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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なぁぜなぁぜ?赤ずきん

作者: 夏目 一世



 昔々、あるところに赤ずきんという女の子がいました。赤ずきんはお母さんにお使いを頼まれます。


「赤ずきん、貴方は森に住むおばあちゃんに薬を届けてね」


「はい、分かりました。お母様」


「よろしくね赤ずきん」


「はい。お母様、遂行させて頂きます。赤ずきんの名にかけて」


「手段は問いません。何年かけても遂行さえすればね」


*  *  *


 なんやかんやあって赤ずきんは、森に住むおばあさんのところに、行くことになりました。


 おばあさんのところにつくと、まず異変に気が付きます。おばあさんよりも強い気配が、家を取り巻いていたのでした。


赤ずきんは、警戒しつつも部屋の中に入ります。


「おばあ様、お久しぶりです」


「赤ずきん、久しぶりね」


赤ずきんは声が違う事を感じました。


「おばあ様、なぜ声がいつもと違うのでしょうか?」


「それはね、風邪をひいているからだよ」

「ほんとうにそうなのですか」

「そうよ」


 おばあさんの応答速度が、いつもより0.75秒早いのを感じます。


「そうなのですね、嘘はないですか?」

「嘘じゃないよ、赤ずきん」

「そうですか。もう一つだけ質問です。なぜベッドがギシギシいっているのですか?」

「それは食べ過ぎて重くなったからだよ」


「そうですか」


 目からは光が消えた赤ずきんは、隠し持っていた毒のナイフで、おばあさんの首元を掻き切ろうとしました。

 すかさず、おばあさんに化けていたオオカミは、自慢の大きな腕でそれを押さえます。


「勘の良いガキだな、俺がおばあさんだったらどうするんだ?」


「なぜ?貴方とおばあさんを間違えるの?」


「そりゃ、上手く変装出来てただろうが」

「なぜ?おばあさんの心拍数や発汗量も真似できないのにそんなこと言うの?」

「そんなこと出来るわけないだろうが」

「じゃあ、なんで上手く変装出来たと思ったの?なぁぜ?」


「うっ、うるせぇ。喰ってやる」

「戦闘開始から話しかけてきたのは、貴方なのに対話を放棄するのはなぁぜ?」

「だまれ」


 ぐるぐると唸りながら、オオカミは手に力を込め始めます。


「オオカミなのに力が弱いのはなぁぜ?」

「なっ、なんで俺は本気だっ!」


 オオカミは全力で力を入れていますが、赤ずきんには敵いません。


「それが本気なの?体のリミッターを外せないのに本気だと思っているのはなぁぜ?」


「クソガキがぁぁ」

「敵わないのに向かってくるのはどうして?普通なら逃亡一択なのにそれすらも放棄するのはなぁぜ?」

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」

「仕方ないわね。私が言う全ての質問に、納得出来る答えを出せたら、逃がしてあげるわ」


 オオカミは腕を握られ、とても逃げられる状況ではなかったため、赤ずきんの質問に答えることにしました。油断があれば、首を飛ばしてやろうという魂胆です。


「私を食べようとしたの?なぁぜ?」

「美味そうだったから」


オオカミは虎視眈々と首を狙います。


「肉の総量が少ないのに?」

「量より質だ」


 ですが腕を動かす事が出来ませんでした。


「私よりも質が高い子供は沢山いるのに?」

「たまたま」

「じゃあなんで?私のおばあさんの家を知っているの?」

「調べたからだ」

「調べる労力をかけたら、他の獲物を捕れそうなのに?なぜ私なのかしら?」

「サンクコストを知らないのか、頭に入れときな」

「ふーん」

「なんだよ」

「横文字を使うことが格好いいとか思ってるの?なぁぜ?」

「クソっ、思ってねぇよ」

「まぁ、いいわ。私を質が高そうと思ったのはなぜ?」


 オオカミは尖った歯をむき出しにして赤ずきんを見ました。


