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呪われ騎士と押しかけメイド

豪華絢爛たる王宮の大広間には、各地からやってきた貴族の紳士淑女が主賓の登場を今か今かと待ちわびている。久方ぶりに王族の主催で開かれる夜会だ。既に晴れやかな賑やかしさを醸しだして然るべきものだった。


 王族襲撃から端を発した一連の騒動の内容は列席者の間で噂となって飛び交っている。解決してから三ヶ月が過ぎたというのにそれまで王族と騒動に関わる者は誰一人として公の場、催し物に顔を出すことをしなかった。当然明るい話題だけに留まらず風聞たしかでない流説に近しいことまで出てくる。


 だからして、彼ら彼女達が口にする話に呪われ騎士が登場するのも当然であっただろう。かねてから化け物の姿をした騎士がいたことは誰もが知っており、そしてどうもさる事件に関わっていたこと、今回の夜会に登場することが口々に伝播していくのだ。


 ある者は眉を潜めた。ある者は本当に呪われた姿かどうかということに興味を惹かれていた。またある者は穢らわしいから見たくないという態度を隠しもしない。


 そして、ある者はそんな輩を遠い目で眺めながら友の晴れ舞台に胸を躍らせていた。


(まさかこんな日が来るなんてな)

「おい、アラン。まだだろうか? なんだか俺まで緊張してしょうがないぞ」


 また、ある者はこのところつるむようになった友に呆れられながらも緊張した面持ちで待ち構えている。


「お、いよいよだぞ」


 そして、遂に国王と王太子が現れた。万雷の拍手で迎えられ王族らしい振る舞いと挨拶をしている。


 非常に、複雑な気持ちなのを押し隠して王族たらんとしているのを気づいた者は、きっと誰もいなかっただろう。


 短くも威厳に満ちた挨拶に続き、今宵夜会が開かれた趣旨について語られる。いわずもがなだが、王女シャルロットの会期祝い、そして一連の事件で活躍した騎士を称えるためのものであると。


 一斉にざわついた。そして、王女の登場に視線と意識が集中する。気品溢れる清楚なドレスが実に似合うシャルロットに、誰もが感嘆を漏らし頬に朱をさす。一連の事件を経て、一人の少女から女性として成長した美しさを感じとれる佇まいだ。


 続いて件の騎士の登場となったが、つい今ほどの熱気と好意的な反応と打って変わっていた。皆、ざわつきはすれども好奇さを隠そうともしない。呪われ騎士であると、言葉にしなくてもわかっていたのだ。


 だが、かの騎士の登場は誰もがあっと声を失ってしまうほどに裏切られることになった。想像していた毛むくじゃらに覆われた化け物はどこにもいない。強く引き締まっていてゆるみのないキリッとした、いかにも真面目そうで逞しい騎士だったのだ。


「この場において、レヒュブルク王国国王の名において申し渡そう。エリク・ディアンヌを我が娘シャルロットの専属騎士に任命する!」


 どよめきと共に、驚きが広がっていく。かねてから呪われ騎士の名がエリク・ディアンヌであることは周知の事実であった。そして、今自分達の目の前にいる彼こそがそうであるのだと。


 そして、次いで執り行われる厳粛な任命の儀式がはじまり、国王の手にした剣がエリクの肩に置かれる光景を目にして、列席者達は静かに理解していく。


 もう、呪われ騎士などはいないのだと。


「汝、いついかなるときも王女を守り、盾となり剣となることを誓うか?」

「誓います。この身はシャルロット様の盾となり、剣となり、命に替えても守りぬきます」


 そして、シャルロットの表情が一際綻び、国王が歯軋りをし、王太子が凄まじい形相をして睨んでいることに気づけた者は誰一人としていなかっただろう。


 宣誓とともに手の甲に口づけをする。そして大広間の一隅から二つの拍手が、つられて少しずつ広がり、喝采のそれと変わりないほどに大きくなっていく。


(本当に、呪いは解けたのだな)


 続いて移り行く晩餐の時の中で、エリクは静かにゆっくりと実感していく。公の場に出ることも、押し寄せる紳士淑女がくれる差し支えない挨拶、にこやかな態度は当たり前のことだが、人として接せられることなど、長い間なかったのだ。


 だが、なによりも今エリクにとって嬉しかったのはシャルロットの隣にいられるということだった。


「シャルロット。大丈夫か?」


 祝いの席とはいえ、エリクはシャルロットの護衛だ。たしかな喜びを胸に秘めながら気遣った。


「はい。エリク様は、いかがですの?」

「少し疲れた・・・・・・・・・・こんなに大変なものだったかと驚いているよ」

「まだ夜会ははじまったばかりですのよ?」

「徐々に馴していくさ。これからが大変だからな」


 そう。まだまだ問題は山積みなのだ。


 エリクとシャルロットに罹っていた呪いは、解けた。


 二人が予想もしなかった方法によって。そしてその方法はエリクとシャルロットの関係に変化をもたらした。両想いの男女、という変化を。


「で、ではではわたくしとエリク様が愛しあっているということは呪い的にも魔術的にも証明されたということですのね!?」


 呪いが解けたすぐのとき、受けた説明にシャルロットはそうして浮かれていた。エリクトしては彼女のように浮かれることはできなかった。シャルロットを目に入れても痛くないほど可愛がっていた国王と王太子の逆鱗に触れてしまっていたのだから。


