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それから、私はルーベルト家での生活を続けた。
といってもこの家でする事はほとんどなく、部屋にいては持ってきた本を読み、たまに外に出て散歩をするような日々が続いた。
「お嬢様」
「なに、メリッサ?」
「あれから、何もないですね。なんかそれがかえって不気味というか……」
「不気味って……まだ疑ってるの?」
「だって、急に優しくなったのにそれ以上何も接触してこないっておかしくないですか?」
「……もしかしてメリッサがそういう目で見てるから来ないのかもしれないね」
「えっ!?私!?」
「……嘘よ。なにかやることがあるんでしょ、一応貴族なんだし」
「それはそうですけど……」
でも私も少しは気にはなっていた。
あの日以降、アドルフと同じ本宅にいるのにまったく姿を合わせない。
引き篭もっている……といえばそれまでだが、ここまで何もないのは少し心配にもなってくる。
「……あの日、落ちたんですよね?お嬢様」
「えぇ……それは私が悪いから……」
「病気、なんてことないですよね??」
(病気……。でもそれも無くは無いかも)
「キサラさんに聞いても『忙しい』としか教えてくれませんし。もしかして寝込んでいるとか?」
「ん~……」
何も行動しなければ始まらないし、分からない。
行動をするべきだと思い、私はアドルフの部屋へと向かった。
コンコンッ
「……入れ」
(あれ?普通に声がした。寝込んでいるわけじゃない??)
恐る恐る私は扉を開いた。
「なんだ?」
「……起きてるんだ」
「はぁ??今、何時だと思ってる、昼過ぎだぞ」
開いた先のテーブルの上には幾つも本を重ね読んでいたアドルフがいた。
「何しに来た?」
「別に用はないんだけど……」
開いた扉の取手に手を付けたまま話す私にアドルフは中に入ってこいと言う。
「えっ」
「そのまま引き下がるのか、……フェリスは」
(いま、なんて……??)
思わず私は強く扉を閉め、中へと入っていった。
「私の事、フルネームで呼んでない……?」
「それがどうした?」
「どうして???」
「どうしてって……」
開いていた本をぱたんと閉じると、自身の隣の椅子を引いていった。
「……とりあえず座れ」
「先に私の質問を!?」
「そんな重要な事か、名を呼んだだけだぞ」
「だからそこが重要なの!なんで急に呼ばなくなったの?」
照れ隠しなのか後頭部を掻きつつ答えてきた。
「……お前とは、仲良くしていきたいからだ。呼ばれて嫌だったら元に戻す」
「ふぅ~ん」
「答えたぞ、なのにそんな態度か?」
何故かその時、私は強がり目を細め、座るアドルフに余裕そうな顔を見せた。
「そっか」
「そっか、って。お…………………フェリスはどうなんだよ?」
もう一度名を呼んだのを聞くと、私はゆっくり引いてくれた椅子へと向かい、隣に座った。




