真相。呪われた理由
罪を犯した者は例外なく騎士隊舎の敷地内にある獄舎へと入れられる。罪に応じて層が分けられていて罪が重い者ほど下の層に割り振られる。オーランとジャンヌは最も重い刑罰が科せられる最下層へと入れられることになった。
傷と原因不明の喀血により、ひどく衰弱しているオーランは取り調べができないので、必然的にジャンヌ一人がすべての追求を受けることになった。
とはいえ、彼女達が企てた計画はすべて日の光を浴びているので目下のところ騎士団が把握していることにジャンヌが首肯するかしないか、そして経歴と動機について焦点が当てられていた。
ジャンヌは、飄々としていながらも素直だった。騎士が尋ねることに余計な茶々を入れることも、反論をして逆らうこともせず赤裸々なまま語った。
オーランは実家であるオーヴェンヒルム家が没落し領地から離れたあと、伝手を頼って養子になった。毎日の鍛錬、必要な教養と勉学を身につける努力を怠らず養子先のしきたりを覚えることに熱心だった。
並大抵な努力ではなかったが、オーランは耐えていた。彼には一つの望みがあったからだ。幼い頃に出会った、家同士の繋がりで中が良かった令嬢にふさわしい男になって再会し、そして妻に娶ること。それだけだった。
手紙の交流しかしていなかったが、それでも彼は直向きだった。騎士になったのも王宮で働きだした彼女、今は亡き王妃と再会し交流を深めた。
安い指輪しか用意できなかったが、それを渡したのは決意だった。自分の気持ちを形に表したつもりだった。いつかその指輪を薬指に嵌めて、自分の隣にいてほしいと。
しかし、彼の望みは破られた。先の王太子、現在の国王に見初められて妃となったのだ。オーランが悲しみに打ちひしがれたのは言うまでもない。
それでも、彼は王妃との思い出を糧に、彼女への愛を貫こうとした。例え結ばれず、自分の気持ちが届かなくなっても彼女に尽くそうと。
オーランが騎士団に入り、一つの隊を指揮する立場になってすぐ、王妃が病に倒れた。オーランは毎日祈り、食も断った。しかし、王妃の病は癒えることなく命を落としてから彼は変わった。
愛する人を失い懊悩の果てに、ある考えに行き着いた。王妃の死の原因は王族とこの国にあると。
王妃の影響ではじめた修道院への寄付をしているときから、王妃の多忙ぶりを聞いた。そして末の王女を産んでから体の不調をきたすようになった。降って湧いた疑念は妄想に、妄想は歪んだ事実へと変じるのに長い時はかからなかった。
「つまり、オーラン団長の動機は怨恨だと?」
「そういう具合ですね」
取り調べをしているアランは、あっけらかんと肯定したジャンヌにおもわず天を仰ぎたくなった。今までの大事件を企てた根本が、的外れと差し支えない個人的事情によって引き起こされていたとは、到底信じがたかった。
なにより、アランにとってオーランは尊敬すべき上司であり、立派な人物だった。そんな歪んだ愛憎を抱えているとはすぐに受け入れることができていないのだ。
「くだらないとおもいますか? 人間には、生きる理由が必要なのですよ。例え報復であったとしても、生きる力となるのです」
「じゃあお前はなんのために生きていた? オーラン・オーヴェンヒルムに協力していたのは?」
「忠誠心です」
間髪を入れずに堂々としながら答えたジャンヌに、アランは憎たらしくなった。手錠と鎖で繋がれ、囚人であることを一つも恥じていないし悔いてもいないという態度にしか見えない。
「それじゃあ、魔術師を利用したのは?」
「少しでも自分が怪しまれないように。王族がすべて死に絶えて王国が滅びる光景を遠くから眺めたかったから。そうおっしゃっていましたよ」
そして、呪いという形で襲おうとしたのも病で死んだ王妃への意趣返しがしたかったのだと、ジャンヌは語ってくれた。決して人智の及ぶところではない怪しげな術を使って王族を苦しめたかったと。
