13
「ニコラス……」
「ずっと我慢していたのになぁ、もう限界だ」
ニコラスは胸元に手を入れると何かを探っているようだ。
(まさか……刃物?)
「メリッサ、早くこっちに!」
私の声に反応したメリッサは振り返り、こちらへと来ようとしたが、いち早くニコラスが腕を掴み首元へ短剣を突きつけていた。
刃渡が短い短剣だが、ピッタリと首にくっつけており、そこから赤い血が短剣を伝り細くツーっと下へと流れていく。
「メリッサ!?」
「お、お嬢様……」
「ニコラス、やめてっ!?」
「メリッサがいなければ君の支えは無くなる。アドルフの所に行き、噂通りの結末を迎えてもらおうか」
(……自殺しろ、と)
「アドルフの元には行く、それでいいでしょ?でも私は死なない。絶対に」
「ほぉぉ、でもそれはメリッサがいた場合だろ」
さらに首元に短剣を押し込み始めようとしていく。
「やめてって言ってるでしょ!?」
私達の言い争いが起こってる中、部屋へと入ってくる人物がいた。
「……こんな風になっていたなんてね」
声の主はリスティアだった。
「やぁ、リスティア」
「ニコラス様、そんな事しなくてもいいですよ。
どうせお姉様はあっちにいって惨めな最後を迎えるだけですから」
「……なにしにきたの?リスティア」
ちらりと私の事を見ては近づいてくる。
「お話しがあるんですよ」
「話し?」
「えぇ、でも私じゃなくて両親ですけどね。……言いたい事分かりますよね?婚約破棄して私がニコラス様と婚約し直す。
それをちゃんと両親に認めてもらわないと」
「……私は納得してる」
「そうですか、でも今は二人が待ってます。部屋に来てもらますか?」
「ふっ、確かにそっちが先かもしれないな」
ニコラスは首元から短剣を離すとメリッサの背を強く押し出し転ばせた。
「メリッサ!……大丈夫?」
「え、えぇ」
「リスティア、行こうか」
「えぇ!……あっ、でもその前に」
「んっ?」
リスティアは近寄ってきたニコラスに寄り添うと私達の前で熱いキスを見せつけてきた。
お互いに目を閉じ、二人だけの世界で繰り広げられるキス。
だけど、その最中、リスティアが目を開け、私と目が合った。
(……ざまあみろって事)
「……はぁっ。ニコラス様、とてもお上手です」
「君とするとその気になってしまうな。《《誰か》》さんとは違い」
キスを終えたニコラスが私の事をフッと笑いながら見てくる。
ーーーーーーー
「お待たせして申し訳ない」
両親が待つ朝食会場の場所に現れたニコラスの隣にはリスティアが右腕に絡みつくようにくっついて歩き、私達はその後ろをゆっくりと入っていった。
「こちらこそ足を運んでもらって申し訳ない」
「いや。……さっそくですが、話を進めさせてもらっても良いですか?」
「フェリスの破棄とリスティアの婚約、……それで間違いないと?」
「えぇ、見ての通りリスティアの事を愛している。……フェリスは」
扉のすぐ側でメリッサと立つ私に対し、チラッと見るとふぅ…と息をひとつ吐き首を振ってきた。
「残念ですが、私には合わない」
「そうでしたか、……申し訳ない」
父はテーブルの天板にくっつきそうなくらい頭を下げ謝っていく。
「なら、リスティアとの婚約認めてもらえますか?」
「えぇ、それはもちろん」
家のため、父は異論など唱える事なく私とリスティアの交代を承認し、あっさりと私は独り身となった。