21
手渡されたお盆には一本のフランスパンが真ん中から斜めに切られ、白い器にはかぼちゃのスープ、そしてコップ一杯のミルクがあった。
「なんだか質素ですね」
「そんなこと言ってはダメよ、ここは軍事施設って言っていたし、それにキサラさんも言っていたでしょ。ここはあまり物がないって」
「そうでしたね」
「とりあえず頂きましょう。移動すると言っていたから」
テーブルに置き食べ終わると私達は着替え、鞄の中へと押し込んでいく。
「お嬢様、その格好でいいのですか?」
メリッサが指摘してくる私の格好。
昨日まではあの赤いドレスだったが、今日はあまり華やかさもない青いシンプルなドレス姿だ。
リボンがあるわけでもフリルがあるわけでもない、至って普通のワンピのようなもの。
「……えぇ」
これにした理由は簡単だ。
アドルフが興味がないとはいえ、昨日私を見る目がどこか不安にさせたからだ。
「では、行きましょうか」
屋敷の外には二台の馬車が用意され、その近くにはアドルフがすでに待ち構えていた。
片方は両方とも栗毛の馬が二頭。
そしてもう一つは鹿毛と黒鹿毛が一頭ずつおり、後ろには真っ黒で艶がある馬車を引いていた。
「じゃああっちに二人……」
キサラさんは栗毛の馬車の方を指差す。
「待った」
「どうかした、アドルフ」
「なんでコイツらが二人で乗るんだ?」
「なんでって、君も悪いんだよ。あんな風に怒っていたら乗りたくないからね。今でもそうだよ」
「あぁっ!?誰に物言っているんだ、キサラ?」
「じゃあ、私が乗ります、あなたと」
声を上げたのはメリッサだった。
「ちょっと、メリッサ??」
「お前か、侍従」
「お嬢様と一緒だと何をするか分からないし、私の気が持ちません。だから私があなたと乗ります。何か問題でも??」
「……おもしれぇ。いいぜ、乗れよ」
アドルフはすぐ近くにある鹿毛と黒鹿毛の馬車の扉を開け、乗るのを待ち構えていた。
「あっ」
メリッサが私の鞄を奪い、アドルフの元へと行こうとした。
「ちょっと、なんで??」
「……言ってたでしょ、お嬢様。侍従が持て、って」
「ほぉ、ちゃんと覚えてるじゃねぇか。道中が楽しみだな」
「メリッサ!?」
待ち構えている馬車へと乗り込むと自身はまだ乗り込んでいないのに閉めていった。
「……ねぇ」
「なんだ、フェリス=ハーベスト」
「メリッサにもしものことがあったら許さないから」
「……お前らは出来てんのか?二人ともお互いを心配してやがる」
私は少し詰め寄っていくが、キサラさんが止めに入った。
「ふんっ」
アドルフは扉を開け、乗り込むと強く扉を閉めた。
(……メリッサ)
私も栗毛の馬車へキサラさんと乗り込むと一路、ルーベルト家の本宅へと向かい始めた。
馬車内は四方に窓があり、座る座面は赤茶のソファだが、少し硬いようだ。
荒野を行く馬車はガタガタ…っと車輪の音を鳴らし、途中、石に乗り上げ揺れながら進むも私の目と気持ちは前を走る馬車へと向けられていた。
「気になりますか?」
「え、えぇ」
するとキサラさんは体を前方の窓へと振り向けた。
「……少しは素直になればいいのに」
ボソリと呟くが、私はそれを聞き逃さなかった。
「あの、アドルフっていくつなんですか?……あっ」
つい敬称をつけずに呼び捨てで呼んでしまっていた。
私の問いに体を戻すと『25』だと答える。
そして自身を『23』だと教えてきた。
「敬称なんていりません、そのまま呼んだら良いですよ」
「……そうですか」
(キサラさんって、ニコラスと同じなんだ……)
「失礼ですが、フェリスさんは?」
「私は……20、です」
「そうですか」
「メリッサも私と同じです。今までずっと長く一緒にいたから友人でもあり、かけがえのない人です。だから……」
話し終えると私は少し項垂れていた。
次第に馬車は荒野から再び森へと入っていった。
道中、キサラさんに本宅の概要を教えてもらった。
本宅は森を抜け、少し行った所にあるそうで、近くには大きな湖があり、その周りに軍馬を育て管理する厩舎があるそうだ。
来た時と同じ雰囲気の森を走り抜けると開けた場所に出るが荒野とは違い、周りには木が覆い緑豊かな場所にでた。
「あれが、本宅です」
キサラさんが指差す右手の窓から見える本宅。
荒野に立つ軍事施設とは雰囲気がガラリと変わり荘厳な感じだった。