12
「どうしたんだい、そんな大声をあげて。今までだって触れてきただろう??」
払い除けられ、手をバンザイの格好で私と対峙する。
「……ニコラス、私にいうべき事あるんじゃない?」
「いう事?……特にはないけど」
(どこまで白々しいの…。妹に手を出し、父には手紙まで送っているのに。私が何も知らないと思ってるのね)
「なに?僕はないけど、君はあるのかい?」
「えぇ、あるわ」
「へぇ、なにかな。教えてくれる?」
「……メリッサが来たら話すわ」
「なんでメリッサが必要なの?大事な話なら二人きりで話すべきだと思うけど?」
「いいえ、二人きりだとあなたが何をするか分からないから。だからメリッサが来るまで待って欲しい」
「ふぅ~ん」
私の心は早くメリッサが来ないかとソワソワしていた。
でも目の前にいるニコラスからは不穏な空気を感じ、気持ちは扉にあるが、目線だけはニコラスから外さないようにしていた。
「ねぇ、フェリス」
「な、なに?」
「こっちおいでよ」
ニコラスは私から離れ、ベットへと移動していった。
「なんで、そこに?」
「そんな風に睨む感じでは話しづらいし、いつもみたいに隣に座ってもらいたいなぁ」
「……いやよ」
「いや?何故?……婚約者だよね。そんな物言いでいいのかな、家柄を忘れたわけではないよね?」
「家柄とか……そんな事はもう、私には」
「ほぉ~。言うようになったね、君も。昔は僕を見る目は羨望の眼差しだったのに、今の君は《《拒絶》》しかない」
「遅くなりましたっ」
(メリッサ、良かった……)
部屋に入るなり不穏な雰囲気を感じ、メリッサはすぐに私へと目を向けてきた。
「ありがとう、メリッサ。ここに置いてくれる?」
「えぇ」
ゆっくり私の元へと近づくメリッサにニコラスが声をかけてくる。
「メリッサ、今日は何を持ってきたの?」
「えっと、レモンティーです」
「あぁ~……僕、嫌いなんだよね、それ。前言ったような気がするんだけどなぁ~」
「いや、そんな事は初めて聞きました……」
「侍従って相手の嫌いな物を持ってくるわけ?」
「その……」
「やめてっ。メリッサは悪くないでしょ。それにあなたがレモンティー嫌いなんて私も知らない。
というよりいつも飲んでいたじゃない!」
「はぁ~あ、……やっぱり君を選んだことが間違いだったよ。君に魅力を感じないし、もう少し『男』っていうのを理解するべきだね」
「……そうね、あなたはリスティアに手を出すくらいだし。私に魅力がないから迫ってきてもすぐ手を止める。言葉ではなんとでも言えるけど体は正直ね」
「あぁ、リスティアと寝たさ。……なんだ。あの日、君は目を覚ましたんだ」
「えぇ、全て聞いたわ!私を辺境地に送ることもね」
「そうか、そうか。聞いたんだ。じゃあ納得してるってわけね」
「えぇ、あなたと一緒にならない。なりたくもない!」
「つくづく女って怖いね~。心が決まったら強く出てくるんだから。でもさぁ、フェリス、一個忘れているよ」
「なによ……?」
ニコラスはベットから再び私が座る方へと向かってきた。
(何かする気だ…)
私はすぐに椅子から立ち、距離を取った。
「お嬢様」
メリッサも察してくれたようですぐに私とニコラスの間に体を入れてくれた。
「メリッサ、邪魔だよ。退いてもらえる?」
「……いえ、私は退きません」
「侍従だよね?」
「はい……」
「侍従がアーデルハイト家に楯突くなんて聞いた事ない。たった一言で君を路頭に迷わすことも可能なんだよ?どうする?それが望みならすぐにでもしてあげようか?……あぁっ!?」
ニコラスの怒号が響き、私達は体をビクつかせ口を閉じた。