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「フェリスさんはこちらの領地には来た事は無いですか?」
「えぇ」
「ルーベルト家は国境付近を守っているので領地の要のような物です。抜かれたらアーデルハイト家がやってきて……」
お互いが争い合っている事…。
基本的な話から始まり、次第に領地の奥にある他の貴族の話へと移っていった。
「アドルフが当主である以上、令嬢の縁談を持ってくるのはいくつもありました」
「あの……?」
「なんですか?」
「お二人にはご両親はいないんですか?アドルフが当主なのは知ってますが、いまだに見た事ないんですが……」
私の問いにキサラさんは首を振ってきた。
「……両親は早くに亡くなりました。病気だそうで」
「そ、そうでしたか。すみません……」
「いいえ、……ですから初めは他の貴族が我先に、と縁談話を繰り広げていました。ですが……」
「そこで何をしている?」
「アドルフ……」
「なにって、話だよ?」
「……なんのだ」
不穏な空気が流れそうな気がしたので私は二人が近づく前に立ち、間に入っていった。
「私が聞きたいって言ったから」
私の言葉にちらりと見た後、キサラさんの方へと移す。
すると、キサラさんは立ち上がり、私とアドルフの間を通って行こうとした。
「待て、何処に行く?」
「……話すなら君が話したほうがいいんじゃない?《《ちゃんと》》自身の事をさ」
伝え終わるとキサラさんは去って行った。
久しぶりにみたアドルフは少し痩せたように見え、顎には髭も見える。
「……あの」
「座れよ」
アドルフは空席になった椅子へと近寄ると座り出した。
「……キサラに何を聞いた?」
少し苛立ちや不満が混じるような声で話しだし、私のことを見てきた。
「その、両親と、今まで来た人……」
「来た人……それは俺が追い出した奴のことを言ってるのか?」
「え、えぇ」
「なぜそんな事が気になる??もう終わった奴の事など知る必要などないはずだが」
「それはあなたの考えでしょ?……私は知っておきたい、まだ私はあなたの事あまり知らないし」
今の言葉が響いたのだろうか…。
見ていた目線を外していく。
「そんな風に真っ直ぐ見てくる奴、いなかったな」
私も椅子にすとんと座った。
「……じゃあ教えて。あなたの事」
「ここでか?」
アドルフは運動場の方を見るので、私も同じように目を移す。
「人気がある場所ではあまり語りたくないが」
「そ、そっか。そうだよね……」
「部屋に来い、そこで話してやる」
「えっ?」
「……なんだ、俺が手を出すとでも思ってるのか?」
戸惑う私にアドルフは立つと、ふっと笑う。
「………………そんな気は、いまは無い」
「いまは?……えっ?どういう意味?」
だが、アドルフはそんな私を差し置いて本宅へと向かい出していた。