昔話
これは、神話とも呼ばれる様な、古い話。
かつて人々は、”魔王アヴァドル”の出現により、追い詰められていた。誰もが、滅びは時間の問題だ、と絶望視している中、ある国の王子が立ち上がり、たった一人で魔王討伐の旅へと出た。
王子は十年もの時を掛け、幾つもの戦いに身を投じながら六人の仲間を集め、そして、魔王の城へとたどり着いたのであった。
荒れ狂う、赤黒い空の下。
魔王城、その最奥。激しい戦闘により崩壊した王の間で、禍々しき邪気を放つ異形の魔王と、純白の鎧を身に纏った騎士が戦っている。
「ガアアァァァアッッッ!!!」
「グオオォォォオッッ!!」
私は咆哮と共に、手に持った斧槍〈ハルバード〉を振り下ろし、三本目の魔王の腕を切り落とす。すると魔王は、苦悶の叫び声をあげて後退する。
約九年の時を掛け、ようやくたどり着いた魔王城。
六人の仲間たちは、ここに来るまでの四天王との戦闘により三人倒れ、結局この王の間までたどり着いたのは、”勇者”スレイア、”魔術師”クロエ、”聖女”エリシア、そして”白騎士”の私の四人。
しかし、その仲間たちも、魔王との戦闘で次々と倒れてゆき、随分と長い間、一人で戦い続けていた。今となってはその姿も、折れた巨大な柱の残骸に阻まれ、目視することは叶わない。
ただ、今の私には、仲間の生死を気に掛けている余裕など、有りはしない。
一瞬でも気を抜けば次の瞬間には、死。
薄氷の上を歩き続けるかの様な戦いであった。
「ーーーッ!」
魔王が何かを呟いた。すると最後の手に、紫の光弾が三つ生み出された。
魔王はそれを、白騎士へと放つ。
ソレは、魔王の持つ手札の中で、最も発動が早く、人を殺すには十分過ぎる威力が込められた魔術。
今の私がモロに食らえば、致命傷は避けられない。かと言って、回避行動をとれば、奴に余裕を与えてしまう事となり、より厄介な攻撃が飛んでくる事だろう。
そう判断した私は、高速で飛来する光弾を、迎撃するという選択をした。
一つ目を斧槍で切り払い、次弾を石突で弾く。そして最後、再び斧で叩き潰したのだが、その衝撃で限界を迎えた斧は、砕け散ってしまった。
白騎士は、内心舌打ちをしながら、それでも魔王へと突き進んだ。
一方魔王は、焦ったのか、無理な後退により体勢を崩しており、次の攻撃も用意出来ていない。
その様子を見た白騎士は、いける、と直感的にそう確信した。
長時間の戦闘により、私も、魔王も消耗している。が、しかし、魔王の魔力量は私のソレを、遥かに上回る。このまま戦闘が長引けば、先に倒れるのは私の方だ。
これは、最後の好機。
即座そう判断した白騎士は、魔王へと一気に畳み掛ける。
光弾を斬った勢いを利用して、もはや槍と化した斧槍を、残りの闘気を振り絞り、魔王目掛けて、投げ放つ。
「グゴァッ!!」
それは、魔王の腹を貫き、王の座の前の石の床へと、深々と突き刺さった。
あと、一手
白騎士は、腰から下げた剣を抜き放ち、魔王へと切り掛かる。
狙うは首。地面に縫い留められた魔王に、この一撃を逃れる術は無いッ!
魔王が、再び光弾を生み出した。
関係無い。差し違えてでも、ここで殺し切る。
「ハアァァァアアアッッッ!!!」
紫の閃光。
白騎士の剣は、易々と魔王の肉を切り裂き、そして、完全に断ち切った。
魔王の首が、宙に弧を描いて飛び、湿っぽい音を立てて地に落ちる。
(勝った)
魔王から気配が消えた。死んだのだ。
ただ……
「ゴボッ」
白騎士は、血の塊を口から吐いて、地に膝をついた。手から滑り落ちた剣が、甲高い音を立る。
その胸部には、ポッカリと、風穴があいていた。
(どうやら、ここまでらしい)
多分、心臓が潰れている。延命を試みようにも、闘気を上手く練ることが出来ない。
薄れていく意識の中。諦めにもに似た感情を抱いていた、その時
視界の端で何かが淡く輝いた。
白騎士は、視線だけを光の方へと向ける。
するとそこには、柱の残骸の影から出てくる、三人の人間の姿があった。長く、美しい銀髪の、法衣を身につけた美しい女に、輝く様な金色の髪の男。そしてその男の方に背負われた、燃える様な鮮烈な赤い髪の、黒いローブを着た女。
白騎士を見た銀髪の女は、言葉を失い、両手で口を押さえて固まっていた。
金髪の男は、白騎士に向かって何かを叫び、赤髪の女は、目を見開いて白騎士を見ていた。
(エリシア様に、スレイヤとクロエ……)
三人の生きている姿を見て、私は安堵した。
肩に背負われたままのクロエが、エリセアに向かって、何らかの支持を出していた。それに反応したエリシアが、我に帰った様子で白騎士の元へと駆け出す。
その光景を、私はぼんやりと眺めていた。
きっと、回復魔法も、蘇生魔法も間に合わないだろう。弱った魂は、肉体と乖離しやすいのだ。
緩やかに時間が流れて行く。
段々と視界が暗くなって行く。
意識が完全に途切れる寸前。白騎士は、光に飲まれた。