ディアンヌ邸にいるとき、命を狙おうとしなかったのは怪しまれることを防ぐため。そして失敗した計画をどう立て直すかの時間稼ぎのためであったことも。エリクを呪ったのもシャルロットを別の場所に移動させてその隙をついて正体不明の誰かに殺されたという体にしたかったのだとも。
王女を攫ったあと、他国へ連行し戦争の火種を作るつもりであり、その隙に王都で反乱をおこすつもりだったことも、明朗に語ってくれた。
大人しく素直に喋るジャンヌが、しかしアランと一緒に聞いているエリクにとっては不快だった。今一番彼が知りたいことを何一つ喋ろうとしないのだ。
「こんなところでしょうかね。ああ、そうだ。あと一つ忘れてました」
「なんだ?」
「オーラン様がエリク様を引き立てた理由です」
「・・・・・・・」
「不思議におもいませんでしたか? 呪いでおそろしい異形の化け物となったあなたを引き立てて辞めさせなかったのを。いつの日かあなたを利用するつもりだったんですよ」
「な、」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「呪われ騎士なんて人目を引く存在がいれば、いつかオーラン様が行動を起こそうとしたときそちらに目がいく。例えそうでなくとも怪しまれても罪を被せることができる。そういう存在として扱われていたのですよ」
「こいつ・・・・・・・・・・!」
「しかし、まさかその呪われ騎士に足元を掬われることになろうとは。おもいもしませんでした」
「この・・・・・・・・・・言わせておけば!」
「いい。アラン」
怒り心頭で身を乗りだそうとしたアランを、エリクは押えた。不思議なことに憎らしいとも腹立たしいともおもわなかった。却って、強い憐れみを覚えた。
「王妃様は、オーラン団長からもらっていた手紙も指輪も、大事に保存していた」
「はぁ?」
「形こそは違うかもしれない。だが、王妃様なりに団長のことを大切におもっていた証だ」
「なにがおっしゃりたいのですか?」
「オーラン団長がすべきだったことは恨みによって生きる力を得ることではなく、別の生きる目的を探すことだったんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺は、そうおもう」
それだけ言い捨てて、あとのことをアランに任せて牢屋を出ようとした。これ以上、エリクが求めていることをジャンヌは喋らないだろうと、そうおもった。
目下エリクが一番気を割いているのはジャンヌの語る事件の詳しい全容ではなかった。救出してから血を吐き、そのまま意識を失って目を覚まさず危篤状態に陥っているシャルロットのことだった。
聴取を終えて王宮に赴くと、待ちわびていた国王と王太子の元へとすぐに案内された。二人は対面すると臣下の礼も無視して報告をせがんだ。しかし、望んでいた内容ではなかったために酷く落胆した。
「シャルロット王女様は、どうでしょうか?」
「変わらん・・・・・・・いや、むしろ衰弱していくかぎりじゃ」
「・・・・・・・・・・さようですか」
「やはり、考えられることは一つだ」
王太子が、ある仮説を話した。シャルロットの身になにがおこっているのか。それは病ではない。王宮にいる典医も匙を投げた原因不明の異変。それは、かつてエリクに降りかかった現象と共通点があった。
すなわち、呪いだ。
魔術師が本来エリクを狙ってかけようとした呪いが、なんらかの理由でシャルロットに罹ってしまったのだ。そうとしか考えられなかった。
図らずも、ジャンヌとオーランは本人達が果たそうとした目的の一端を果たしかけているのだ。
「くそ、」
唯一呪いを解く方法を知っているであろう魔術師は、なにも語っていない。何故だかシャルロットの状態を話すと「そうか、そうか」と満足そうに笑ったのみで、その後は壁になにか奇怪な文字や紋様を書き連ねているばかりであると。
手がかりは、ないに等しい。シャルロットを救うこともその手段すら探す手段すらなく、悲嘆に暮れている二人を、眺めるしかエリクにはできなかった。
国王と王太子と同じ、いやそれ以上のやるせなさと無力感に苛まれながら。