「若え人間の方が柔らかくて美味ぇだろうが」


「人間よりも柔らかい肉を持つ動物は他に居るのに?なぁぜ?」


「人間は簡単に仕留められるだろう」

「人間の復讐心は凄いのを知らないの?」

「知るかクソ」

「貴方の命を握っているのは私なのに、わざわざ悪態をついて寿命を縮めるのはなぁぜ?」


オオカミは怒りで血管が切れそうでした。その憤怒と共に力が増していきますが、頭は今までにないくらいに冴え渡っています。


「人間の肉はあまり美味しくないのに」

「弱そうな奴だったら誰でも良かったんだぁぁぁぁぁぁぁ」


 オオカミは怒って攻撃する振りをして、赤ずきんの虚を突くことに成功しました。


 オオカミは、赤ずきんに握られていた腕を、自分の爪で落として、逃げ出しました。

 

 あの無機質な目が恐ろしくなったからです。


 首を切ろうとするとすぐさま、それに勘づいてにやりと嗤う赤ずきんには敵わないと、今更ながらに思ったからです。


 オオカミは、野生の勘を信じることにしました。




 オオカミは血が滴る右手を押さえながら、森へと走り出します。






必死に。











必死に。







必死に。




 オオカミは森の奥へとやって来ました。はぁはぁと荒い息が静かな森に響き渡ります。そしてそれに気づいて息を殺しました。大きな音を立てては、赤ずきんに見つかってしまうからです。


後ろを振り返っても誰も居ません。



前を見ると赤ずきんが居ました。




「質問の途中なのに自分の大切な腕をきって逃げるのはなぁぜ?」


 赤ずきんは何か楽しい事があるような元気いっぱいの顔で、朗らかにオオカミの大事な腕を抱えています。


 少女のずきんは普段よりも赤黒く染まっていました。オオカミの血は、どうやら赤ずきんのずきんの赤色よりも濃いようでした。


「ばっ、ばけもの」

「なぁぜ?」


 オオカミは尻もちをついて、赤ずきんから離れます。


「だから質問に答えれば良いって言ってるじゃない。そうすれば生かしてあげるわ」


 オオカミには体力も力も何もかもが残されていません。赤ずきんの要求に従う他に選択肢は残されていませんでした。


「今までに命乞いをした子供を殺したのはなぁぜ?」

「食べるためだ」

「わざわざ逃がして恐怖させた後に食べるのはなぁぜ?」

「………」

「私には食べるためだけだとは、思えないわ」

「………」


オオカミは黙ったまま震えていました。


「静かになったのはなぁぜ?」

「だまれだまれ、どういう風に食べたって良いだろうが。何をしようと俺の勝手なんだよ」

「そう」

「大体話しが長ぇんだよ」


オオカミは自暴自棄になりました。


「確かにそうね。でも貴方がいったように話しが長いのも私の勝手でしょ。自分の言ったことを、覚えていられないのはなぁぜ?」


「くそくそくそくそくそくそくそ」


 オオカミは自分の毛をむしり取り始めました。常軌を逸する行動ですが、赤ずきんの顔は何の表情も貼り付けてはいません。

 深淵のような黒い瞳はただじっとオオカミの爪を見ていました。オオカミの爪には毟り取られた毛が何本もくっ付いています。毛にはやはり血がついていました。血のお陰で爪にぺっとりと毛がついています。


「可笑しくなっちゃったから逃がしてあげるわ」


 赤ずきんはオオカミに背を向けて去って行きました。オオカミは毛を毟り取るのを辞め、ボーッと赤ずきんの遠ざかるを見ていました。


*  *  *



 オオカミが赤ずきんに見逃されてから五年が経ちました。オオカミは赤ずきんを思い出しては、不安な日々を送ります。しかし、次第にその恐怖は薄れていきました。そして、奥さんオオカミが出来、子供のオオカミが出来、順風満帆な生活を送っていました。ですが、赤ずきんの事を完全に忘れる事は出来ませんでした。ですから、人間を食べることは辞めました。彼の家族も同様です。


奥さんオオカミは、オオカミが一人で震えているところを見つけ優しく介抱してくれた性格がとても良いオオカミです。ころころと笑うときの声が、とてもとてもかわいらしいオオカミなのでした。