「処刑」

「処刑」


 二人はエリクに向ってそれしか言わなかった。


 自分の気持ちが知られてしまって恥ずかしいというだけでなく、二人の怒りの鎮め方についてエリクは懊悩した。それだけでなく、二人の立場は王族と一介の貴族だ。身分違いにもほどがある。


 そもそもが成就すると期待して想いを告げたのではない。今際の際で、もうこのときしかないという土壇場であったから告白することができたのだ。なにもかもエリクの想定を越えていた。


 そして、呪いが解けてから迎えた事態、喧噪、やりとり。様々なことを越えてから辿りついた落としどころがエリクの専属護衛騎士という立場だった。


 そうでなければ、シャルロットはまた王宮を出て使用人に扮してエリクの元へとはせ参じてしまうだろう、と。


 常にエリクが側にいてくれるシャルロットからすれば喜ばしいことだったが、エリクとしては複雑だった。エリクにしてみれば以前よりややこしい立場になってしまったのだ。しかも常日頃国王と王太子の監視の目も感じるし、何度も死を迫るほどの念押しをされているのだから。


 両想いだとわかっても、愛しあっている間柄となってもそれで終わりというわけにはいかないのだ。


 サムとマリーも、何故か乗り気だ。相談をしても腹を括れだの婿入りしろだの、それしか言わない。 


「? どうかなさりまして?」

「いや・・・・・・・・・・こっちの気も知らないで呑気だなぁって」


 二人の元へ挨拶に来る者が少し収まった隙に、エリクはふと漏らし、シャルロットの性格が羨ましくなった。


「まぁ、ひどい。わたくしでも色々と考えているのですわよ?」

「ほう。例えば?」

「お母様がどのような苦労をされていたのかというのを伺っているのですわ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「お父様がおっしゃっておりましたわ。身分違いの恋はわたくしの好む物語とは違って結ばれて終わりというわけではない。むしろ苦労のはじまりであると」


 シャルロットは事件終息後、母親がしていたボランティア、寄付の活動を積極的にしている。それだけでなく、王族の仕事について勉学をはじめている。


 シャルロットは、エリクが考えている以上に成長をしているのかもしれない。命を狙われただけでなく友だとおもっていたジャンヌの裏切り、そして処罰の決定を経てもシャルロットは少し悲しそうにしただけで言及しなかった。


 それが、どんなに過酷で辛いことか側にいるエリクも少しばかりは理解できている。自身も体験しているのだ。儀式を終えたのち、エリクとシャルロットの元へと挨拶にくる貴族への対応、王族の護衛騎士として求められてる振る舞いをこなしこと、こちらを爪先から頭の天辺まで具に値踏みしているような目つき。


なにより、尊敬していた上官、今回の企ての首謀者オーランが余命幾ばくも無い状態であるということもまた、エリクに衝撃と深い懊悩をもたらしている。


 魔術師を口封じに殺めようとしたとき、オーランもシャルロットと同じ死の呪いを受けてしまったのだ。その呪いを解く術を、彼は持ち得ない。


「ですが、お母様は幸せだとわたくしにいつも、おっしゃっていたのです。辛いことも苦しいこともあったけれど、お父様と一緒になれたことが。お兄様とわたくしに出会えたのだから、と」

「・・・・・・・・・・そうか」

「だから、わたくしもお母様のように少しでもなりたいとおもっています」


(負けてはいられないな)


「あら、アラン様。エドモン様」

「ご機嫌麗しゅうぞんじます。シャルロット様」

「お目にかかれて光栄でございます。王女様。そして我が友エリク」

「なんだ、お前も来ていたのか」

「おいおい。まだ夜会ははじまったばかりだぞ。なに疲れた顔しているんだ?」

「これからドンドンこういう機会が増えていくぞ。今からそんなんで大丈夫かよ」

「・・・・・・・・・・さぁな」


 きっと、これからエリクと、そしてシャルロットには呪いに罹った以上の苦難が待ち受けているだろう。


「けど、なぁエリク」

「うん?」

「よかったなぁ、おい。本当によかった」

「・・・・・・・・・・ありがとうアラン」

「うん。もうなにも問題ないな。あとは結婚だけだ。わっはっは!」

「っ、」

「そうだ。ちょうどいい機会だ。ご令嬢と挨拶をするというのはどうだ? 今のお前なら引き手数多だ」

「いや・・・・・・・・・・いい」


「きゃあ!」

「っ!」

「も、申し訳ございません・・・・・・・・・・・」

「足元をよくみろ」

「はい・・・・・・・・・・申し訳ございません・・・・・・・・・・」

「たく、ふふ」

「?」

「エリク?」

「いや。やっぱり、シャルロットの側はこれからも一生離れられないとな」

「!!」


 それでも、きっと大丈夫だろうとおもった。


「え、エリク様・・・・・・・・・・・エリク様・・・・・・・・・・」

「うん?」

「好きですわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「!?」

「ああ!」

「王女様!?」

「エリク・ディアンヌウウウウウウウウウウウウウウウ!! シャルロットになにをしておるかあああああああああああ!!」

「やはり処刑だ処刑いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 今、こんなにも味わっている幸せな苦労などきっとこの先ないのだろうから。




                                     完

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