ……?」
すると、先を歩いていたメリーが足をピタッと止め、振り返ってきた。
「私はハーベスト家の奥様と、そしてこれからアーデルハイト家に嫁ぐリスティア様の侍従になる。『位』が比べ物にならないくらい違うはずよ。そんな……」
ちらっと私を見てきた。
「いずれ、悲惨な最後を迎える者に仕えるなんて無駄よ」
「メリー!??」
メリッサがメリーへと詰め寄って行った。