 息子と娘のオオカミは、二人ともやんちゃで遊び盛りです。元気いっぱいで奥さんオオカミとオオカミにいたずらをするのが大好き。

 最近のお気に入りは、隠れんぼをして遊ぶことです。

 日が暮れるまで、帰って来ないこともあり、オオカミ達を心配させます。

その度に二人を叱るのでした。

二人は反省しつつもにやにやとします。そんな子供達と奥さんオオカミに囲まれながら慎ましく生活していました。


 そんな生活がオオカミは大好きで、いつまでもそれが続いて欲しいと思うのです。



ある日の事です。トントンと家の戸を叩く音が聞こえました。

それは良い天気の日でした。


奥さんオオカミが外に出ます。


奥さんオオカミの首を持って赤ずきんが入ってきました。


奥さんオオカミは、口からだらんと舌を垂らしていました。首からは血は滴り落ちてもいます。

完全に胴体と切り離されていました。


 オオカミは二人の子供達を逃がそうと動きます。

しかし、オオカミはアキレス腱を赤ずきんに切られました。赤ずきんは首をオオカミの身の前に置いて、子供達の方へと歩いて行きました。

子供達をオオカミの目の前に連れてきて斬りつけます。



「いだぁ゛ぁ゛ぁ゛、パぁ゛ぁ゛パぁ゛」

「いやぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


赤ずきんは目の前で二人の子供達をゆっくりと斬りつけます。オオカミは必死に守ろうと腕を使ってもがきますが、届きません。


「いだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


 二人の声は、深い森の外側まで聞こえてしまいそうな位に大きなものでした。

 赤ずきんは、痛みが最大になるように気を付けながら二人を痛めつけたのでした。


子供達の泣き声が止んだ後、赤ずきんはオオカミに話しかけます。

オオカミは何も出来ない、守れない自分に悔しさでいっぱいでした。


「貴方だけのうのうと暮らしていけるのはなぁぜ?」

「貴方だけ幸せそうなのはなぁぜ?」

「ひどいことをしたのに救いの手が出されるのはなぁぜ?」


「なんでなんでだ、俺はいいでもあいつらは関係ないだろうがぁぁ」


オオカミは大粒の涙を流しました。一矢報いてやる。オオカミはそれしか考えられません。

 近くに来た赤ずきんの顔を、大きな腕で斬りつけようとしますが、赤ずきんはそれを蹴りつけました。また、オオカミには為す術がありませんでした。


「関係はないわ。でも、私が貴方を始末したら関係してしまうでしょ。少しでも復讐されないように気を付けないと。それに、もしかしたら、彼等も貴方と同じように、人間を食べるようになるかもしれない」

「そんなことで」


オオカミは絞り出すように声を出しました。


「私にとってはそんなことじゃないの。お父さん、お母さん、お兄ちゃんに、お姉ちゃん。皆、貴方が食べたのよ。私はそれの生き残り。私は復讐だけを考えてきたの。だから分かるでしょう。復讐心はこわいって。でも、それも今日で終わり。」

「…………」


「覚えてないでしょう、良いのよ。貴方に最大の悪意をプレゼントして、無念の内にこの世から、消えてくれればそれだけで」

「………」


「逃げ出せたと思った?遠くに行けば、見つからないと思ったの?」


「何も言わないのね。そろそろ終わらせましょう」


 オオカミの頭にも復讐心しかありませんでした。なぜ俺の家族がこんな目にと。

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ


「貴方が悪いのに私のせいにするのはなぁぜ?」


 オオカミからは最期まで謝罪の言葉はありませんでした。

オオカミは最期に


「人間を許さない」


と言いました。


「私もおまえを許さない」


赤ずきんは言い返しましたが、オオカミはそれを聞いたかは、分かりません。



 赤ずきんはオオカミの死体を燃やしました。血溜まりになったオオカミの家ごと全てをです。そして、赤ずきんの家族の血とオオカミの家族の血が染み込んだ赤い頭巾を放り捨てました。


 ゴーッと燃える火からはなぜ?という嘆きにも思える響きが聞こえてきます。



 今の人達にはオオカミの呪いがかかっているのでしょう。


 赤ずきんがどうなったのか知る人は居ません。





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