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「アドルフって、意外とシャイなんだね」
「意外とはなんだ……意外と、って」
「ほら、また赤くなってる」
私は人差し指を立てアドルフの顔の前へと出すと、すぐにその手を払い除けてきた。
「いきなり来たと思ったら茶化しにきたのか?他に用があるから来たんじゃないのか?」
「……まぁ、それは」
「なんだ、言ってみろ」
最近なにも音沙汰が無い、っと言ってしまえばまるで恋してると思われかねないから敢えてそこは避け、テーブルに置かれた本へと目線を移した。
「……これはなに?」
積み重なった本の1番上を取り、表紙を見てみるが、かなり古いのかボロボロでタイトルが判別出来なかった。
「ただの医学書だ」
「医学?……なんで??」
「争ってるのは知ってるだろ?万が一、他の兵士が傷ついても治せるようにみているだけだ」
(……衛生兵とかいそうなのに)
「ふぅ~ん」
「興味ないなら聞くな……」
「いや、意外だなと思って」
「さっきから意外ばっかだな、なんでそう思うんだ?」
「だって一人で突っ走っていきそうなタイプなのに、部下思いというか、医学なんかより剣とかそういう事ばかりしていると思っていた。あの施設にも剣が散乱していたし」
「……」
「えっ、なんで黙るの?」
「フェリスは、人をよく見ているんだな……」
「えっ?……そう??」
「あぁ」
アドルフは椅子の向きを私の方へと向き直すと向かい合ってきた。
「な、なに?」
「……顔が赤いぞ」
ガタッと椅子を引き立ち上がると私は距離を取り、右耳たぶをつまみ、その温度を確かめた。
「……焦るとそういう行動するんだな」
「ち、違う。焦ってなんかない!」
「じゃあなんで立つんだ??」
さっきまで形勢は私だったのにいつの間にアドルフへと移ってしまい、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。
しばらくその状態で見つめ合っていると、扉をノックされた。
「……入れ」
アドルフの声を確認後、入ってきたのはキサラさんだった。
「あれ?フェリスさんもいたとは」
「あ、こ、こんにちは」
「なんだそれは、いつも会ってるだろう。なんで挨拶なんてしてるんだ?」
「べ、別に!」
私はこれの機を逃さず、入ってきたキサラさんの横をすぐに通り抜け部屋を出ていった。
「……フェリスさんと何してたの?」
「別に。急に来て、急に出ていった。それだけだ」
「ふぅ~ん」
「……お前まで、同じような事言うんだな」
ーーーーーーー
(はぁ……助かった)
部屋に戻った私は急いでベットに倒れ込み、体をくの字にしつつ丸まった。
「……お嬢様?」
「えっ!!?」
「なんで、そこに?」
「メリッサ。あなた、いまノックした???」
「えぇ、しましたよ。でも全然返事が無いから開けましたよ」
「ちゃんと返事してから開けてよ」
「……何も返事がないから焦ったのは私ですよ。病気かと思ったので」
「あ、あぁ、……そう。ごめん」
「あれ?お嬢様、耳、真っ赤ですよ!?やっぱり病気なんですね!」
すぐにメリッサは近寄ってくると丸まった状態の私に毛布を包んできた。
「大丈夫だって」
「いいえ、ちょっと失礼します」
おでこに掌を当て、熱を測ろうとするのを私は拒否し、払い除けた。
「な、何故??」
「だから無いから!」
「無いって、そんな事無いです。……顔まで」
「もういいよ、メリッサ!?」
少し私の心は動いてしまったようだ……。




