27
キサラさんに連れられて私達はアドルフの部屋へとやってきた。
ノックをすると中からアドルフの声がし、ゆっくりとキサラさんが扉を開けていく。
(へぇ、こういう部屋なんだ)
私は入るなり目を右へ左へと動かし部屋の様子を伺った。
長方形をした部屋は二十畳ほどだろうか。
一人にしては大きく、入ってすぐに焦茶のテーブルと椅子。
壁には少し燻んだ茶色の本棚があり、そこには様々なジャンルの本が並べられ、隙間なく埋まっている。
テーブルの奥には一人では持て余す程のキングサイズのベットが置かれ、掛けられた毛布は少し形を崩し丸まった状態で置かれていた。
(もしかして、今まで寝てた?)
「悪いな、呼んで」
「いいえ」
「とりあえず好きな場所に座ってくれ。キサラ、持ってきてくれ」
「了解」
部屋を出る際、キサラさんが私に耳打ちをしてきた。
「多分嬉しいんだと思いますよ」
私はチラッとアドルフの方を見ると目が合うが、外された。
「少し待ってて下さいね」
キサラさんが部屋を後にしていくと扉付近で立ち止まる私達にアドルフが声をかけてくる。
「座れよ、そんな場所に突っ立っていなくても」
「えぇ。……さぁ、メリッサも」
「え、えぇ」
アドルフがテーブルの上座に座り、すぐに近くに私、そして隣にメリッサが座った。
「……」
「……」
「……」
三人共、緊張なのか言葉を発せずキサラさんが来ることを今か今かと待ち侘びている様子だった。
くしゅっ
私のくしゃみが部屋に響いた。
それが合図になったようでアドルフが声を出す。
「……大丈夫か?」
「え、えぇ」
「すまないな、落ちる前に助けられず」
「それは、私が悪いから」
私達の会話をメリッサが横目で黙り見つつも、目線は私よりもアドルフにあるようだ。
「……なんだ、侍従?」
「えっ、いや!」
すぐに目線を戻すと、下を向き手をモジモジとさせていた。
「メリッサ、私が悪いんだからそんな風に見るのはもうやめて」
「お、お嬢様……」
「ねぇ、アドルフ様」
敬称を付けずに呼ぶのはあの話し合いの場だけの約束だったので私は敬称をつけて呼んだ。
「……もう付けなくていい、普通に呼べ」
「えっ、でも、それは」
「いつまでもそれでは距離があるだろうが……」
「距離??」
(もしかして、私との関係を縮めようとしてる??)
「そう、じゃあ……アドルフ」
ただ名を呼んだだけだった。
だけど、呼ばれた当人は何故か少しだけ耳が赤くなっているようだ。
そんな時、ノックされ台車を押すキサラさんが入ってきた。
他に二人の召使いも一緒に。
「美味しそうですね」
「そう言ってもらえると嬉しいですね、さぁ、冷めないうちに。……アドルフも」
「なんで俺にも言うんだよ」
「いやぁ、……なんでかね」
緊張しつつも間を取り持つキサラさんのおかげで終始和やかに進み食事会は終わった。




