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客車から降りた私達を見てアドルフはバンッと強めに扉を閉めてきた。
(なんでそんな風に…?)
「あの、まだ中に荷物が……」
「あぁっ?!」
「ひぃっ!」
「メリッサを脅すのはやめて下さい。……私達、これが初対面ですよね?」
「だから?」
「だからって……」
(これが冷酷な殺人者と言われる人。
自己中というか他人を拒絶するタイプなのね)
チッ!?
舌打ちをし、また扉を開けると、押さえたままの左手の親指以外の指をトントンっと音を立てながら急かしてくる。
メリッサは慌てて客車に戻り中から白と赤い鞄を持ち出すとアドルフに頭を下げていく。
「もう大丈夫です、すみません……」
「おい、侍従」
「は、はいっ。なんでしょうか?」
「退け、閉めれんだろうが」
「あっ」
スススッ…と体をスライドさせながら私の方へと近寄るとまた強めに扉を閉めていく。
そして、何も言わずに客車を離れ、屋敷の方へと歩いて行った。
「大丈夫、メリッサ?」
「え、えぇ。怖いですね……」
「噂は本当なのかもしれないわね……あの態度にやられたって事ね」
「私が!」
「……大丈夫。まだ会ったばかりだからすぐに何かするとは思わないから」
「だと、良いですけど……」
「おいっ!さっさと来いっ!」
「本当に何もないのでしょうか??」
「……」
立ち止まっているアドルフの元へと私達はすこし駆け出し追いついていくと、それを確認し、また歩き出していく。
だけど私達はアドルフの二、三歩くらい後ろを様子を伺いながら歩いていた。
本当は隣に行くべきなのだろうが、体がそれを拒否していた。
すると急にアドルフが立ち止まり、ちらりと見てくる。
「フェリス=ハーベスト」
「な、なんでしょう?」
「お前は荷物を持ち歩くのか?」
「えっ?……普通の事ではないですか?」
クルッと反転し、私が持つ白いパンパンに詰まった鞄を強引に奪うと、すぐ下へと落としていく。
「なにするんですか!?」
「荷物は侍従が持つのが当たり前だろうが、なぁ??」
メリッサの方を見て訴えていく。
「この子だって持ってます。私が持っていてもいいのでは?侍従だからってなんでも任せるのは……」
「今はお前の意見など聞いてない。侍従に聞いてるんだ、黙れっ」
「黙れって……おかしいです」
「おかしい??」
「そうですよ。それはあなたの決めつけであって……うっ!?」
「お嬢様っ!」
アドルフは私の喉元に右手を差し込み、グッと指に力を入れ絞めようとしてきた。
「お前、俺がなんて言われてるか知ってるよな??」
「い、冷酷な殺人者……」
「あぁ、そうだ。噂を知ってるならどういう風になるかも知ってるよな?」
「く、苦しいっ」
「はっ!苦しいのは一瞬だ」
更にググッと力を入れ始めたのを見てメリッサが止めに入った。
「ちょっと辞めなさいっ。お嬢様から手を離しなさい」
「……」
「聞いてるのっ!?」
アドルフの目線は落とした鞄にあるようだ。
「私が持つから離しなさい!」
メリッサは落ちた白い鞄を持ち上げるとようやくアドルフは私の首元から手を離した。




