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私は膝から崩れ落ちる感じに地面へと伏すと、左手で締め上げられた首元を摩った。
「ケホケホッ……」
「お嬢様っ、大丈夫ですか!?」
「えぇ……」
「よく覚えておけ、フェリス=ハーベスト。俺に楯突くとこうなるっていうことを」
見下ろすアドルフを私は摩りつつ、軽く睨む感じで見上げた。
「なんだ?その目は??まだ分からないようだな」
「もういいでしょっ!?」
メリッサが私達の間に入り込み両手を広げ行手を遮ろうとしてくれた。
「……侍従。お前に要はない。退け」
「嫌です。お嬢様を痛めるなら私にしてください」
「なに言ってるの?メリッサ!?」
「なかなか度胸のある侍従だな。……いいぜ、お前から先に壊すのも面白そうだ」
「やめてっ!?」
「は~い、そこまで!?」
争う私達の元にまた違う男性が近づいてきた。
「せっかくのお嬢さんなのに、またそういうことするんだね、君は」
「あぁっ!?うるせぇぞ、キサラ」
現れた男性はキサラと言うらしい。
アドルフと同じグレー色の髪は耳よりも短く、シュッとした眉とはっきりとした二重に緑の瞳。
鼻筋が通っており、鮮やかなピンク色をした唇。
髪に合わせるかのようなグレーのスーツは縦に黒色のストライプが入り、見た目若そうに見えるが、落ち着いた雰囲気を醸し出し、第一印象は『大人びた優しそうな人』だった。
「ちょっとごめんよ」
アドルフの脇を通り、私達の元へやってくると、私へと右手を差し出してくる。
「キサラ=ルーベルトです」
「る、ルーベルト……」
「驚かせてしまいましたね、思ってる通り、私とアドルフは兄弟です」
目の前にいる人もすぐ側にいる人の家族…。
そう知ると私は掴もうとした手を引っ込めてしまった。
「あぁ~……そうなっちゃいますよね」
「すみません……」
「おいっ、キサラが出してるんだ、掴め。フェリス=ハーベスト」
「ちょっといいって、アドルフ。凄みのある声なんて出したら余計に引っ込めてしまうよ」
「お前は甘いんだよ。いいか、人に恐怖を植え付ければ反抗は出来ん。出来たとしてもなんの脅威も無い、ただのおままごとだ」
「そんなんだから、冷酷な殺人者って異名つけられちゃうんだよ」
「はっ、悪かねぇな」
(この二人、タイプが全然違う……)
「お嬢様」
「………メリッサ」
「立てますか?」
「え、えぇ」
私は二人のやり取りの最中、ゆっくりと立ち上がった。
「あぁ……ほら。アドルフが横からちゃちゃ入れるから呆れて立ちあがっちゃったよ」
「お前がぬるいからだ」
するとアドルフはキサラさんから離れ、屋敷の方へと向かっていった。
「まぁ、いない方が話しやすくて良いんだけど。さて、中へ行きましょうか。次第に雨が降りそうですので」
キサラさんは岩盤が聳え立つ方を見始めたため、私達も同じように見ると、さっきまで青かった空の向こうに黒い分厚い雲が少しずつこちらへとやってきているようだった。
「あっ」
「持ちますよ、重たいでしょ。二つも持つなんて」
「いや、でも」
「いいですよ。こういうのは男性の役目です」
私とメリッサは思わずお互いを見合わせていた。
(こんなにも……)
「あの……」
「なんですか?」
「……さっきはごめんなさい」
「さっき?あぁ、いやいや気になさらず」
「き、キサラさんもルーベルト家の……」
「いいえ、私はアドルフの『召使い』ですよ」
「えっ!?」
「二人も当主なんて要りませんよね。あれは一応『兄』です」
「そうなんですか……」
「まぁ、詳しい話は後ほどで」
キサラさんは軽々と鞄を持ち、屋敷へと向かった。




